Be brave!

@Glycine-sak

第1話

 銀杏が柔らかく、澄んだ空に負けじと黄色く揺れていた。すばらしい秋だ。丘の上の小さな高校の食堂は、季節限定のさつまいもや栗のパンのよい香りで満たされていた。それを目当てに、四時間の授業を終えた生徒たちがダッシュでやってくる_____もっとも、パンは大量に焼かれているので走る必要はまったくないのだが。

 一人の、茶色い髪をツーブロックに刈り上げた男子生徒が、袋を提げてテーブルへ歩き出した。さつまいもパンとカツサンドを木製のテーブルへ広げて、座って待っていた派手な女子生徒に得意そうにニヤリと笑った。

 窓から見える銀杏と、ちょうどよく暖かい日差し、そして焼きたてのパン。ふたりの高校生のランチは完璧に準備された。封を開け、まさにパンにかぶりつこうとしていたとき_____男子生徒は黒いなにかを見た。そしておぞましい、不吉なものでも見たかのように目を細めた。女子生徒は不機嫌そうに、自分のパンとペットボトルと一緒に席を立った。男子生徒は何も言わず、チッと舌打ちをし、何かモゴモゴと文句を言って後を追った。

 銀杏の見える窓、その斜めの席に黒いもの___否、黒い髪を垂らした、猫背の女子生徒が座っている。ぼろぼろにくたびれたスニーカー、パサパサの黒くて重たい髪の毛、隈ができた鋭い目元、そして、ぶつぶつに荒れた肌。十七歳のこの少女、和歌山麗わかやまれいはジュースを一口飲んで、大きなため息を吐いた。

_____生きるのって本当つらい。

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