第26話 花見

S区にある総合広場貸し出し場では

グランド1つステージ1階2階と2つ

そして桜の並木通りがある

話は少し前後するが

輝は小学2年生に

燈紫は小学4年生に

かずみは小学6年生に

かえでは中学3年生になる

そんな切り替えの時期

桜が咲き誇る4月の中旬といったところか

カラオケ装置まで持ち出してかなり本格的

もちろん貸切で離脱結界も張ってある

遠方からの客人も多い

私の目ではわからないが人間の姿から

妖怪の姿に変化してしまう人も多い

今夜ばかりは

無礼講である

食事をするために弁当を広げる

外に持ち出しようの無線が鳴る

ピィジジ

「こちら愛媛の妖怪統括所ですが

愛媛の桜姫が姿をくらましまして」

ドスンドスン地響きを立てて何かが近寄ってくる

「すでに桜姫の植わった周りには離脱結界張ってありますが」

「B区美穂です。でかい桜の木がこっちに向かってます」

「え?どこ?」

「真正面、たぶん人の姿してると思うけど

横断歩道を渡れば姿が見えると思う」

「美穂ちゃんには何に見えるの?」

「何って普通のでかい見事な桜の木」

「地響きまでするんだけどわからない?」

「全然、あ結界内はいった。」

「どんな子?」

「桜のように美しい…」

「そんなんじゃわかんないって」

「うんと大人と子供が入り混じったようなかわいいような綺麗なような」

「へー」

キーと扉を開けて入ってくる

野郎共だけで輪をつくってた場所に

座る場所をつくり

「こっちこっちここ座れや」

と言われて座っている

場所決め早

たしか悪酔いする奴はいなかったと思うからいっか


わたしたちの所はブルーシートが大きくひかれている

靴木ファミリー、鳥沢ファミリー、千一郎、萌香、唐次郎

美鈴、文子、かえで、摩子、燈紫


別宅でのシートに暁子、かほこなどがいる


今日は無礼講でかずみにお酒飲ませたら

酔っ払って花びらに一斉に魂をふきこむ

ケラケラクスクスアハハ笑いながら

さくらのはなびらが落ちてくる

まけない勢いでかずみも笑う

「もう1杯!」

「だめや術使い出したことで充分よっとるさかい

オレンジジュースにしなはれ」

「ママにためだしくろーたわジュースくれい」

「はいはい」とあたらしい紙コップにジュースをそそぐ

一気に飲み干す「もう一杯」「はいはい」とそそぐ

それで落ち着いたみたい

「術ときなはれ」と靴木ママ

「もう解け取るわ」とかずみ

笑い声は今も聞こえる

「地面に落ちたら消えるようにしたもんね」

「俺ってえらい?器用だろ?降れ降れ桜」「あはははは」

「だめだ完全によっとる」

「でも確かに器用よねぇ降っている間だけ魂を込めるなんて」

無意味に笑い声が聞こえる宴会場となった

どこまで術がかかってるのだろうと

少し移動してみたが隣のシートでかすかに聞こえる程度

自分の座っているブルーシートくらいが範囲らしい

ならいっかとわたしも戻ってジュースを飲む


しばらくすると桜姫が歩いてくる

「Sセンターさんの宅はどこら辺でしょうか」と聞かれる

隣の隣がそうよ

「ありがとうございます」


そこでやりとりを聞き耳たてる

ちょっとにぎやかで聞こえないか

「Sセンターのおっちゃん困ってるで、あははは」

どうやらかずみは笑い上戸らしい

「なんだって?聞こえる?」

「うん。饅頭一つだけ持ってSセンターの統括のおっちゃんに

貰ってくれと言っているいつもお世話になるからって」

「他の人もいるからそれは自分で食べちゃって」って言ってるけど

ひかないっぽいってことか。たしかにこの場に土産持って来ても

100人こえてるしなぁ…

結局Sセンターの主は根負けしてたべている

じーっと見る桜姫食べ終わってから静々と元のシートに戻る


「ありゃ、おっかないね」と萌香さん

「桜の術ってどんなのがあるの」と私

「一番はかどわかし所謂神隠しね」

「後は果実爆弾に桜吹雪、リーフカッターそんなとこかな」

「ただ普通なよなよしてるのが多いからねあんなけ酔って

我を通すあたり一筋縄ではいかないと思うよ

管理者も大変だわ」と萌香さん

なるほど桜の木にしては気がきついらしい

しかも酔っ払いである見事な桜はピンク色から赤みかかっている

さけが抜けたら元の色に戻るだろう


よもしばらくたってまたしずしずと桜姫がくる

この機械よろしいのかしら?

もちろんと相手しているらしい

電源入れてかかった曲はさくらさくら

桜姫が歌う真ん中に機械をおいてあるので

ここらへんは聞き取れるか聞き取れないかほど

微妙な位置なのだが…音痴である

ガラガラ声で音符をはずす

私も自慢できるほどじゃないが…

それを機にカラオケ大会が始まった

「俺も歌ってくるとかずみ」

難しい曲を器用に歌う。現代っこだなぁ

「難しい曲しってるね」

「美穂ねぇはまだアニメ見ないか輝ちいさいもんな」

「アニメのエンディングソングだよ」

「へー今の子の頭はできがいいのね」

「そんなことあらへん。アニメばっかり見て

勉強なんにもしないのだから困ったもんですわ」と靴木ママ

「小学生なんて似たりよったりでしょう」と私

「せやかて中学受験どうするきなはるやろ」

「だから言ってるだろう公立行くって受験ないし

かすみがそこ行くんだからおれも絶対そこがいいって」

「小学生が色ボケしはってとないするん

将来をちっとは考えなはれ」

「まぁまぁ今日は勉強の話はなしで楽しみましょう」

「どうせ酔っ払ってるから忘れちゃってますよ」

「それもせやなぁ」

「わーいお酒に乾杯、酒くれいきゃははは」

「もう駄目オレンジそそいであげるから」

「OK。くれい」

こぽこぽとオレンジをつぐ

始まってからずっと黙々とお弁当を食べているのは燈紫ちゃん

弁当の半分は燈紫ちゃんが食べてしまった

もう終りそうである

「燈紫ちゃんお腹大丈夫?」

「?なんで?大丈夫ですけど」

「うん。ならいいけど」

萌香さんが「ほっといてやってその子3杯飯食べるから

おかずも綺麗にたいらげて」

…大食らいなのか

見た目痩せててほっそりした子なのに

ちなみに私の目には青い小さな炎に見える

青いっていうと火力が強いときの色だったよなぁ

そのうち火炎姫と同じめらめら燃え上がる炎になるのかもしれない

火炎姫の炎はとてつもなく熱く瞬時に骨さへ残さずに燃やす

相手もくるしまない殺人としては最適といえば最適なのだ

もちろん火力調節可能、相手を火傷させるだけも可能である


朝から始まった宴会は2時ほどに片づけを始める集団がいる、

遠くから来ている人たちだ

綺麗にブルーシートをたたんでSセンターの階段に積み上げていく

一宅ごとに簡単な挨拶をしてさっていった

桜姫も帰って行った夜桜を見に来る人たちもいるからと

たまには羽目をはずしたかったのかもしれない


残ったのは区内のブルーシートだけだ

こちらはもう1.2時間ほど花見に行じる

夕方前に一斉に片づけを始め

酔っ払ってるのは第二ステージで雑魚寝させとく

大量のブルーシートも棚に収まり

ようやっと帰る支度ができた感じ

Bアパートは靴木ママと私が運転手で

全員乗って帰っていく


S区地区は歩いてきた人が多いようで歩いて帰るのが見える

ちゃんと人の姿してればいいけど…


アパートにつくとかずみが浮かない顔で壁に横たわっている

「どっかしたの?」

「どうもこうもすげー頭痛い」

「あは、そりゃ二日酔いだもうでてるなら明日の朝には

治ってると思うから寝ちゃいなさい」

「こんなに痛くて寝れるかよ」

「あれだけ飲んでもうお酒が冷めてくるなんて若い証拠」

「ぶつくさ行ってないでお部屋帰りなさいよ」

「えー帰ったら宿題がどーのって言われるのきまってるもん」

「もう少しいさせてよ」

「んじゃ輝の面倒見て」

「了解」


しばらくして

「あれこの曲?さっきかずみが歌ってた?」

「そうそう。輝も見てよろこんでたよ」

「来週のこの時間は東京系列に合わせてあげて」

「タイトルはパワーサイドね」

「んーわかった」

「それじゃ随分楽になったし見たいもの見たし

宿題やりに帰るわ」

「お疲れ様」

「もう酔いが冷めるのか若いっていいねー」

「輝も若いよ?」

「うーん6年生になったら飲ましてあげる」

「美味しいの?」

「苦いよ?」

「えーなんでそんなの飲むのオレンジのがいい」

「ならずーっとオレンジでもいいよ」

「うんうんそうする」

私は飲まなかった分冷蔵庫から1缶だして一気にながしこむ

ほのかにぽかぽか料理をつくりだす

「おい、これから会社いってくるわ」

「なんかクレームが来たらしい」

「あらあら。お疲れ様じゃない。会社まで送るね」

「馬鹿。今1本空けたばかりだろう俺のがましだ」

「そう?気をつけてよ事故らないでね」

「ああ、慎重に行く。捕まったら減点じゃすまないからな」

「あ、タクシーで行きなさいよ。まだ顔赤いしその方がいい」

「今かけるから」といいつつタクシーを呼ぶ私

「大丈夫と思うんだがなと雄一郎」

「酔っ払いの9割以上は大丈夫だと思ったと言うのよ」と苦笑い

タクシーを見送って夕食を食べて輝を寝かしつけて

管理室の椅子で転寝していた

「美穂ちゃん」

「あ、はい」「鍵いい?」「そっか出勤かお疲れ様」

と萌香さんを送り出す

だいたい帰ってくる3時頃までは起きている

美鈴さん、かえでちゃんあたりはすぐ酔っ払うが

文子さんや萌香さんが酔っ払ってるところは見たことないな


そんなことを考えながらパソコンをいじる

夜は更けていく

もうじき萌香さんもかえってくるだろう

そしたら仮眠しよう

慌しい一日が過ぎた

なんでもない平和な一日だ

あ雄一郎はまだ仕事してるんだっけ

今日は会社で泊まりかな?


後日談

笑う桜の木は都市伝説になった

本人が解き方をさっぱりおもいつかなかったのと

次の年の桜も笑いながら降ったことで……


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