第29話 メガネの価値の宣言
……講義が終わったとある夕方頃。
僕らは毎度のことながらアパートの部屋にて過ごしていた。ただ今回はホイミは居酒屋のバイトでおらず、僕とクドウとレンの三人だけとなっていた。
レンは夕飯の準備、僕とクドウはテレビゲームをするなど思い思いの時間を過ごしている。
「あれ? クドウ、眼鏡変えた?」
プレイしていたゲームを終了するや、僕はクドウの顔を見て、ふとそう述べた。
今まで全然気づかなかったけど、フレームとかの色が変わってるじゃん。新しく買ったのかな。
「……あぁ。前使ってたmark11が壊れたから、新調した」
「メガネの種類の言い方が完全にアイア◯マンのスーツと同じじゃないか」
メガネをそんなカッコイイ言い方で識別してるとは、ちょっといいな。
僕も今度何か買い直したらそんな風に言おう。
僕らがメガネの話題について話していると、その内容がキッチンに届いたのかレンが鍋をかき回しながら口を開いた。
「俺、日常はコンタクトだけど、普段からメガネかけてるやつってさ。かなり損してると思わね?」
「え、なんで?」
「だってよ。メガネかけてるだけで、さも頭が良いと思われるし、運動音痴認定されるんだぜ? 勝手なイメージを持たれるなんて損でしかないだろ」
そう言われるとそうかもしれない。なんかメガネをかけてる人を見るとその人が知的キャラに見えるし、運動が苦手と無意識に感じる。
なんでだろうか。やたらドラマとか漫画とかで、全メガネキャラがそういう風に描かれているからかな。
「……ふん、コンタクトに逃げた負け犬がなに言ってる」
するとレンの言い分にクドウがメガネをくいと上げ、目を光らせながら反論する姿勢を出した。
「……普段メガネをかけてるやつがどれだけ成功してると思う? コ○ンに、ハ○ー・ポ○ター、の○太。その他のメガネ神達はエンタメ業界で何億と稼いでるんだ。現実だったら何人の女抱いてることか」
「そりゃ現実の話だったらな」
クドウはメガネ姿も損ばかりじゃないと言いたいのかな。
でもやっぱり損しかないように思えてならない。
「クドウはコンタクトにしないの?」
「……もちろん。メガネと共に生き、メガネと共に死ぬ運命だ。特にレンのようにモテたいからメガネ姿よりもメガネのない容姿を優先した邪教徒になんかならない」
「そ、そんなことないし? お、俺は運動とかしづらいとかでコンタクトにしたんだし? べ、別に見栄えを良くしたかったとかじゃーー」
「ダウト。レン、運動しないよね」
すごく分かりやすい嘘だったな。まぁ、レンが女子受けのためにコンタクトにしてるのは別に驚きはしないけど。
「そう言えば、ナギは裸眼だっけ?」
「うん。結構、目を悪くするような習慣してるけど、視力は変わんないね」
目を悪くするよくある行動……テレビを近くで見たり、真っ暗闇で映像を見たりしてるが、幸運なことに目は悪くはなってない。
今後なるかもしれないが、オタク活動にはこのように目を酷使することが多いからな。この習慣を止めるつもりはもちろんない。
「それにしても視力が悪いのは大変だよね……同情するよ」
「……何が同情だ。同情するならレーシックを受ける金をくれ」
「メガネは好きなくせに、視力は取り戻したいんだね」
「……メガネがなくなった瞬間、見えなくなるのがどれだけ恐怖だと思ってる。他にもマスクの曇り、汗でのフレームのズレ、運動での破損。日常に不満はウヨウヨある。ほんとこの世界は、真のメガネストにとって生きにくい」
だったらコンタクトにすればいいのに……と僕は思ったが、何か言っても反論されそうだったので心の内に隠す事にした。
○○○○
「ヤッホー! 遊びに来たよ〜!」
玄関の扉が開き、詩葉の姿と元気でハツラツとした声が届いた。
最近、詩葉が向かいの部屋に住み初めてから、彼女はよく僕たちの部屋に遊びに来てくれることが多くなった。
僕個人としては最高に嬉しいのだが、中にはあまり快く思わない奴もいて……。
「また来たな、一言余分女。最近やたら遊びにくるがこの部屋を公園か何かと勘違いしてんじゃねぇのか?」
「もしもここが公園なら今頃アンタを多目的トイレにぶち込んでやるわよ、レン」
「……今の時代、そのワードは厳禁」
クドウの言う通りそのワードは、かなりの人が敏感になっているから使用はなるべく避けた方がいいかもしれない。
もはや”多目的”だけでも悟ってしまう。
「--あれ? 詩葉。珍しいね、メガネなんて」
「えへへ、気づいちゃった?」
いきなりレンとドンパチし始めたから気づくのに遅くなったが、珍しく詩葉がメガネ姿だった。
うむ。とりあえず詩葉のメガネ姿は満点だな。いつもよりもさらに清楚感に磨きが掛かっているし、知性を感じる。
ほんとこの子は何を身につけても似合うな……メガネをしていても目からフェロモンがダダ漏れだ。
「そりゃ気づくだろ。隠してるわけじゃあるまいし」
「コンタクトじゃないんだね。何かワケあり?」
「うん、そうなの。なんか朝から目の調子おかしくて、コンタクトがつけれないのよね。もしかしたらナギの事見すぎて、目が疲れちゃったのかも--キャッ」
「それが理由で目が不調になるなら同じ部屋に住んでて一日中ナギを見てる俺は失明するな」
「…………」
度々キッチンから聞こえるレンの皮肉や嫌味が、詩葉に臨戦態勢をとらせた。
あぁ……これはまた荒れるな。
「ちょっと、レン。さっきから一言余分なのよ、邪魔しないでくれる? クドウ、レンを黙らせてくれたら500円あげるわ」
「……バカにするな。500円なんてレンズ一枚も買えない」
「じゃあ5000円」
「……おい、この料理しか能のないヘタレクソ野郎。良い加減黙りやがれ! 口がニンニク臭いんだよ。豚と一緒に炒め物にしてやろうか!?」
「おい、クドウ。移り変わり早すぎだろ」
「……赤札堂だと5000円あれば、眼鏡が2本買えるから」
彼にとってのメガネの価値はどうなってるんだ。
メガネ2本で友人を罵倒する移り変わりの速さを見せるなんて……今後何かあった時のためにこの価値を調べておくべきだな。
「それにしても、詩葉は眼鏡姿もほんと似合ってるね!」
「えへへ、ありがと」
僕がそう言うと、詩葉は少しだけ顔を赤くしながら喜びを頬に浮かべた。
レンの嫌味はともかくこれを口に出さずにはいられなかった。
いつも見る姿も文句なしに最高なのだが、このメガネ姿も普段とのギャップというか、なんというか……とにかく最高だぜ。
「あ、そうだ!! ちょうどメガネのスペア欲しいと思ってたからさ。今からメガネ選びの買い物に付き合ってよ、ナギ」
---次話、『初めての二人きりの買い物宣言』に続く……。
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