第34話 ラストール公爵家side

ー 時は少し戻り、舞踏会後 ー



「アイラ、一体どういうつもりだ!仮にも君は公爵夫人なんだぞ!」


 騎士達に取り押さえられ、連れて来られた部屋。半貴族牢とも言う。ここは犯罪が起きてから判決を言い渡されるまでのグレー期間に入れられる部屋だ。 


アイラは随分と興奮している様子。監視兼報告のために配置された騎士は黙って壁際で立っている。


「アイツよ!アイツが悪いのよ!アイツがマリーナを修道院へ送ったのよ!アイツが邪魔しなければ今頃ライアン殿下の妃だったのよ」


俺は何故リア・ノーツ侯爵令嬢の事をアイツと呼び捨てにするのかと思ったが、指摘すると話が進まない。


「そうか。じゃあ何故リア嬢が言った言葉で怒っていたんだい?」


「だって、アイツ、マリーナがライアン殿下のお妃候補にはなれないと言ってきたのよ!資格が無いって!アイツは知ってたのよ!」


 アイラはそう言ってからハッと気づいて顔を青くさせて黙る。フィアンや騎士はその言葉を聞き逃す筈もない。微笑みながら優しく問いかけた。


「アイラ、どういう事だい?資格が無いって。知っていた?黙っていてもここからは出られないんだよ?私には言い難い事なのか?」


 アイラは完全に黙秘に入ってしまったのでフィアンは諦めて騎士にその場を任せて1人部屋を出る。


後はもうすぐ来る尋問官に任せるしかない。


フィアンは疲れた身体を引き摺りながら王都の邸へと帰った。



 尋問官への引き渡しを行えばこちらからはもう手を出す事が出来ない。


それにしてもノーツ侯爵令嬢は知っていた?


何を?


色々気になりはするが、今は帰ってすぐに謝罪の手紙を書かなければいけない。俺があの時、アイラに目を向けずリディスを選んでいればこんな事にはなっていなかった。


後悔しかない。


リア嬢を一目見た時、リディスを思い出した。周りを優しく包み込む温かな魔力をリア嬢から感じたんだ。リディスと同じような温かな魔力。そして彼女の持つ雰囲気。気付かぬ間にリディスの名を呟いていた。


リディスは大人しく、いつも人の事ばかり気にかけていたな。私にいつも微笑み、励ましてくれた。


アイラは薔薇のように真っ赤で鮮烈な印象を与えるが、リディスは霞草のような柔らかで優しかった。


アイラが来なければ、政略結婚だったが上手くいっていただろう。何故俺は彼女を自殺に追い込んでしまったのか。


俺が真実の愛なんて口にしたから、王命で婚姻までさせられて。


何度考えても後悔しかない。


あぁ、リディス、ごめん。


俺がアイラを見てしまったばかりに。






 数日後、王宮から連絡が入った。リア嬢の結婚とアイラの罪が確定したと。急いで王宮に向かった。 


 王宮で聞かされた話では、今回の騒動が引き金となり、教会はノーツ侯爵令嬢を保護する名目で引き取り、カルサル公爵子息との婚約を無効にした上でノーツ侯爵令嬢を新たな聖女として担ぎ出そうとしていたらしい。


そのため、ノーツ侯爵令嬢は急いで婚姻する事になったと。


 カルサル公爵子息と仲睦まじいと噂には聞いていた。またアイラの仕業で光属性のご令嬢を不幸にしてしまう所だった。


そして、もう一つ。


アイラが暴れた原因。


尋問官により自白した内容にショックを受ける。


マリーナは俺の子ではなかった。



 マリーナはキール子爵とアイラの子だったのだ。俺は嘘を吐かれていた。アイラと育んだ愛は真実の愛だと思っていたのに。リディスが死んだあと、アイラの公爵夫人としての振る舞いに嫌気が差してはいた。


アイラによく似たマリーナに対しても同じ。マナーは出来ているが、人としては最悪だった。俺は2人が何かする度に心が擦り減り、リディスへの思いや後悔が強くなっていった。


そしてここに来てアイラの裏切り。


マリーナは俺の子ではない。


アイラの吐いた嘘で結果としてマリーナが王族のライアン殿下と関わりを持つ事になったため、修道院へ行っていたマリーナには第一魔導師師団主導で魔法鑑定が行われる事になったらしい。


 陛下から差し出された鑑定結果を見ると、やはりマリーナはキール子爵とアイラの子だった。


アイラは今も王宮で拘束されているままだ。


 陛下の話ではアイラは侯爵令嬢への傷害。光属性の令嬢への自殺教唆、公爵夫人位の簒奪。


また、娘を使った王妃位の簒奪未遂という罪名になるらしい。


陛下の考えとしては、アイラは権力や財力を欲して公爵家にすり寄り、俺を騙した。さらにリディスを死に追いやり、王命で婚姻させるように仕組んだ。という流れだ。


そしてライアン殿下は第三王子だが、マリーナを王子妃にしたあと、数年後には公爵家の力を使いマリーナを王妃にさせると周囲に漏らしていたようだ。その事が罪を重くさせたようだ。


王命で婚姻したが、今回陛下からアイラと離縁するように命令が下された。


また俺の監理不行きとどきの責任として公爵から伯爵へとなった。


本来なら罪は連座するものだが、アイラが俺を騙していた事。俺は騙された被害者側だったのにも関わらず、王命で無理矢理結婚させられていた、と認定された事で連座は免れた。


それと公爵位をウェスターに引き継ぎ、公爵の引退を準備していた事が責任を軽くする理由になったようだ。




それにしても、リア・ノーツ侯爵令嬢は何故アイラの不貞を知っていたんだ?もしかしたら噂として聞いていたのかもしれない。


考える事は沢山あるが一先ず邸に帰り、セバスとウェスターに話をする。


「妻だったアイラは王命により離縁した。アイラは侯爵令嬢への暴行、公爵夫人位の簒奪及び娘を使った王妃位の簒奪未遂となるらしい。アイラは処刑となる。そして娘のマリーナは現在修道院に入っているが、俺の娘では無い事が判明した。


キール子爵とアイラの娘だったという事だ。セバス、マリーナは籍を抜いた。後はキール子爵がマリーナをどうにかするだろう。


そして我が家は公爵から伯爵への爵位の降格だ」


キール子爵にとっては寝耳に水だろう、アイラの犯罪の片棒を担いだ事にされて罰せられる事はないが、世間からは白い目で見られるだろう。

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