第26話

 十分じゅっぷんも蛇に噛まれ続けたペストマスクは、糞尿を垂れ流し、全身を痙攣させている。


 呂律も回っていないが、会話ができないほどではない。


 凪花火もとっくに解除されているし、億悦愚楼ノ黒白で生まれた剣も消失している。


 激臭のあまり九重は鼻をつまみながら、問う。


「おい。二島はどこだ」


 感情がそぎ落とされた無気力な声で答える。


「六階の……隠し部屋にいる」


「隠し部屋?」


「ああ。まずこの部屋にある花柄の壺を割り、中にある赤と青の宝石を取り出し、六階の第二会議室にある時計の裏に赤い宝石を嵌め、短針を取り外すと隠し部屋の鍵が手に入る」


「なんだ、その脱出系ゲームにありがちな扉の解除方法」


「そして第二会議室を出てから、南に二十九歩、東に十四歩、北に六歩歩くんだ」


「なんだ、そのポ○モンのゲームの裏ルートみたいな探索方法」


「そこにある壁に青い宝石を押し付けて『開け! セサミ!』と唱えれば無事に隠し扉が現れる」


「無事じゃねえよ! フィニッシュがダサすぎるよ!」


 ペストマスクに背を向ける九重。


「そろそろ俺の仲間がてめぇを捕まえに来る。せいぜい死んでからも罪を償うんだな」


 数分前、結愛から連絡が来ていた。どうやら無事に耐え忍んだようだ。


 壺を割り、部屋を出る直前、九重は思い出したかのように急停止し、追加でもうひとつ質問を投げかける。


「最後にもう一つ聞かせてくれ。てめぇは記憶を操れる童貞について、何か知ってるか?」


 二島絹衣が言っていた『高校時代、一緒に寝た』という謎の記憶。


 盲愛のハゲワシなら何か知っているかと思い、訊いてみるが、


「いいや。僕チンは聞いたことがないよそんな情報」


 満足のいく回答は得られなかった。


 九重は二島が監禁されているところへ急いだ。

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