親友 後編

 小高い丘。

 霊園が広がっている。

 遠くには海を見下ろすことができる。



 その霊園の坂道を登る老人。



 やがて、ある墓の前に立つ。

 墓に刻まれた文字。


”秋山 孝志”


 訪れたのは、昭島である。


「やぁ、秋山・・・今日も来たよ」


 75歳になった昭島。


「もう2年たつな・・・まぁ、俺は何とか生きているよ」


 昭島と秋山は8年間、一緒に暮らした。

 それは、とても幸せな時間であった。


「お前は、何度も俺の気持ちを聞いてきたなぁ・・」


 秋山の問いに対して昭島は答えることはなかった。

 なぜなら、昭島は男性に対して性的な興味は無かったのだ。

 


 だが、秋山が女性を連れて来て・・・結婚すると告げた時。

 なぜか、昭島の心の中に激しい嫉妬の炎が焦がした。


 それは、昭島にも理解できない感情。

 秋山に対し、そういう感情を持っていると・・・認めたくは無かった。

 その後も、秋山が奥さんの話をするたびに心の奥を焦がす感情。


 性的な興味は無い。だから、愛とは呼びたくは無かった。

 それならば、この感情はいったい何と呼べばいいのだろう。


「でも、最後の8年間は俺にくれたんだよな・・」


 秋山が、昭島のことをどう思っていたかはわからない。


「じゃあ、明日もくるよ」


 昭島は立ち上がった。


 親友・・・それでいい。

 それ以上の思いは胸の奥にしまい、墓まで持っていこう。

 そうして残り少ない穏やかな日々を過ごす。


 親友との日々を、思いながら。

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