第52話 テスト勉強に悩まされる宣言3


「それにしても、噂と違って普通に客いるな」

「……炎上したと思えない」

「え、ここってなんかあったの?」


 どうやらユノは、この店の炎上した噂を知らないらしい。

 そこで一応ユノにはホイミから聞いたこの店の嘘とも本当とも言えない噂をそれとなく伝えた。


「ーー確かに。その噂がほんとならこの状態確かにおかしいね」

「もしかしたら全員サクラとか?」

「利益でないだろ。それにファミレスにサクラ配置って聞いたことねぇぞ」


 驚いたことに、とても多いとは言えないがお客さんはちらほらいるのだ。この客の入り用を見ると、本当に炎上したとは思えないのは僕だけじゃないはずだ。

 なんならそこらのファミレスよりいるんじゃないか?


「そうだ、ユノもなんか頼みなよ。来てから何も頼んでないし」

「うん! ちょうど小腹空いてたんだよね」

「……今日はホイミの奢りらしいから遠慮なく好きもの頼みなね?」

「なんでクドウが我が物顔で言うか納得できんが……。ま、そう言うことだからユノ。好きなの頼みな」


 クドウの言う通り今日はホイミの奢りらしい。いつものホイミなら金がない、金がないと言ってむしろ奢られる立場なのに、珍しいこともあるもんだ。

 もちろん、最後の最後でやっぱやめますとはならないようみんなしてホイミの発言をスマホで録音して言質はしっかり取ってある。

 素晴らしい友情だ。


「へぇ、ホイミ。財布の紐が緩いじゃん。なんか臨時収入あったとか?」

「ちょっとケ○シロウが無双してくれてな。久々にアイツが甲高い声あげて北斗神拳を命中させてるの見たぜ」

「え、パチンコって事? それって元は取れてるの?」

「ま、次行った時次第かな。台がユニコー○か、シ○フォギアって叫んでくれたらプラスマイナス0になる」

「……プラスにはなんないんだね」


 悲しいが一時の幸せっていうやつだろう。

 その後はおそらく地獄が待っていると思うが。

 ともかくどんな形であれホイミからの優しさは甘んじて受けておこう。


 メニューを注文をするために呼び鈴を押すとダイソン先輩が注文を取りに来た。


「お、ホイミのとこか。それでえーと、ホイミ以外もみんな一年か?」

「そうですね。紹介します、俺と同じ学部のナギ、レン、クドウに、クドウの彼女兼大学に全身青色の裸で行った挙句、犯罪者扱いされたユノです」

「ボクの補足説明濃くない? それにまだ犯罪者じゃないよ、学生課の判断次第だけど」


 犯罪者はまだしも不審者であることは変わらないんだよなぁ。


「いやー君の気持ちも分かるぜ。たまには何も身に付けてない生まれたままの姿で公共の場を闊歩かっぽしたくなるよな。実は俺も経験あってね。どうやら君とは気が合いそうだ」

「なんか変な共感得ちゃったんだけど。ただ"アバ○ー"のコスしただけなのに」

「自分の彼女が変態の部類に入れられる気持ちってどうだ、クドウ」

「……俺も変態の内だからようやく一つになれたなと嬉しくなるね」


 レンの問いかけにクドウは少し得意げな顔だった。

 凄いな、本気でこんな事言えるなんて。コイツは一皮剥けてやがる。


「もしかして、ジェームズ・キャメロンが好きなのか?」

「え、えぇ……まぁ」

「へぇ、意外だなぁ。ま、確かにあれだけ稼いでたら惚れるよ。やっぱ金は歳の差に打ち勝つか、最近の子はイケおじがすきなんだな」

「すいません、好きってジェームズ自体にじゃないです。ボク別におじさまキラーとかじゃないです」

「いやでも前、みんなでアバター見てた時言ってたじゃねぇか。『いやぁジェームズ・キャメロンはいいよね。見始めたらボク興奮してきちゃったよ』って」

「映画でね。ジェームズ自体を見て、興奮はしてこないよ!? ホイミはそこんとこ勘違いしないで」


 まさか映画を見終わった後の結末が大学に全裸登校か。

 先週映画を見るのをやめとけば、ユノは青色の異星人にはならならなかったのかもしれない。


「もぅかけるもなんとか言ってよ」

「……いやでも、ユノのおじさん好きは否めない。前、『舘ひろしになら抱かれても許してくれる?』って聞かれたし」

「ま、それは否定しないよね。あの舘さんだし」

「……俺もそう思う。あの色気にはどうやっても負けるし」


 あの人は年齢を重ねるごとに色気が増してるからな。

 そろそろ醸し出す色気だけで失神する人現れるんじゃないだろうか。ご年配女性の方々お気をつけて。


「そいで、さっきも説明したと思うが、この人がダイソン先輩だ」

「よろしくな〜 二年ってことで、みんなよりかは年次は一個上だな」


 そうだ、ダイソンさんには過去問もらったからな、改めてお礼を言っておかないと。


「そういえばダイソンさん、過去問ありがとございました。かなり助かってます」

「いやいって事よ。昨年受けてたやつが残ってたからな。それよりこっちも悪かったな。もう少し綺麗なの渡せればよかったが……一部問題が見えなくなってたろ?」


 そういえば、もらった過去問のコピーの一部分が何かシミみたいなのがついてて見えなかった。

 他の部分からある程度、そこに書かれていたところは予想ついたから問題なかったけど、あれなんだったんだろ。


「みんなも飲み過ぎには気をつけろよ。特にトイレのない電車だと吐く場所ないからカバンにゲーー」

「ーーうぉぉいい!? 聞きたくない! 聞きたくない! 今、俺原本持ってんだぞ!?」

「よかったぁ。レンが身代わりで。あの時レンにオリジナル渡してなかったら嘔吐物触ってたところだーーあの時の俺ナイス」

「……ダイソンなのに吸引力じゃなくて放出力が高かったと」


 ダイソン先輩が汚れ物って言われる所以が分かった気がする。

 まさかあのシミがゲロとは。うぉっぷ……さっき食べたポテトが出てきそうだ。


 食事中の方はごめんなさい、でも僕も食事中なのでおあいこということで。


「そいじゃ注文きくぞ?」

「えーと、ボクはこのドリアで」

「あ、僕は追加でこのピザを」

「あいよ」


 注文を聞くダイソンさんはそう言うと慣れた手つきでオーダーをとる端末を操作する。もはやベテランの域に達してるようだ。


「じゃあ俺もついでに追加注文で、近代経済学の過去問あります?」

「あーすまんな。この店じゃ作ってないんだ」


 レンの注文にはさすがのダイソン先輩も手が止まった。

 よもやファミレスのキッチンから過去問が出てくるわけないのに。


「それにすまんな。俺はその過去問は持ってないんだ。ホイミ達と同じ経営学部なら持ってたんだが。今回のは全学部共通だったから渡せたが」

「いえいえ。レンがバカな注文したんです、お構いなく。今でも十分助かってますよ」

「ダイソンさんってほんと親切だよね」

「どうかな、平気で人に嘔吐物がついたもの渡すんだ。プラスマイナスゼロだろ」


 どうやらレンはさっきの事をかなり根に持ってるらしい。


「あ、そうだ。ここで働いてるダイソンさんなら分かると思うんですけど、この店って炎上したんですよね?」

「お、よく知ってるなぁ」


 この言葉通りだと、どうやら本当に炎上したらしい。


「なんで炎上したんですか?」

「あの時は確か……二日酔いで出勤直後から気持ち悪かったんだ」

「もしかして、客の前でリバースしたとか?」

「この人、ほんとよく吐くな」

「あはは、違う違う。その時は我慢できたんだよ。それに吐くなら客に見えない裏で吐くし」


 吐く時は吐くんだ。

 それにちゃっかりそこら辺のエチケットはあるみたい。


「嘔吐じゃなかったらいったい?」

「まぁ、そんな大それた問題じゃなくてな。言っちゃえば接客態度だな」

「それ俺も分かるぜ。客にゲロ付きの過去問を提供する店員がいるんだ。接客態度を改めなきゃな」

「ちょっと黙ってろ、レン。話が進まん」


 レンを静止させたホイミはダイソンさんに話を続けさせた。


「ざっくり言うと、ウチのある接客態度をきっかけにあれよあれよと燃えたわけだわ。アレが原因の一つだけど」


 そう言ってダイソンさんは向こうで接客してる一人の店員さんを指さした。

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