20××年3月20日 1回目。

第35話 ずっと、ずっと前から。伝えたかったことがあるんだ(加筆修正分)

 あれから、どれくらいの月日が経っただろう。

 暴走したトラックから辛くも生き残った僕と梓は、それ以降特段これといった危険に遭うこともなく、平々凡々とした、ありふれた高校生活を過ごしたと思う。

 ある一点を除いては。


 というのも。

 トラックを避けてからのやり取り仕草行動、当然だけど全部近くにいた人に丸見えだったわけで。端から見れば、僕に泣きながら抱きつく梓の図が完成していたんだ。


 そうなれば、ただでさえ距離感の近い幼馴染として認識されていた僕と梓が、より生温かい目で見守られるようになってしまい、恥ずかしい思いをすることになってしまった。

 おかげで、散々本音をさらけ出したにも関わらす、幼馴染という定義の関係のまま、季節が巡って、春を迎えた。


 僕が、梓が、共に迎えたいと願った、春を。


「……綺麗に咲いたね、ここの桜」

「そ、そうだね」

 春休みのある日、僕は梓に誘われて学校近くを流れる川沿いの桜を見に来ていた。風に吹かれ散ってしまった桜の花弁が、川の水面に浮かんで薄桃色に彩る景色は、東京の片隅を美しく飾ってくれる。


「……ねえ、凌佑」

 いくつかの橋を通って、通学に使っている駅が近づいた頃合いだった。

 春色に染まったカーディガンに、純白のワンピースを温かい春風に揺らした幼馴染は、ぐっと背伸びをして僕の耳元に近づいて、


「……ずっと、ずっと前から。伝えたかったことがあるんだ」

 聞きなれた、鳥の歌声みたいに優しい声音で、言ったんだ。


 何度目の告白だろうか。

 何度、僕は君のその純粋で、真っすぐな想いを踏みにじってきたのだろう。

 でも、今日こそは、ちゃんと応えられる。応えることができる。


 ちりんちりん。自転車のベルが軽く響き、僕らの横を通過していく。次のタイミング、


「……やっと、言えるね」

「うん」

「……私、凌佑が想像するより、ずっとずっとずっと、ずーっと前から」


 舞い落ちて来た桜が、僕の大好きな君の頬をそっと撫で、


「君のことが」


 白桃に色づいた頬っぺたを緩め、僕にしか見せない幼げで無邪気な笑みを浮かべ、


「大好きです」


 一回目の告白を、僕に伝えてくれた。

 答えなんて、迷うはずもなかった。ひとつしか、あり得ない。

「……僕も、梓が思うよりずっと、梓のこと、大事に思ってる。……大好きだ」

「……うん、知ってた」

 僕の答えを聞いた梓は、そっとはにかんでみせては、一歩、また一歩僕に歩み寄って、

「……絶対、一緒に幸せになろうね」

 探し続けたふたりの未来を、言葉にした。

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三度目の世界で、僕は君と一緒に春を迎えたい。【改稿版】 白石 幸知 @shiroishi_tomo

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