『絶対にアンタを惚れさせてみせる!』と幼馴染に宣言された僕。だが残念、既に僕は君に惚れている!!

梅本ポッター

第1話 突然の宣言


 四月一日(わたぬき)詩葉(うたは)。

 僕の好きな人の名前だ。


 身長は女性にしては高い方の165センチ前後。目を見張るほどのボンキュッボンの完璧な体型。

 そして特徴的な腰まで真っ直ぐに伸びた漆色の長髪は、一つにまとめられていて、髪の毛一本、一本まで綺麗に手入れされていた。


 顔立ちは、すれ違う人が振り返るぐらいに整っており、長いまつ毛にパッチリとした大きな瞳。高い鼻立ちやぷるっとした淡いピンクの唇。全ての顔面のパーツが程よく揃っていた。


 では性格はどうか。

 よく『外見が良い女性の中身は、ダメな事が多い』と根拠のない説が出回っているが……詩葉に至っては、そんな説など掠りもしないほどだった。


 横柄な態度は取らず、分け隔てなく優しく接する女神のような性格。

 女の子がよく毛嫌いする男ノリってやつも頻繁にではないが、そつなく合わせたり、理解がある方。つまり愛嬌がよかった。


 容姿端麗、さらに優しい性格の詩葉は、中学、高校と学校のアイドル的ポジションとしてその地位を確立していた。


 それではこんな風にストーカーじみた解説で詩葉を説明している僕は誰か……。


 各務原(かかみがはら)凪(なぎ)。これが僕の名前だ。

 好きなものは和菓子に漫画、アニメ、ゲーム。--以上。


 ……という具合に、簡素な自己紹介が済んだところで、みんなが知りたがっているであろう僕と詩葉の関係についてお話しをしよう。


 僕と詩葉は世間で言うところの『幼馴染』と言うやつだ。

 家がご近所さん。昔から親ぐるみで付き合いがあり、幼少期から一緒に遊んでいた。

 もちろん、詩葉の家にも遊びに行った事はあるし、詩葉が僕の家に来た事もある。

 幼稚園、小学校、中学、高校と一緒で、さすがに全部同じクラスとはいかなかったが、大体同じ学校にはいた。

 とにかく僕達二人は何とも長い付き合いなのだ。

 

 つーか、『幼馴染』って定義難しいよね。幼稚園から知り合いだったら幼馴染? 家が近かったら幼馴染? 日本語って難しい。

 しかも『幼馴染』って言うと、なんか妙にその人との関係が特別な感じが出るあの現象に名前をつけて欲しい。


 ……ゴホン……さて話を戻そう。

 僕の好きな人は、冒頭で説明した通り四月一日詩葉である。誰が何と言おうとそうなのだ。


 外見のかわいさもさることながら、愛嬌を感じる全ての仕草が目に止まり、心の奥をくすぐられてしまう。

 そして不意に見せる殺人級のとびきりの笑顔。あれで何回僕が悶え殺されたことやら。


 --あぁ、もうめっちゃかわいい。見てるだけで幸せになってしまう。



 この好きという想いを伝えるべく詩葉への好意が目覚めてからずっと今まで、いつの日か、いつの日かと待っていた僕だが、遂にその時は来た。


 皆がそれぞれの道に別れ、旅立つ高校卒業の日。

 卒業式が終わった放課後に僕は、よく二人で遊んだ近所の公園に詩葉を呼び出した。

 この長きにわたる僕の想いを伝えるために、僕と詩葉との関係を変えるために、告白をする事を決めたんだ。


 町全体に帰りのチャイムが流れ、既に人々は自分の家に戻るように歩を進めている。

 遊具の間から射し込む若干眩しくも感じる西日。

 もうまもなく春が始まる3月頭だというのに、妙に冬の残りを感じる肌寒い風が身に染みる。


 胸に手を置くと、今にも胸から飛び出しそうなぐらい心臓がバクバク鳴っていた。

 これから起こる事を予想して緊張しているのか、その動悸が収まる気配は一切ない。


「ふぅ---っっ」


 緊張を解くために一度深呼吸をすると、口から体内に向かって新鮮な空気が流れ込んだ。

 しかしそれは、体の芯が改めて冷え切るほど、とてもひんやりとしていた。


「落ち着け……落ち着けよ、僕。ここまで来たんだ、やるんだ……やって--」

「--お待たせ、ナギ」

「きゅう……っ!?」

「きゅう?」


 突然の愛しの存在の登場に、僕の発声器官はおかしな音を鳴らした。

 い、いかん。詩葉が心配そうな顔でこちらを見ている。


 というか、心配する顔も可愛いな。こんちきしょう!!


「だ、大丈夫だよ……。ちょ、ちょっと詩葉が急に出てきたからビックリしちゃって」

「ふーん、そっか……」


 そう詩葉は言葉を漏らすと、一時、視線を地面に落とした。

 

「(ん……? どうしたんだろ、詩葉)」


 明確な根拠はないが、今の詩葉はいつもより何かがおかしい。そんな感情が僕の心中に生まれた。

 なんか……何かに怒ってるような。


「ね、ねぇ、詩葉どうかしたの……? なんかいつもと」

「別に……何でもない」


 詩葉はそう言うと、きまりが悪くなったのか、後ろを振り返って背を見せた。


『……何やっ……んのよ……私……ビビ……い……!!』


 何か独り言を言っているようだけど……まぁいいや!

 よし! 僕の気持ちを伝えるんだ!!


「じ、実はさ、詩葉。僕--」


 もう、すぐそこまで言葉が出てきているというのに……言いかけた言葉の続きがなかなか出てこない。

 う……うっ、うわぁ……。体が震えるし、心臓の音がめちゃめちゃ鳴ってる。

 も、もう耐え切れない……。逃げ……。


「(……って、なに怖気付いてんだよ、僕!! 決めたんだろ!? ちゃんとケリをつけるんだって、決めたじゃないか……!! 詩葉とはこれでお別れなんだ!! ビビんなよ!!)」


 実は、僕と詩葉はそれぞれ違う大学に行く。

 幼稚園からずっと同じ場所にいた僕らだけど遂に離れ離れになってしまうのだ。

 だから今日、僕は気持ちを伝える!!


 えぇええい!! 玉砕しても構うもんか!! 南無三!!


「実は僕、ずっと詩葉の事--」

「--ナギィィ--ッッ!!」


 すると今まで背中を見せていた詩葉が顔に似合わない大声と共にいきなり僕と視線を合わせるべく振り返った。


 突然の高音の咆哮に僕は肩をすくませて、口を閉じる。

 あまりの驚きに目を見開き、突然声を出したその対象と視線を合わせた。


 詩葉は僕の前にどっしりと仁王立ちしながら指を僕に向かってピンと刺し、突然宣言したんだ。


「--いい!? 一回しか言わないわ、ナギ! 私はーー絶対にアンタを惚れさせてみせる!!」


 ……へ?


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