第40話 BBQの合間の時間の宣言


 食事が一通り済んだ僕らは、個々で時間を過ごしていた。


 詩葉、ユノは近くの川に足だけ入れて、軽い水の掛け合いをしている。

 今日は5月だというのに、かなり暑い日だったので、ちょうどよく涼しめているようだ。

 ちなみに、ユノは周りの視線が痛いという理由でコスプレを脱がされていた。


「キャッ! ちょっとっ、ユノ冷たいって!」

「あははっ!!」


 そして、僕、クドウ、トクダネはそんな二人のじゃれあっている姿を椅子に座りながらしっかりと目に焼き付けていた。


「むふぅ〜こりゃ眼福やな。シャッターきりすぎて指が痙攣してまうわ」

「……カメラのボタン高橋名人ばりに連打してるけど、その指の動きどうなってるの」

「トクダネったら、勝手に二人の写真撮ってていいの? 詩葉に関して言えば、それで一回カメラを壊した前例あるんだから。トクダネも壊されるよ?」


 確か『週刊BAN秋』の記者が被害に遭ったが、あれはあれで勝手に詩葉を許可なく撮ろうとしたんだから当然の報いだろう。

 しかし、トクダネがやってるのは同じ事なので、もしかしたら詩葉に見つかり次第、刑が執行されるかもしれない。


「それは大丈夫や。ここに来る時、詩葉嬢さんにはカメラを壊されたヤツがその後どうなったのかを詳細に伝えて、カメラを壊す行為についてある一定の罪悪感を与えたからな」

「事前に精神的攻撃!? なんて悪役じみた事するんだ」

「ま、そうは言っても今回ばかりは詩葉嬢さんに直接OKは貰ってるからなんて事ないんや」


 まさか精神的に追い詰めて弱体化させてるとは。

 マスメディアとはこうも恐ろしき存在か。


「……それでもよく許したね」

「確かに。いくら弱体化させても詩葉の写真撮影の抵抗力が下がるとは思えないし」

「思い出を形に残したいんやーとか言うたら案外簡単に了承してくれたで? 頼んでみるもんやな(ま、ナギの写真を無料で提供する条件付きやけど)」


 思い出を形に……か。

 トクダネもたまには気持ちのいい事を言うじゃないか。

 本音はどうかは分からないが、詩葉はそう言ってくれる人を無下には出来なかったんだろうな。


「それにしても、あんなかわええ子がまさかナギなんかを好きやとはな」

「なんかって……本人隣にいるんですけど。でもそうなんだよなぁ、なんで好きなんだろ」

「……そう自分を卑下する事ない。ナギにも良いとこ沢山ある」

「例えば?」

「……マルチプレイをすぐに手伝ってくれるところ」

「それの良さが全然分からないんやが」


 クドウの言う通り確かに、ソシャゲのマルチ誘いにはすぐに参加できるよう心がけてるつもりだ。

 だけど、僕の良いところを出すのに一番初めがそれって……もっとあっただろ。


「しかも相当、どっぷりとナギにハマっとる。あんな、あからさまなん初めて見たわ。そこらのビジネスカップルよりカップルしとるで、自分ら」

「あはは……カップルって。そう言われても付き合ってないからね」

「……本当に謎」


 僕こそ言いたい。本当にこの状況が謎だ。


「そういや、レンから聞いたけど、二人でデートしたんやって? どうやったんや?」

「……そういえば、俺も聞いてない」


 名古屋駅に出かけた時の事だろうか。

 確かにあの時の事は、一緒に住んでるレンぐらいにしか言ってなかったな。クドウに関しては、その直前まで会ってたのに伝えてなかった。


「そりゃ良かったよ。詩葉が人にあまり見せたがらないような新たな一面をこの目でじっくりと味わえたんだから。ぐへへ……」


 僕の脳内に呼び起こされる数々の詩葉のメガネ姿。振り向きざまに見せる眩しい笑顔。

 ……じゅる。おっと、よだれが。


「お前らデート中、どんだけ破廉恥なプレイしたんや……」


 しまった、言い方が不味かったな。

 おかげでトクダネが興奮し始めてる。


「や、やらしくないよ。デートって言ってもメガネを一緒に買いに行っただけで」

「え、そうなん? なんや”はじめてのおつかい”みたいな内容やん。エロい話が聞けると思ったらなんか急に拍子抜けやな」

「……メガネ買うのは知ってたけど、それだけしかしてないの? ご飯とかは?」

「いや、実は道中で和菓子を食べ過ぎて、二人してお腹いっぱいだったんだよね」


 せっかく二人きりになれたからご飯にでも行こうと思ったんだけど、本当に惜しい事をした。

 でもいちご大福美味しすぎたんだよなぁ。


「アクシデントとか、おもろい事なかったん?」

「アクシデント? んーーあ、それに近いと思うんだけど。なんか突然詩葉が、買った和菓子の粉をぶっかけてきたんだよね」

「……ナギ、何して怒らせたの?」

「いやそれが怒らせた覚えが全くないんだよ」

「……何かして怒らせでもしないと粉なんてぶっかけられないでしょ」


 あの時は、確か詩葉の口元についた粉を取ってあげただけなのに……謎が深まるばかりだ。


「いや! クドウよ、そんな事ないで? それに近しいもの最近見たし。それはパティシエがお客の男の身体中に粉をまぶして男の裸を舐め回すっていうーー」

「詩葉の行動をエロ動画の設定に当てはめないでよ」

「……つまり、詩葉はデート中にナギに対して性的興奮したから粉をぶっかけたと……否めないな」

「いや否定して? そこはきっぱり否定して? これじゃ詩葉がただの変態みたいじゃないか」

「……それに近しい存在っていう認識はあるけども」

「さっき、『牡蠣と一緒にナギを食べたい』って、軽く韻踏みながらいかがわしい欲望曝け出しとったで?」


 まぁ、誰にでも性欲はあるから仕方ないよね。人間だから。


「まぁ、総じてや。結局今回のデートではなんも変わらんかったわけや」

「残念ながらね」


 今回のデートで詩葉との関係を少しは前に進めれるかなと思ったけど、思う通りにはいかなかった。

 思えば久しぶりーーいや、もしかしたら二人きりで出掛けたのは初めてだったかもしれないな。


 詩葉とのデートを思い返すといろんな感情がごちゃ混ぜになるけど、実はたった今、他の感情よりも一番強く心に残ったものがあった。


「何も変わらなかった。ーーでも、詩葉とのお出かけは楽しかったなぁ」


 楽しかった。

 詩葉と一緒にいて楽しかったんだ。詩葉のメガネ姿が可愛いだとか、いちご大福を頬張る姿に見惚れちゃったとか、それらもあったけど、一番はこれだった。


 僕がそんな事を言うと、クドウとトクダネはお互いに顔を見合わせ、微笑した。


「ははは、なんやそれ。そこまで清々しい笑顔を見せられるともう何も言えへんな」

「……もっと内容細かく聞いて、ダメ出ししようと思ったけど。楽しかったならよかった」



○○○○○○



 僕ら3人が和やかに過ごしていると、男三人組がこちらに向かってくる。

 ナンパしに遠征に出ていたホイミ達が帰ってきたのだ。

 こちらに来る3人の顔を見てみると、どこか不満げというか機嫌が悪そうな顔を見せていた。


「おい、ハヤシダ。あの女子大生グループ全然じゃねぇか。ノリ悪いったらありゃしない」

「おかしいな。俺のスカウター兼サングラスがビンビンいってたんだが。Ray-Banだから期待値高いのに」

「そのサングラス壊れてんだろ。しまいには、あの女の子達、近づいたホイミに食べ残りのトウモロコシを投げつけてきたぞ? 食い物投げるとかどんな教育受けてんだ」

「全くだぜ……ムシャムシャ」


 ん? なんかホイミが黄色いの食ってるけどなんだろ。

 親切な人にもらったのかな。


「……ったく、さっきからナンパ成功しねぇじゃねぇか。ハヤシダがBBQに来る女子はノリが軽い子が多いって聞いたから今回開催したってのに」

「田舎まで来て、成果ゼロとはな。ハヤシダ、本当に前BBQ来た時は、女の子GETしたのか?」

「ほんとだもん! ほんとにヤリマ◯ビッチはいたんだもん! うそじゃないもん!」

「なんだよ、その言い方。トト□のメイかよ」

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