第2話 仲間の紹介の宣言①


 ーーそれから幾許かの時が経った。




「……ということがあって」

「なるほど。卒業式の後、俺と別れてからそんな事があったのか」


 小綺麗な駅近に位置しているのに、外観はそんな駅近にあまりにも似合わないすたれた様子のボロアパート、『馬連ばれんしあが』。

 その401号室が僕……各務原(かかみがはら)凪(なぎ)と、目の前で今まさに僕の話を聞いていた大垣(おおがき)蓮(れん)の部屋だった。


 このアパート、大きな間取りで、駅近という好立地なのに、家賃はとても安い。

 ただでさえ、家賃や生活費、その他雑費を家族の支援なしで支払ってる僕からしたらこのアパートは心強い味方だった。

 ちなみに、家賃はルームシェアをしているレンと折半だ。


 間取りは2LDKで、部屋は小さいながら一人一部屋あったし、共同スペースとなるだだっ広いリビングもある。

 家具も前いた人がそのまま置きっぱなしでそのまま使わせてもらっているから、僕らにとっては良い所づくしだった。


「とりあえず--2、3分だけ話すって言った挙句、1時間も話した罪は大きいぞ?」

「分かってるけど、そうでも言わないとお前は話聞かないでしょ? 相談を聞いてくれた後は、僕を煮るなり焼くなりしても良いからさ」

「わかった、そうさせてもらう。ちょうど昨日、人一人入れるぐらいの鍋買ったからな。……ったく、Amaz○n様様だな」


 え……? マジで言ってないよね。

 冗談で言ったんだけど、レンが『具材は用意できたし、今日の夕食何しようかな』と小言を漏らしてるのを見て、少し冷や汗をかいた。

 

 レンがクックパ○ドで見始めた肉じゃがのレシピを見終わる前に、次の話を進めさせてもらおう。


「それで中身だよ、中身。僕と詩葉の物語、エピソード4を聞いてどう思った?」

「おいこら、エピソード4って何だよ。今まで話してたのが最初のだろ。いつ1、2、3を俺に話したんだ?」

「1、2、3は今後話すんだよ。そう急かすな。ちなみにそれらの中身は僕の生い立ちから今に至るまでで--」

「公開順番、スタ◯ウォーズかよ。お前の生い立ちなんて死ぬほどどうでもいいわ」


 ちなみに、僕と詩葉の物語エピソード1、2、3は一作あたり2時間を目処にしてる。結構な長編だ。

 っていけない、いけない。話を戻さないと。


「とにかく、ここまで話を聞いてどう思った?」

「んーーそうだなぁ」


 するとレンは座っているソファにもたれかかって、伸びをした。ひとしきり伸び終わった後、何個かある服のポケットをまさぐり始めた。


 何か探しているようだ。

 そして目的のものが見つかったようで、僕の目の前に出す。


「とりあえずこの連絡先に連絡してみろ。まさかお前に使う時が来るとはな」

「これは……?」


 レンから小さなメモ用紙を渡された。それはやたら握られたのか、くしゃくしゃになっている。

 そのメモを開くと、そこには一つの宛先と番号が。

 ふむふむ、書いてあるのは厚生労働省、麻薬取調べ部……ちょ、待てや。


「いやいや!! 僕、別に薬でキマってないからね!?」

「なるべく早い方がいいらしいからな、すぐに--」

「ーーだから薬やってねぇよ!! 何なの!? 今までの会話の中身のどこで、僕が薬やってると思ったの!?」 


 失礼しちゃう。これでも精神や体はまともな健康優良児だというのに。

 というか、なんで、レンはこんな紙持ってんだよ!?


「全部だよ。普通に考えておかしいだろ。高校で高嶺の花、アイドル扱いだったあの詩葉に告白するつもりが、逆にお前を惚れさせる……って、訳分からん宣言されただと? お前がハイになってると思ってもおかしくないだろ」

「……まぁ正論だね。僕がレンの立場だったら僕もお前にそうしてたかも」


 レンは中学からの親友ーーいや悪友だった。高校も同じで、もちろん、詩葉を知っていた。

 ついでにコイツは、僕の片思いの相手が詩葉であるのも知ってたりする。

 当時、恋愛のアドバイスをくれた人達の一人なので、今回も相談に乗ってくれるだろうと思ったが、その結果は薬物中毒者扱いだった。


「で、でも一番驚いてるのは僕なんだ。いくら考えてもこの状況が全然処理できてなくて、、、だからこうしてお前に相談してるんだろ?」

「むぅ……そうは言ってもな。その話を信じようにも証拠が無いからな」


 確かにこうも信憑性を疑われると、ベテラン刑事の如く証拠の一つや二つをすぐに提示したくもなるが、残念ながらそんなものない。

 この話は、その場にいた当事者の僕と詩葉しか知り得ないのだから。


「お前はどう思う? クドウ」


 そう言って、助言を求めるようにレンは背後にあるキッチンに目を向ける。

 そこには、レンと同じく僕の話を耳に通していたであろう男。芽鏡(めかがみ) 翔(かける)ーークドウがいた。


 喉が乾いたとインスタントコーヒーを準備していた最中のクドウは、準備したお湯の湯気によって自前のメガネが曇ったためメガネ拭きで拭いている。


 ちなみに彼のあだ名、クドウというのは、彼の名前とはなんら一切関係ない。むしろ彼の特徴の一つである眼鏡に関係がある。


 大学で初めて知り合った時、レンがクドウを見て、『コナ◯』と言ったのが事の始まり。

 それから仲間界隈での彼のあだ名は、コ◯ンにしようという事になったのだが、その時クドウ自身が『仮初かりそめの名は嫌だ』という訳の分からない反論をしたので、◯ナンの本名の工藤シ◯イチからクドウを取ったのだ。


「……個人的に、『ファントム・メナス』は駄作だった」

「何の話してんだよ!?」

「……スターウォ◯ズの話では?」


 さすが僕のオタク同志。目の付け所が違う。

 そうなんだよなぁ、一作目は映像凄いのは分かるんだけど、他の部分がなぁ。


 ついでに、クドウは僕とオタク同盟を結んでいたりしている。同盟とは名ばかりで、作品について語り合うただのオタク仲間だが。


「そんなもんしてねぇよ!! それじゃなくてナギの話だよ。ナギが女に求愛されてたってやつ」

「……美人局つつもたせに絡まれた話?」

「ま、それに近いわな。もうそれでいいや」

「おい、勝手に捏造すんなよ!!」


 話しているのが馬鹿らしくなったのか、レンは諦めたように、話題を放置した。


 すると、クドウは『……冗談だ』と言葉を漏らしたのち、僕達の会話に入ろうと、インスタントコーヒーを入れたカップを持って、レンの隣に座る。


「……正直に言えば、信じられないが本音。聞けば、ナギは片思いしてた子に言い寄られたんだろ。それじゃ今頃ナギは、普通その子と付き合ってるはずだ。なのにそうじゃない」

「おぉ……!! 確かに。さすがクドウだ、冴えてる」

「いや、実はさ、それにも色々と……複雑な理由が」


 客観的視点から見たクドウのその言葉にレンは納得した表情を浮かべた。

 マズイな。このままだと僕が、お笑い芸人のクロちゃんばりのただのホラ吹きになってしまうしん。

 本当の事なのに……。


「つーか、お前、既に卒業式から約一ヶ月以上、さらには大学始まってプラス三週間は経ってるよな。なんで今日まで俺に相談してこなかったんだ? 時間あったろ」

「それらも含めて次のエピソード5で話をーー」


 僕が話を続けようとしたその時、突如勢いよく部屋の扉が開かれて、ガタイの良い大男が焦った声色を出しながら部屋に乗り込んできた。


「た、大変だぁぁーーっっ!!」

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