秋月国岡豊市立吉良学園高等部異世界(チキュウ)クイズ研究会

 吉良学園は秋月国に5つある学園都市の中で1番小さい岡豊市にある学園都市の中核機関である。その高等部の図書室の片隅に、異世界クイズ研究会の席がある。


「ねえ、聞いてくださいまし!」

と、黒髪の少女、桃井もものい椿は言う。しかし、机にある本に顔を埋めた少女、椎名春香は

「ムニャムニャ」

と、寝ている。

「やあ、どうしたん?」

と、話しかけてきたショートカットの眼鏡少女は、イインチョである。多分本名はあるか、イインチョと呼ばれている。べつになんかの委員長ではない。

「あら、イインチョ。例会をしたいのに、とうの春香さんが寝てるんですわ」

「ふうん、じゃあわたしにクイズとやらを出してみれば良いんじゃない?」

「ああ、もう予定してた問題じゃダメね。ちょっと待ってください」

 椿はカバンからゴソゴソとプリントを取り出した。

「はい、じゃあわかったら手をあげてね。問題は昔春香が押したポイントで止めますわ」

「はあい、わかった」

 イインチョの返事を聞いた椿はプリントを読み始める。

「問題、『チャリ』とも呼ばれ……」

「はい、自転車?」

「正解。なんでわかりましたの?」

「チャリって自転車以外あったっけ?」

「多分ないですわね」

「だから、そう答えたんだ」

と、イインチョが言うのを聞いて、椿はうなずく。

「じゃ、次の問題ね、問題、バイトをサボるというときのバイト……」

「はい、アルバイト!」

「正解!なんでわかりましたの?」

「バイトがなんの略だってことでしょ?」

「その通りですわ!」

「やった!」

 イインチョはガッツポーズ。

「はい、じゃあ次ね。問題、囲碁というゲームで使われる碁石というコマの色は……」

「はい、白!」

「正解!2択を当てましたわね」

と、わいわいやっていると

「やあやあ、対決なのだ!」

「しー、静かに」

「ご、ごめんなさいなのだ……」

 このたしなめられてしょんぼりしているオレンジ頭の少女は、坊ちゃんという。女の子なのに坊ちゃん。

「それで、どうなさいましたの?」

「ああ、春香と知識で対決するのだ」

「あら、春香ちゃんはまだ寝てますわよ。じゃあ手元にある問題集で予習しましょう」

と、椿は、ノートを取り出す。

「はい、じゃあ問題、化学反応の際……」

「はい、触媒なのだ」

「正解」

「スゴい、なんでわかったの?」

「こう言うのは、ベタ問と言って、こういう前置きなら、触媒が答えなのだ」

 誇らしげにない胸を反らせる坊ちゃんに、イインチョは驚嘆する。

「へえ、ヒトは見かけによらないのね」

「……どういうことなのだ?」

「まあまあ、次の問題いきますわよ。……問題、紅茶のグレードでPはペコー、ではF……」

「はいはい、フラワリー・ペコーなのだ」

「正解!」

「その感じで紅茶もわかるの?スゴいね」

「なんかさっきからイヤミなのだ」

 坊ちゃんは首をかしげる。

「はいはい、続けますわよ。…‥問題、若鶏を裂いて、その栗……」

「はーい、サムゲタンなのだ」

「正解。さすが、食いしん坊、早いですわね」

「とうとう、不利椿もなんか言い出したのだ……」

と、ここでイインチョはこう提案した。

「まだ春香起きないし、ヒマだから、坊ちゃんと対決させてくれない?」

「ほほう、このあたしに勝てるかな、なのだ」

「はい、じゃあ問題、タネはハムスターなど小動物のオヤツ……」

「はいはい、ヒマワリなのだ」

「あ、これわかったわ〜」

「ふふん、スゴいだろうなのだ」

 坊ちゃんは得意そうに笑う。

「はい、次ですわ。問題、バスケットボールで、選手がボールを持ったまま……」

「ハイなのだ、トラベリング!」

「正解、てもまだ押しが甘いですわね」

「どういうことなのだ?」

「『持った』とか『ボール』でも押せますわね」

「「へぇ」」

 イインチョと坊ちゃんは感心した風の嘆声をあげる。

「はい、次の問題。外からの力が加わって……」

「はい、剛体!」

「正解!」

「イインチョ、スゴいのだ」

「いちおう理系だからね」

 イインチョはハニカミながら微笑む。

「じゃあ、次の問題を出しますわ」

「「はあい」」

「問題。音楽の楽譜で、音を出す部分のことを音符……」

「はい、休符なのだ」

「正解。でも、これだとイインチョにもわかるかもしれないですわよ」

「ああ、たしかにわかったね」

「だから、『楽譜』のあたりで手をあげるのが勝つポイントですのよ」

「へえ、そうなのか」

 坊ちゃんは、感心しきりという風にうなづいた。

「はい、次の問題。慣用句で邪魔するときには『引っ張る』……」

「はい、足!」

「イインチョ、正解」

「イインチョ、クイズ初心者なのにすごいのだ。クイズ熟練者プレイヤーみたいなのだ」

「へへ、そうかな」

 イインチョがはにかむように笑うと同時に、春香がムクリと起き上がる。

「ふぁあ、よく寝た」

「お、起きたね」

「さあ、クイズを始めようか」

「相変わらず、クイズバーサーカーですわね」

「ほら、春香も言ってるし、早く始めるのだ」

「はいはい」

 椿はカバンから別のプリントを取り出す。

「では、問題。主人公牧野……」

「はい、花より男子」

「正解」

「春香、寝起きでこの強さなの、相変わらずなのだ……」

 坊ちゃんは、絶句しながら言う。

「じゃあ次ですわね。問題、『プリコネ』『デレステ』『グラブル』……」

「はい、アプリなのだ!」

「残念」

「えー、じゃあなんなのだ?」

「はい、Cygames」

「正解」

「ああ、そっちなのか!?」

「クイズ番組とか動画でよくある、超人ぶりを見てるだけのアレはじまった」

と、イインチョはボケーとその光景を見ている。

「はい、じゃあ次の問題。古代インドにあった寺院で『平家物語』……」

「はい、祇園精舎なのだ」

「正解ですわ」

「坊ちゃん、なかなかやるわね」

 春香は感心した風に言う。

「はい、じゃあ次の問題。少女マンガ雑誌『マーガリン』掲載の……」

「はい、早乙女浪漫!」

「春香正解。あと、図書室だから喜ぶときも静かにね」

「あっ、ごめんごめん」

 春香は頭をかきながら謝る。

「はい、じゃあ次の問題。エートロという囚人の体を使っている……」

「はい、フー・ファイターズなのだ!」

「正解。坊ちゃんも静かにしてね、図書室なんだから」

「わかったのだ……」

 坊ちゃんはしょんぼりしながら答える。

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