第3話 相手にとって不足なし

 月曜日、登校時間。アリスはいつものように路地裏を選び登校する。


「地獄の月曜日だね…天理からさくらの情報を聞き出してもいいかもしれない。天理は探ろうにもいつも探っているつもりなのに全くわからない」


 ようやく学校に到着。赤い服がまず教室玄関に寝そべっているはずなのだが今回は天理よりもアリスが先に学校に着いたようだ。


「珍しい、僕はそうでなくても路地裏で時間を費やして遅めの登校だというのに」


 しかし、アリスが天理よりも先に登校したわけではないことが朝礼でわかる。天理は単に体調を崩し休んでいたのだ。同時にアリスの顔がこわばる。なぜなら天理という最強の存在がいない今、天理に見られていない。つまり天理に一時的に支配されていないこのクラスメイトの人物たちはまた暴力を振るってくるかもしれないということだからだ。

 さくらはいるもののさくらは喧嘩ごとは強くないだろう。小休憩は何事もなく済んだ。そして昼休み。さくらがやってくる。


「アリスちゃんご飯食べよー」


「さくら、天理がいない今、僕に近づかないほうがいいよ。僕はあくまで天理がいたからいじられずに済んだだけだからね。今日の僕にかかわるとさくらもいじめられてしまうよ」


「私じゃ頼りないみたいじゃーん」


 すると、三人の女性がアリス、さくらのいるアリスの席に近づく。


「さくらさん、天理さんがいないのにアリスと食べるの?」


「ん?そうだけど?友達だし」


「でもそれはさくらさんの意志じゃなくて天理さんと友達で天理さんに仲良くするように言われてるからでしょう?」


「どういうこと?」


「別に言わないわよ、天理さんがアリスと仲良くするように言ったからさくらさんは仕方なくアリスと仲良くしてるんでしょ、今日くらい本当の友達と食べたら?天理さんはいないことだし」


 するとさくらはその三人の女子生徒に対して目つきが変わった。


「ふぅんそっか、私は天理ちゃんから無理矢理アリスちゃんと仲良くしてるように見られてるんだね、でも、私は友達の悪口を言う人はあまり好きじゃないかなー」


「天理さんに言う気?」


「天理ちゃんもアリスちゃんも私の本当の友達だよ、それ以上かな。だから私は私で解決する。知ってるよ、前まで暴力を振るってたことも、でも私は止められなかったね、でも今の私は本当のアリスちゃんを知ってる、だからアリスちゃんに暴力を振るうなら私が受けて立つよ」


「どうしたのさくらさん、アリスに弱みでも握られた?」


「友情関係で最も重要なのはまずは他人を知ること、ただし知りすぎてもいけない…」


 さくらは急にそうつぶやく。その言葉は天理を連想させた。


「どういうことよ?」


「アリスちゃんのなにも知らない人にアリスちゃんの何がわかるのかなーってね、それに三対二と喧嘩騒動になったら有利な数、それは私の強さがどの程度か知らないから一人でも二人でもなく三人で現れたのかね?」


 なり切っているのか次は明智を連想させる発言。アリスは思う、確かにさくらは喧嘩が天理よりかは強くないにしても平均よりかは強いかもしれない。そういう意味では分からない。


「別に暴力は振るわないわよ」


「それならいい…下手な真似はしないことだよ、偏見だけで人を判断しないでねー、じゃあなっ」


 それだけ言うとさくらはその三人を退散させた。天理と明智の思考併せ持ち、さくらという人物そのものの思考を読ませない。最後の決め台詞は何かのキャラの真似だろうか。


「さくら、君は喧嘩が強いのかい?」


「私は弱いよー、争いごとは嫌いだし」


「でも随分と強気だったね」


「争いごとは嫌いだけど私じゃなくて私の友達を馬鹿にする人はもっと嫌いだからねー」


 さくらという人物はあまり嘘をつくようには見えないが天理の思考を兼ね備えている。本当は力も強いのかもしれない。さくらは友達思いなのだろう。


「僕とさくらは友達かい?」


「当り前だよー、アリスちゃんがそう思っている限りずっと友達だよ」


「ふふ、嬉しいものだね」


 さくらという人物はまだわからないこともあるものの友達思いで友達のためなら手段を択ばない未来と似たような存在ということが分かった。


「これからもよろしく頼むよ、さくら」


「もちろんだよーアリスちゃん」


 こうしてさくらとアリスの友情は大きく深まった。



 今日は無事いじめっ子たちを避け、コンビニにも立ち寄りアリスは家に到着。何度か学校内で絡まれそうになったもののさくらが的確に言葉だけでいじめっ子を退散させる。さくらは天理のような暴力ではなく言葉で相手を負かす力を持っている。それと同時にさくらは本当に馬鹿なのかという疑問すら浮かべる。天理と明智の思考が支えになっているのだろうか。

 今日は肉体的にも精神的にもダメージを受けなかったアリス。家で夕食を食べ終え今後について考える。



黒龍連


「攻撃的プレイヤーがふさわしい、しかし、もしかすると僕の知らない一面も持っているのかもしれない、今回のさくらもそうだった。人望も高いであろう彼もある意味さくらのようにいろいろな思考を持っていてもおかしくない。そうなってくると手が負えなくなってしまう相手だ」


明智香


「いつも冷静で的確に物事を判断する。天理とさくらとは仲が良くいってしまえば彼女自身も天理とさくらの思考を併せ持つ存在だ。そこが知れない天理の思考を併せ持っている以上警戒するに越したことはない、味方にいれば安心、敵にいれば厄介の言葉がふさわしい」


横口未来


「だいたいの本性はなんとなくだがわかっている。善人に変わりはない。それと同時にその優しさで人を変える力を持っている。明智同様味方なら心強いが敵には回したくない存在だ。その気になれば未来の敵でさえ未来に着いてしまう。そして何と言っても僕の自殺を阻止している要の存在。彼女がいなければ今頃僕はいなかったかもしれない」


天野天理


「赤が好きでチェスが上手い、しかし何事にも興味を示さない。それは赤い色に対してもチェスに関しても言えること。よくチェスに例えて物事を話すがその時も大して表情に変わりはなかった。唯一表情を変えたのは天理の秘密。発達障害がバレてしまった時くらいだろうか。それ以外で興味を示したことなど一度もなかった。だからこそ、僕が初めて天理に興味を示させるのだ。僕の創ったゲームで」


新谷朱音


「休日に朱音との将棋の対局、そこで朱音は相当な実力者なのはわかった。未来の親友で明るいことくらいしかわからなかったけど彼女は僕と天理を警戒している。いや、欲している?それに他の将棋同好会の人物を見た時の目、まるで眼中にないかのような。何かを得るために高みを目指すため僕と天理に目を付けた。逆に僕が探られているのかもしれないな。警戒人物に変わりはない」


大名時さくら


「自らを馬鹿と隠すことなくテストの点数もあまり良いとは言えない。しかし彼女は天理と明智の思考を兼ね備え、冷静でつかめないところがある。しかし、今日で争いごとは嫌いで友達重いな素のさくらを知ることができた。とはいってもこの6人の中で一番の危険人物、僕がゲームを創り上げれば創り上げるほど学び、理解し、掌握するだろう。僕のゲームはいずれ彼女に支配される、時間の問題かもしれない」



 アリスは改めて他のプレイヤーを再認識した。相手にとって不足はないことを。


「面白い、前までは天理とさくらを警戒していたが一番警戒するのはさくらだったとはね、僕としたことが抜けていたよ、彼女は勝ち負けを意識しない、彼女の目的は楽しむこと、そして学ぶこと。だからこそ表上敗北してはいるものの裏では完全に掌握している裏の勝者といってもいい」



 アリスは新たなゲームを考え始める。


「ただし、表の勝者でも裏の勝者でもない僕ではあるものの、僕のゲームによって僕の目的は達成されつつあるけどね」


 アリスの目的とはいったい何なのだろうか?





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悟りゲーム 回想編(パート6.5) @sorano_alice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ