第51話 テスト勉強に悩まされる宣言2

「ユノを呼ぶんだ、せっかくだから詩葉も呼ぶか?」

「あー詩葉、同じ学部の子と勉強してるって言ってたよ」


 さっき詩葉からそんなメッセージが届いてた。なんでもペーパーテストの代わりにグループ発表があるらしくその準備に忙しいとかなんとか。


「そうか、そりゃ残念だな」

「ほっとけ、ほっとけ。あんなヤツ居ても居なくても変わんねぇよ」

「そうか? 共通科目の英語のレポート対策に必要だとは思うけどな。詩葉英語得意だし。今回のやたらむずくね?」


 ホイミの言う通り、今回の英語のレポートはぶっちぎりで内容が難しい。

 テーマが『戦争について』ということで、テーマの複雑な事もさながらレポート提出量も多いのである。


 僕自身、英語がこれといって苦手というわけではないが、普段使わないような学術的な言葉を英訳するにはとても骨が折れる。大学生御用達のGo○gle翻訳をもってしても時間がかかるのは分かりきっていた。

 それこそ英語が得意な詩葉の手助けがあればだいぶ助かること間違いない。


「ちゃんと協力してくれればな。先日分かんない場所の英訳をアイツに頼んだら全文、"I have a pen"で返してきやがった。俺のレポート、どんだけペンを持ってる事主張してんだよ」

「……ピコ太郎でもせいぜい2回なのにね」


 テーマが戦争についてなのにそんなにペンが出てきたら採点する教授もビックリだろう。

 ピコ太郎のようにバズりもしないだろうし。


「まぁ、とにかくファミレス向かうか」


 そうして僕らは大学の食堂を出て、噂のファミレスに向かったのだ。



○○○○○○



「あ、いたいた。みんなおひさ〜」


 ファミレスに入り、僕達を発見したユノは席に駆け寄ってクドウの隣に座った。

 大学の帰りなのか、その手には大きな荷物を抱えている。

 ちなみにユノは僕らの大学とは違い、美大生なのだ。


「ユノは久しぶりだよね。調子どう?」

「うーん。コスしながら大学行って、先生に不審者呼ばわりされる前までは元気だったかなぁ」


 今日あった事を思い出したのか、ユノは苦笑いを見せている。


「それは災難だったな。それに自分とこの生徒を不審者呼ばわりとか、先生達も酷いな」

「ほんとだよね。"アバタ○"のコスプレそんなダメだったのかなぁ」


 多分、ユノを不審者扱いした先生達の対応は正しかったと思う。大学に全身青色の生物が侵入したらそりゃ大騒ぎになるだろうに。


 よく見れば、ユノの顔に青色の染料が若干残ってるな。"○バター"のコスプレをした跡のようだ。


「……教授達の真っ青な顔が目に浮かぶ」

「教授の顔だけじゃなく、ユノ自体も真っ青だけどな」

「あ、ちなみにパンツとニップレスはしてたから大丈夫だったよ」

「何が大丈夫なの?」


 彼女の大丈夫は信じられないな。殆ど真っ裸で大学行ってるんだぞ。

 いくら暑いとはいえ、とんでもないクールビズだ。


「みんなの調子はどう? 見た感じレンはやつれて、少しシュッとしたんじゃない?」

「試験勉強のおかげでな。もっと痩せたら『勉強ダイエット』ってタイトルでn○teに載せて稼ぐわ」


 確かにレンは少し痩せた気がする。

 しかもここ最近、毎朝起きるとレンの目が虚なんだよな。

 心の変化がすぐに体に出るらしい。


「試験勉強中なの? だったらボク邪魔じゃない?」

「……いや、そうとも言えない。フランス語のテストあるから普段フランス語使ってるユノに教えてもらおうと思って」

「あれ、もしかしてみんなにボクがハーフって事話しちゃったの?」

「……ダメだった?」

「ダメとかじゃないけど……なんだろ。みんなに隠してた事をオープンにするのは自分の秘めたるところを晒すようでちょいと恥ずかしいんだよね。自分の裸を見せるようで」

「……青に染まった裸体で大学に行った人が何言ってる」


 なんだ、ユノにも羞恥心というものがあったんだ。


「……でも勝手に言ったのはごめん。配慮に欠けてた。一言言えばよかった」

「じゃあ罰ってことで、しばらくun câlinからのBisouはお預けだね」

「え、なにそのルー大柴みたいな言い回し」

「んむむ……言葉の意味はわからんが、なんかエロい感じがするな。どんな意味なのかを想像すると無性に興奮してくるぜ」


 ホイミの言う通り言葉の意味がわからない分、いろんなものを想像しちゃうなぁ。クドウがお預けって事は、ユノとクドウが普段からしてること……なのか。


「そんなに気になるならSiriに聞いてみればいいじゃねぇか」

「たわけか。俺のSiriにそんな猥褻わいせつそうな言葉を聞かせるわけないだろ」

「ちょっと。ボクが話した言葉はそんな卑猥じゃないんだけど」

「……そうなの? 期待に胸膨らませたこの感情をどうにかしてほしい」


 なんだ、クドウも意味分かってなかったのか。てっきり分かってるものだと思ってた。


「お、なんだか盛り上がってるかと思ったらホイミじゃん。テスト勉強か?」


 僕らが喋っていると、一人の店員さんが声をかけに来た。

 ほんのり焦げたような茶髪にピアス。ザ、大学生を出しているこの人はどうやらホイミの知り合いのようだった。


「あれ、だいそん君。アルバイト先ってここだったのか?」

「おおよ。ま、ゆっくりしていけな」


 みんなに軽い笑顔を見せた店員さんはそう言って、別の席の注文を取りに席を離れていったのだった。


「ホイミ、あの人誰? 随分綺麗好きな名前の人のようだけど」

「あの人は、二年の大村(おおむら)先輩だよ。ほら、お前らに共有した人類学の過去問くれたっていう先輩」

「あぁ、あの人が」

「……お礼言わないとね。あれで結構な勉強の時間が省略できる」


 そうか、あの人が人類学の過去問をくれた人なのか。あの過去問で、ある程度出る範囲把握できたからほんと助かったんだよなぁ。


 それにしてもだいそん先輩。見かけは少しチャラいけど、バイトの働き具合からして人柄はすごい良さそうだな。

 どのお客さんにでも笑顔振り向いてるし、側から見ても分かる通り丁寧な接客だし。


「あの感じだと、近所のおばちゃんとかにモテそう」

「見かけはともかく仕草や対応は爽やかで好青年っぽいしね」

「……ゲイバーでモテる典型的なタイプだね」


 僕以外にもやっぱそう見えるんだ。

 まぁ、こっち来た時もすごく愛想よさそうだったもんな。


「あの人はマジでいい人だぜ? だが、少しばかりやんちゃすぎて経済学部の汚れ物とか言われてるけど」

「ダイソ○なのに汚物扱いなんて複雑だなぁ」

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