第39話 威圧的な装いの宣言

 目的地に着いた僕らは各々BBQの準備を始めていた。

 僕、詩葉、ユノ、ホイミの四人は借りたテントやら椅子とかを施設から運び出し、場所の準備に努める。

 他の四人はというと、そんな力仕事から逃げるように調理場に走っていった。



○○○○○○



「ーーほいっと!」

「ーーどりゃ」


 斧を力強く振り下ろした詩葉とホイミの声の後にカコン、と軽快な音が発しられ、薪が割れる。多くの薪を割ったために周囲には、沢山の木片が散らばり落ちていた。


 荷物を所定の場所に運び終えた僕ら四人が、なぜこんな事をしているのかというと、どうやらこのBBQ施設では焚き火体験が出来るらしく、どうせならやろうと思って、その薪を調達するために薪割りしていたのだ。


 それこそ最初は男のホイミと僕でやっていたのだが、重量ある斧に翻弄された僕は挫折、途中から詩葉に変わっていた。


 しかし……斧が本格的だからかなり力がいるはずなのに、意外にも詩葉が続いていた。

 それどころかなんと、焚き火体験用に用意された全ての薪を割ってしまった。


「うわーすごい、二人とも。もう全部やっちゃった。体格良いホイミはともかく詩葉が意外だね。詩葉、こういうのやった事あるの?」

「まぁね。おばぁちゃんの家が田舎だったから小さい頃にやってて。薪割りなんて慣れたもんよ」


 ユノにそう言って、斧を軽々と肩に持ち上げている詩葉の姿はよくゲームに登場しているような屈強な女戦士のようだった。


「それじゃ、割った薪はあっちに持ってっちゃうね!」

「ありがと、ナギ」

「いやーボク感服しちゃったよ。詩葉の薪割り姿。振り下ろすさまがかっこよすぎて、そこらの男なんて目じゃないね」

「おい、ユノ。俺も隣で薪割ってたんだが? 俺の勇ましさは目に入ってないのか」

「ごめんね、ホイミ。今日メガネ忘れてて」

「お前裸眼だろ」


 ちなみに、ユノは両目とも視力1.5と車で言っていたのを覚えているし、それに対してクドウが恨み節を言っていたのも覚えている。


「全く、こっちの男子はともかく他の男性陣はなんて頼りないのかしら。普通、力仕事って男の見せ場でしょ? それなのに早々に逃げ出して」


 詩葉は、斧を元の位置に戻しつつ序盤に逃げ出した男性陣に文句を垂れていた。

 すると、ちょうどそれが耳に届いていた逃げ出した張本人のレンが、調理済みの食材を入れたザルと共に姿を現した。


「わかってないなぁ、詩葉。世の中には適材適所って言葉があるんだ」


 そのレンに続くように、爆音に近いEDMをスマホから流すハヤシダ、ウインナーを口に運ぶクドウ、なぜか望遠鏡を覗いているトクダネが参上した。


「アンタ達やっときたわね。それで、適材適所って、どういう意味よ」

「メッシに野球をやらせるか? ん? 松本人志にプログラミングさせるか? やらせないだろ? その人にはその人の得意な分野でやらせるのが吉だ。そんでもって俺の担当は調理担当」

「……味見担当」

「空気盛り上げ担当!」

「頑張る女性陣を見守る担当やで?」

「レンはともかく他三人は壊滅的に要らない要員ね」


 詩葉の一言は的確過ぎると思う……。

 しかし僕を含め、なぜに僕の友人達にはアウトドアに向いた頼れるたくましい男というのが少ないんだ?


 数少ないそれに該当するはずのホイミでさえ、周囲でイチャイチャしているカップルを目にし、嫌気が差したのか、割らなくて良いはずの薪を細切れにしているくらい嫉妬深くて、人間的に終わってる。



○○○○○○



「む! これおいひぃーー!!」

「ん。こりゃ凄い。肉なんて焼いたら全部同じかと思ったら全然ちゃうな。レン、見事やで」


 BBQの支度が出来た僕らは次々と肉やら野菜やらを焼き始め、思い思いに食べ始めた。

 それこそそのまま焼くものだけじゃなく、じゃがバターやら簡単なホイル焼き、下ごしらえが必要なおしゃれな料理も炎の料理人レンによって用意されており、みんなに絶賛されている。


「お粗末」

「……ふっ、誰が味見したと思ってる?」

「俺が場を盛り上げた成果がきちんと出てるな、うん」

「お前ら二人はなんで、自慢げなんだ?」


 しかしこの肉とか冗談抜きで美味しい。精肉店で買ったとはいえ、やはりレンが調理した効果もあったという事だろう。

 なんでも肉を柔らかくするためにハチミツを塗ったとか言ってたが……なんなのアイツ、『食戟のソ◯マ』に出てた?


 談笑しつつ、食べ物を口に運んでいた僕らだったが、少しすると周囲の目が多い事に気づいた。

 このBBQ施設には、もちろん僕達以外にも他に利用者がいて、家族連れや僕らと同じ学生がこぞってBBQしている。だから自然と周囲の目があるのは当たり前なのだが、それにしても多い。

 特に男子の。


『なぁ、なぁ、すげー可愛くね、あの子』

『あぁ。それにもう片方の女の子も中々レベル高くね?』

『おい、お前声かけにいけよ……』


 この周囲の目の原因、声の内容を聞けば分かる通り、ウチの女性陣の人気によるものだった。

 よく見れば、独身男子や男子学生はともかく、子連れのお父さんまで見てるとは……一緒に来てる奥さんに怒られますよ?


「おい、詩葉。お前のせいで食事してるだけで、めっちゃ注目浴びてんだけど。どうにかしろよ。ここは食レポ現場か」

「そんなの知らないわよ。勝手に見てくるんだから。適当に対応しとけば良いんじゃない? ユノ、任せたわよ。アナタ、コスプレとかやってるからそういうのは得意そうじゃない?」

「ちょっと、ちょっと。コスしてる人は、みんなコミュ力高いとか思わないでよー。ボクは人に見られるのは好きだけど、別段人と絡みたいとはあんま思わないんだよ」


 しかしこうしてやたらたくさんの人に見られると食事が進まない。

 どうやらそれは僕だけじゃないようで、みんなの食事の手が遅くなっているのに気づいた。


 なんとか対抗策はないものか。


「じゃ、ユノが彼らを威圧するのはどう? ほら山だから山賊とかのコスプレで」

「何そのピンポイントなコスプレ。それにナギは、ボクが日常からコスプレの服持ってると思ってるの?」

「え、ないの?」

「まぁ、あるけど」

「あるんだ……」


 コスプレのイベントでもないというのに、持ってきてるなんて。ましてや人が少ないど田舎の山の中だぞ? 

 ユノの考えが全く読めないな。


「一応何かの時に着るかなと思ったから用意してて。まぁ、さすがに山賊ではないんだけど」


 そう言いながらユノは、一つの袋を持って、女子トイレに入っていった。

 それから数分後、女子トイレからこちらに向かって歩いてくるユノらしき姿が。


 ユノは、年季の入った軍帽と軍服を身につけ、手には銃剣仕様のモデルガンを持っている。そして首には、そのキャラの象徴とも言えるマフラーをもしていた。


「え、なんで軍服?」

「しかもアイツ、手に物騒なもん持ってぞ? 変なもん食ったか?」

「おかしいな。一応、今のところキチンと焼いたものしか提供してないが」


 そのコスが何を意味するのか分からない詩葉達は、様変わりしたユノの姿に疑問顔を浮かべているが、事情を知っている僕らからしたらこれは、かなり……アガルなぁ。


「なるほど、杉元さんね」

「……完璧。もうここが北海道に見えてきた」

「悪くない」

「うわ、オタクどもが湧いてきた」


 まさか金カムの杉○佐一でくるとは。

 しかも軽く見ただけでもかなりのクオリティ。あ、よく見たら顔にもちゃんと傷を描いているし、事細かく再現してるなぁ。

 これは、山賊よりもこの場に合ってるんじゃないか?


「アシ○パさんじゃないのが、また高得点だよね」

「いやー さすがに小柄なアシリパさんのイメージは壊したくないからね。ボク、タッパあるからさ」

「……とりあえず女性キャラにコスすれば良いや、っていう安直な思考回路してないのはさすが、俺の彼女」

「ま、まぁ俺はコスプレとか興味ないけど、ユノちゃん、写真撮らして。今日のストーリーのっけるから」


 む、あれほどオタクを隠してたハヤシダが我先に撮影なんて、ずるいヤツだ。

 僕もあとで撮らせてもらおう。


『え、何あれ……』

『警察……とかじゃないよね。怖いんだけど』

『お、おい。あんま見んなって……あんま関わらないほうがいいぞ』


「ねぇ、別の意味で注目浴びてない?」

「さっきまで色目使ってた様子だったのに、一瞬で変人を見る目に変わったな」

「いや、これは詩葉が悪いぞ? ユノに任せたんだから」

「そうやな。BBQ場を一瞬にしてコミケ撮影会の雰囲気にしてもうた」

「いや、私は適当に人をあしらってほしいってお願いしたつもりよ? 撮影会始めてなんて言ってないけど」



○○○○○○



「じつはこの模造銃。弾を込める動作も出来て」

「「「おぉーっ!! すげぇーっ!!」」」

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