仲間と共に

「アメリア様がお戻りになるキッカケを作ったのがアナタたちなのは不満ですが、いい仕事をしましたね」


殴り掛かってくる男たちをいとも容易く屠り続けながら語る姿は、まさに狂気だった。


「……気に食わないと思っていたけど、マジで気持ち悪いな」

「あたしは二年も上から目線で文句ばかり言われてたよ。性格は変わってないどころか拗らせてんじゃん、やっば……」


男たちの血に塗れながらこちらを見据え続けるヨシカに悪寒を覚える。


「私は……褒められているのか? 」

「そこまで鈍感なのはどうよ?! 」


屈強な男たちが一人残らず動かなくなった。


「……父と二人がよかったのに、淋しいだろうと宛てがわれたトモダチ。いなくても物思いに耽ける時間にしたかった。父だけでよかったのに、淋しいだろうと新しい母と連れ子が来たのが煩わしかった。けれど、その父にはもう会えません。わたくしが憧れた方の傍にいるのがアナタたちなのが怨めしいです。わたくしひとりがいればアメリア様には十分です。さぁ、わたくしを選んで? 二人を殺して二人で旅をしましょう、アメリア様───」


焦点の合わない瞳を向け、血塗れの手を差し出す。

私はともかく、二人は戦闘の技術は無い。


「……ヨシカ」

「はい、アメリア様」

「私には義哉と実佳が必要だ。殺すというのなら……おまえを殺さねばならない。この意味が分かるか? 」


合わなかった焦点が次第に戻り、徐々に青ざめていく。


「……わたくしは必要ありませんか? 」


ガタガタと震え出す。


「すぐとは言わない。二人と和解するのであればおまえの同行に賛同するわ」


血に塗れた拳を握り、俯いて震えている。


「二人を殺そうとすればおまえを殺す。お互い十年も前のわだかまりだ。正気になり、冷静に考える時間が必要だろう。お互い乗り越えた先に、共にいられる未来があると思う。だから……今はさよならだ、ヨシカ。行こう、義哉、実佳」


顔をあげないヨシカを置いて歩き出す。


「お待ちください! 」


足を止め、振り返る。

狂気を必死に抑えた真摯な瞳でこちらを見るヨシカ。


「……わかりました。歩み寄る時間を無視して殺されたことを認めます。今はせめて、遠くから支援させてください。いづれわたくしの所業が明るみになる。追っ手がつく。逃げ通しながら……考えます。アメリア様と旅ができるように! 生まれ変わった命を無駄にしようとしてごめんなさい。チャンスを下さり、ありがとうございました! 」


涙を流し、頭を下げ、踵を返して去っていく。


「……あんなしおらしいとこ見たら嫌いって言ってられないな」

「ま、拗らせヤンデレになってたけど、あれをツンデレだったって思えば可愛いもんだよなぁ」

「……勝手を言ったのに」

「気にするな。アイツは端からおまえを殺すつもりなんてなかったんだから」

「ついてきたヤツ全員殺して認めてもらおうとしてたからねぇ。歪んではいるけど、”敵になりたくない”ってことっしょ? 」


いつか、仲間になってくれるだろうか。


「私は……ラノベキャラだったのか? 」

「今?! 今気にするの?! 」

「オヤジ、あんまうちいなかったからなぁ」


ヨシカは知っていた。小さい頃から。

私が『このままでいいのか』を悩んでいたことを。

現代あちらに行って知った。

『自分で判断すること』、そして、『ひとりで悩まないこと』。

ひとりでは視野が狭くなる。

それを伝えたかった『何者か』がいたのだろう。

解明すべき事柄だ。

いづれ解き明かし、皆で自由に生きる為に。


「さあ、行こうか。私には懐かしい世界だが、一緒に見たら新しい発見がありそうね」

「よっしゃ! 異世界堪能するぜ! 」

「アメリのこと、教えてよ」

「アメリアの殺し屋信条はぁ? 」

「裁かれない可哀想な者を屠ってやるのが殺し屋だ」

「やっばー! カッコイイ! 」


三人は新しい一歩を踏み出した。

いつか……四人で歩ける日を夢見て───。



















✧• ───── ✾ ───── •✧


「あなた! 由夏と義哉がいないの! お隣の実佳ちゃんも! 気に病んでしまったのかしら」

「……清香さやか、大丈夫だよ。あの子らは”上手くやってる”。君には話さなくちゃいけないことがあるんだ、聞いてくれるかい? 」


✧• ───── ✾ ───── •✧


由夏がまた事件に巻き込まれたと聞き、オレは急遽帰宅した。

今はそっとしてあげてと言う妻の言葉から、駆けつけたい衝動を抑えた。

十年前、あの事件のあった日から”あの本”を開かなくなっていた。

今日は部屋に入るなり、あの本が光っている。

慌てて開くとそこには───”未完の続き”が綴られていた。

それを読んだ瞬間、”オレはすべてを知った”。


「そうか、そうだったのか……。気がついてやれなくてごめん。”オレは二度も娘を苦しませた”───」


オレの本当の名はグランシス・ローズ。この本の世界から来た。

最初は信じられなかった。

しがない貧乏鍛冶屋で、病弱だった妻は、”二人目の娘”を産んですぐに亡くなった。

妻を亡くした喪失感とひとりで二人を育てなければならない焦燥感がオレを襲った。

……真夜中だった。下の娘をあやしている時にオレは、”光に包まれた”。

”アメリア”を心配していたらこの本が現れたんだ。

おまえのお姉ちゃんだよ、なんて言えるわけなくて……。


「一人ぼっちにしてごめんな。気がついてやれなくてごめんな。独りよがりで苦しめてごめんな。いつか帰り方を見つけ出して……すべてを明かして、みんなで暮らそう」


それまでは動き出したこの本から見守ってるから───。


Fin

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪人殺しの殺し屋ローズ 姫宮未調 @idumi34

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ