シナリオ19


『正気ですか? 先刻、あれ程の羞恥しゅうちを晒したばかりというのに、踊り足りないと?』(*選択肢により異なります)


「この選択肢を選んだのは俺じゃないっ! これを選んだ奴って、絶対、頭おかしいだろ! ピコピコも嫌なら、選択肢を表示した時プレイヤーに抗議しろよ! もう少し真面目にやってくださいって!」


『…………………………………………………早く脱いでください……』


「裏切者っ!」


『農夫限定装備の木綿のふんどしは、見せパンと同じ扱いです。GM様が御定めになられた十八禁コードに違反しません』

(*見せパン=見られても恥ずかしくない肌着。水着等でも代用可)


「アレのどこが見せパンだよ! ヘンタイAI!」


 どんなに罵声を上げようと、アバターはプレイヤーには逆らえない。

 アグリはいそいそと『農夫のつなぎ』を脱ぎ始める。

 羽トカゲは古井戸の悪臭を嫌ったのか、少し離れた民家の屋根へと避難した。


 アグリは村中央――悪臭を放ち続ける古井戸の周囲を回りながら、勇壮に踊り始める。

 ピコピコも、不承不承ながら再び合いの手を務めてくれた。多少なりとも責任を感じているのだと思われる。



『アバター嘆き節・二番』


 ふんどし~出た出た~もろだしだぁ~『ヨイヨイ』

 緊急クエのさなか~なのに脱ぐ~

 あんまり~せんたくしが~ひどいので~

 さぞや~アグリさん~見苦しかろ~『サァヨイヨイ』


 あなたが~本気で~選ぶのなら~「ヨイヨイ」

 どんなぁ~場所だって~脱ぎましょう~

 だけどね~ココは臭いのよ~

 悪臭が酷くて~息をするのも辛いのよ~「「サァヨイヨイ」」


 さぎょうぎ~ふんどし~おパンツさえも脱ぐ~「「ヨイヨイ」」

 するともう何もない~マッパなのよ~

 いくら見せパンでも~ちょっとあんまりだよね~

 消滅したいのよ~こんなアバター癖癖へきへきなのよ~「「「「「サァヨイヨイ」」」」」


 ブラックな~主従関係が~終わるまでは~「「「「「ヨイヨイ」」」」」

 アバター一つに~こころは二つ~

 臭さは二倍~身にみる辛さは四倍~

 いつかプレイヤーを~蹴り飛ばしたい~「「「「「はぁ~ごもっとも!」」」」」



 アグリはプレイヤーから命じられた踊りを完遂し、意識(正気)を取り戻す。


 すると、周囲の様子は一変していた。

 人垣ができていたのだ。

 もちろん元住人ではない。ゴブリンだ。それもおびただしい数の。

 一重、二重とアグリと古井戸を取り巻き、やんややんやとはやし立てる者、ゲラゲラと声を上げて笑う者、ピコピコと同じように合いの手を入れる者までいた。(*合いの手=歌詞の間に挟む掛け声や手拍子)


(おい、ピコピコ! これはどういうことだ!)


『あなたの囮役がしっかり機能したということでしょう。さすがはGM様がお認めになった優秀なプレイヤーたち。選択肢は正しかったようです』

(*GM=ゲームマスター。このゲームの管理者)


(そのGM信仰、いい加減に止めろよ! ピコピコだって嫌がってたくせに!)


 とにかく、こんな場所で言い争っている場合ではない。

 シルヴィが人質の安全を確保するまで時間を稼がねば、アグリは無駄死にだ。


 アグリが次の選択肢を見定めるより早く、一匹のゴブリンがテケテケと歩み寄って来た。


(油断した! 先制攻撃されるぞ!)


 アグリはふんどし一丁で身構える。

 しかし、ゴブリンに警戒の色はない。

 それどころか、まるで旧友との再会を懐かしむように、アグリの肩をポンポンと叩いた。


「おまえ、まさか……ゲートの番兵ゴブリン?」

(*ゲート前で『踊る』を選択しなかった場合はスルーしてください)


「キャキャッキャー! ゴロゴロキー!(再び出会えて嬉しいぞ! 同志よ!)」


 遂にアグリがゴブリン語を理解し始めた、というわけではなく、ピコピコが同時通訳を買って出てくれた。後々尋ねられるのが面倒だっただけだろう。


「おまえ、見張りはいいのか? それとも俺を捕らえに来たのか?」


「キャピ? コッパケロケログースカ? パッパグルグルゲー(捕らえるだと? 俺は二十時間ぶりの休憩を貰ったんだぜ? 勤務時間外にそんな面倒事に首を突っ込むつもりはないな)」


「二十時間ぶり……苦労してんだな……」


「コッペ、ポヨポヨ!(お前ほどじゃないさ!)」


 番兵ゴブリンとの会話に興じていると、目つきが鋭い赤いとんがり帽子をかぶったゴブリンが近づいて来た。


「コッペ、ケチョン?(お前は何者だ?)」


(俺は……)とアグリが返答に困窮していると、番兵ゴブリンが代わりに答えてくれた。


「コッペ、ゴロゴロキー。チーフ!(こいつは同志です。チーフ!)」


 どうやら赤いとんがり帽子のゴブリンは、番兵ゴブリンの上司らしい。

『ゴブリンチーフ(中間管理職)』というテロップが、少し遅れてアグリにも表示された。


「ゴロゴロ……ケケケッ、クックルーグルコッペ(同志……確かにコイツからは同じ匂いがする)」


 ゴブリンチーフは無防備に近づいて来た。


(チーフだと? コイツを倒せば、ゴブリンの指揮系統を混乱させることが出来る?)


(いやいや、さすがにこの数相手に何もできないって! 返り討ちにあうだけ!)


  ☁


 ピコピコ:アグリは最終的な判断をプレイヤーに委ねました。選択肢を選んでください。


 ふんどし一丁で戦いを挑む。

「その首もらった!」

【シナリオ13へ】


 ゴブリンチーフと会話を続ける。

(もう少し様子を見よう……悪いゴブリンじゃないかも)

【このまま読み進む】


  ☁


「ゴロゴロキー、クピクピフニャラパッパラー!(同志よ。先ほどの踊りは見事だった!」


「あの踊りは俺の意志じゃない。俺の心(プレイヤー)が躍らせたんだ」


「ケケケッ……プチュンソールゴロゴロデギャア(確かに……しいたげられた同志の魂の叫びが聞こえたぞ)」


 おおむねアグリの心情は伝わったようだ。意思疎通に微妙な齟齬そごがみられたが、生まれも育ちも、種族さえも違うのだからやむを得ない。


「それで……俺をどうするつもりだ?」


 ニヒルに取りつくろってはいたものの、内心超ドキドキだった。さすがにこの数のゴブリン相手ではなすすべがないともいう。

 アグリのステータスでは、ゴブリンチーフとのタイマン勝負でも勝てないだろう。

 ここでのプレイヤーの選択は正しかったと言わざるを得ない。


「キャピ? コッパハラハラグルコッペフニャラ(なんだと? おかしなことを聞く。俺は仲間の踊りを楽しんだだけだ)」


(俺を仲間だと……助かった……のか?)


「グルコッペヤーサイ? ヤオヤコーブツ?(おまえ農民だろ? 穴掘りは好きか?)」


「ヤオヤ(穴掘り)だと? 肥溜のことか?」


 肥溜のような古井戸の周囲で踊っているから勘違いされたのだろうか。

 とにかく、アグリはゴブリンチーフの質問の意図がつかめなかった。



  ☁


 ピコピコ:なんと返答しますか?


「ヤオヤは大好き! 俺はヤーサイだ!」

【シナリオ14へ】


「ヤオヤなんて嫌い!」

【シナリオ20へ】

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