その18 「普通」ということ

 ちょっと前回の話と時系列が前後します。


 3月中旬から化学療法2クール目が始まりました。

 薬剤は前回と同じです。

 ただし、前回骨髄抑制(白血球の減少)が強く出たので量は少し少なめで。

 2回目ということで、私のほうも慣れてきました。

 今日は吐くかもなー、というときは事前に看護師さんに伝えて吐き気止めをいれてもらいます。

食事は前回同様そうめんとゼリー。

 痩せる気配がないのが嬉しいのか悲しいのか。

 太ってる分余裕があるんでしょう。

 むしろありがたく思わないといけないですね。

 

 骨髄抑制は相変わらず出ました。

 増血剤を打ってもらって、後は手洗い、うがい、マスク必須。

 嘔吐はほとんどありませんでした。吐き気止めの影響も大きかったと思います。

 2クール目はなんかあっけなく終わった、という感じでした。

 

 この頃には髪はほとんど抜けていました。

 なので普段は帽子かぶって生活。


 翌週からリハビリ開始。 

 訓練義足の型取りをしたのがこの頃です。

 

 義足が出来上がってからは歩く訓練を本格的に。

 まず苦労したのがライナーをまっすぐ履くこと。

 履いてみてはダメで履き直し、っていうのを繰り返していました。

 やっと履けて立って歩きます。もちろん平行棒の間で。

 しっかりつかまってそろそろ歩くのですが、なかなかうまく歩けません。

 義足側に体重かけられてないのだから当然といえば当然。

 本来義足というのは実際の足と重さはほとんど変わりません。

 でも、腱や筋肉がつながっていないので重く感じます。

 そしてやっぱり怖い。

 転ぶことはないとは分っていても、健足側に頼りがち。

 体重計で調べてみました。

 左足と右足にひとつずつ体重計を置いてみます。

 両足に平均的に体重をかけられていたら両方同じ単位になるはず。

 しかし、明らかに健足側に体重がかかっていました。

 自分ではまっすぐ立ってる、と認識しているのにも関わらず。


 毎日平行棒の間を歩く日々。

 ちょっと辛い日もありましたが、やってやる!って気持ちのほうが強かったです。

 

 そんな頃、私にとってはちょっと面白いことがありました。

 入院していた病院は、珍しく喫煙室のあるところでした。

 本来は禁煙したほうがいいのですが、食後とかタバコ吸いにいってました。

 ある日、夕食後の一服の帰り。

 私以外に御夫婦と思われる方が一緒にタバコを吸っていました。

 先に一服終えた私が車椅子で立ち去っていったときのことです。

「見てみ、あの子片足ないで」

「かわいそうになー」

 って声が後ろから聞こえてきました。

 思わずニヤついてしまう私。

 なぜなら、私は自分のことを「かわいそう」だなんてまったく思っていないから。

 確かに稀な病気には罹ってしまいました。

 切断は確かにおおごとにみえるでしょう。

 でも義足ができあがって、訓練が終了すれば再び歩けます。

 ちょっとよろしくないものができたから取り除いただけのことで、私はまた「普通」に戻れるのです。

 友達だって家族だって、クラブハウスの仲間だって応援してくれています。

 仕事もまた再び戻れる日がきます。

 東京にあるクラブハウスの方々から応援の寄せ書きをいただきました。

 通ってるクラブハウスからは千羽鶴も。

 家族もほぼ毎日来てくれています。

 そんな私、「かわいそう」ですか?

 私なんかがかわいそうだったら、世の中かわいそうな人だらけです。

 まあ、確かに一見かわいそうに見えるだろうけれども、違うんだよなーと思い、思わずニヤついてしまったのでした。

 

 今までの人生の中でもっとも充実していたのはこの頃のことだと今でも思っています。

 そして「普通」ってなんだろう、と思うようになったのもこの頃からのことです。

 

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