わがままな姫と憎しみの騎士

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 その騎士は姫を憎んでいた。

 清廉潔白でいなければならない騎士はなぜ、己の主を憎むようになったか。


 姫のお供をする騎士は、思いをはせていた。


 それは数年前。

 騎士が騎士になった時の出来事が原因だ。


 平民だった騎士は、血をにじむような特訓を経て、地位を得た。そして騎士は、己が守るべき姫君と出会う。


 騎士にはとある目的があったけれど、それを姫は知らない。


 騎士の目的は、名誉を得て、貴族の女性とつりあう身分になる事。


 そのために騎士は努力してきたのだ。


 でも、やりすぎた。


 真面目な仕事ぶりをみせる騎士に、姫が惚れてしまったのだ。


 そして姫は、騎士の気持ちも確かめないまま、婚約者にしてしまった。


 その国は珍しく、他の国と違って身分の違いに寛容だった。


 姫と騎士の間に結ばれたその婚約を、王も国民も祝福した。


 けれど、騎士と、その騎士の想い人の心だけは置き去りにされたまま。


 何も知らされぬまま姫の婚約者にされた騎士は、遅まきながらも自分の想いを伝えたのだが、姫はそれを受け入れる事がなかった。


 何度も説得は続けられた。


 しかし、姫は聞かない。


 困り果てた騎士は、姫を守るべき相手とは思えなくなっていた。


 ならば他の人間に思いを打ち明けてでも、と行動に出ようとしたが、姫はそれを阻止してしまう。


 騎士の想い人を人質にとって、無理やり婚約関係を続けさせた。


 姫は甘やかされて育った人間だった。


 思い通りにならない事がひどく我慢ならなかった。


 そして、最後まで自らの意思を通せば、最終的には何でも自分の思った通りになるとも考えていた。


 騎士は、姫を憎むべき対象としてしか見られなくなった。


 そのため、自由の身になるために姫を暗殺する事にしたのだった。


 作戦決行のために、その日から騎士はさまざまな準備を重ねた。


 そして、数年後。


 機会が訪れる。


 姫には、「災害が頻発する地へ赴き、民を励ます」という役目が与えられた。

 

 騎士は当然お供につけられる。


 騎士は、表向きはよい人間を演じる姫を、荒れ狂う川の近くへおびき出し。


 ふいをついてその背を突き飛ばした。


 姫は荒れ狂う川に飲まれ、すぐに見えなくなってしまう。


 なぜ、と騎士に問いかける瞳は、濁った川水に消えていった。


 愚かな姫は最後まで、騎士が自分の物になると信じていたようだった。


 人の気持ちすらも動かせると思った姫は、その思い上がりの対価を命で払う事になる。

 姫は、災害に巻き込まれて死亡した事になった。


 その後、騎士は姫の仕事を引き継ぎ、精力的に仕事をこなすことによって、姫を守れなかった罰の半分を免れた。


 結果、騎士という立場をなくしたものの、想い人と幸せな生活を手にする事ができるようになった。


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わがままな姫と憎しみの騎士 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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