第31話

 私達は会場に着き、一番最後に会場入りする。


「カルサル公爵家、ノーツ侯爵令嬢入場」


 一番最後の入場でみんなの視線が痛い。ドキドキし過ぎて口から心臓が出そうよ。私はお義父様、お義母様の後ろに続き、ニール様のエスコートで歩く。流石公爵家、向けられる視線が違う。


 ふと他とは違った視線を感じたのでその方向に目が向く。


アイツだわ。


アイラと一緒に居る。


「リア、他の男を見つめるのはダメですよ。私が嫉妬してしまいます。後でお仕置きが必要ですね」


「ニール様、違います。ラストール公爵がこちらを見ていたのです」


「ふふふ。誰だろうとリアの視線を向けていいのは私だけですからね」


そう言って私の頬にキスをする。


「っ、ニール様。皆の前です」


ニール様は意地悪な顔をしながらギュっと腰に手を回してエスコートする。


「こらっ、ニール、その辺にしておきなさい。リアちゃんが困っているだろう?全く、誰に似たんだか。嫉妬深くて困るな」


お義父様が助け船を出してくれたわ。良かった。


 私達はそのまま陛下への挨拶へ向かう。やはり公爵家は1番目なのね。その後ろにラストール公爵。数家後ろにお父様達がいたわ。陛下へ挨拶を終えてニール様とダンスをするために移動しようとした時、声が聞こえた。



「・・・ィス」


呼ばれたような気がして振り向くとそこにはラストール公爵が私を見ていた。


「さぁ、リア。踊ろう?」


ニール様に手を引かれ、ホールの中央まで歩く。音楽と共にダンスを始める。


「リア、早く結婚したい。父も母もリアの事を本当の娘のように気に入ってくれて良かった」


私は先程聞こえた声に不安を滲ませる。


「ニール様、さっきラストール公爵様は私を見てリディスと呟いたように聞こえたの。私は全然似てないのに」


「リア、前世はリディスだから仕草や雰囲気は似ているのかも知れないですね。気にしないのが一番。私が付いているよ」


 そしてダンスが終わると、繋がりを持ちたい貴族が話しかけてくる。私も、私も、と多くの貴族達が居たが、サッと人の波が割れる。



私達の前に現れたのはアイラ・ラストールだった。


「私、アイラ・ラストールですわ。宜しくね。ニール・カルサル公爵子息様、並びにリア・ノーツ侯爵令嬢様」


「ラストール公爵夫人、宜しくお願いします」


アイラは私を値踏みするように見てくる。不快ね。やはりアイラはアイラね。ニール様には露骨に色気で迫りそうな勢い。若い燕に、とでも思っているのかしら?


「貴女がマリーナを修道院に送ったのよね?こんなチンクシャがマリーナを陥れたなんてマリーナが可哀想。そこのチンクシャよりうちの娘の方がいいわよ。そう思わない?」


ほぼストレートに攻撃してきたわ。やはり公爵夫人になる為の勉強は身に付かなかったのね。


「いえ、私にとってリアは勿体無いほどの素晴らしい令嬢です。巡り会えた事に感謝したい位です」


アイラの言葉にニール様が私に微笑みながら答える。


「マリーナ様は修道院に行かれたのですか?私は存じ上げませんでしたわ。私は公爵様から謝罪のお手紙は受け取りましたが。マリーナ様はお茶会で領地でご静養なさっておられるのかと思っていましたわ」


アイラの顔が真っ赤に変わっていく。歳を取っても煽り耐性は低いのね。


「なによっ!たかが侯爵令嬢の分際で!光属性持ちってだけでチヤホヤされているんだから身を弁えなさい!!」


遂にアイラの本性が出た。そんなに娘を王子妃にさせたかったのね。もしかしたら王妃の座まで狙っていたのかしら?今にも飛び掛かってきそうなアイラ。周りの貴族達もアイラの様子を冷ややかな目で見ている。


 ニール様は私を庇うように前に出ようとしたが、私は大丈夫とニール様の袖をそっと掴みニコリと微笑んだ。


陛下や殿下、大臣達に挨拶を終えたフィアンが何事かとアイラに聞いている。アラン殿下も一緒だわ。アラン殿下、絶対これは面白くなりそうだなって来たんじゃないかしら?


今思ったのだけれど、フィアンは陛下に挨拶していたのにアイラはしていない。貴族としてどうかと思うわ。陛下への挨拶を終えたからとフィアンはアイラを連れて帰ろうとしているが、アイラはなおも私に食ってかかる。


「マリーナこそがライアン殿下に相応しいのよ!マナーも知らない貴女がマリーナの邪魔をしたのよ!責任を取りなさい!」


 アイラは持っていた扇子を振り上げ、私の頬をパンッと勢いよく叩いた。これにはフィアンも周りの貴族達も驚き、響めきが起こった。アイラはフィアンに無理矢理に腕を掴まれ、引きずられるように会場を出ようとする。


「ラストール公爵様、アイラ夫人に一言だけ宜しいでしょうか?」 


「・・・ああ、構わない。なんだ?」


私はアイラの耳元で囁いた。




「マリーナ嬢が王妃になるのは無理ですわ。だって資格がない。マリーナ嬢はキール子爵令嬢だもの」




 私はそう告げて微笑みながらニール様の元に戻った。アイラは目を見開き、奇声を上げ、暴れようとしたが、ニール様は風の魔法を使う。


その場でアイラは気絶し、そのまま騎士達に運ばれて行ってしまった。


フィアンも騒がせてすみませんとアイラを追うように会場を出て行ってしまった。


「リア、大丈夫ですか?あぁ、頬が赤く腫れて少し切れています」


「ニール様、私は大丈夫です。この通り」


ヒールを唱えて即座に治療する。


「治療出来るからと言っても女の子の顔を怪我させるのは駄目だね。リア嬢、大丈夫だったかい?」


「アラン殿下お気遣い有難う御座います。私は大丈夫ですわ。会場の皆様もお騒がせして申し訳有りませんでした」


私は礼をすると会場はまた元のような雰囲気となり始めホッとする。


「リア嬢、最後にラストール夫人に何と言って油を注いだんだい?発狂寸前だったよね」


アラン殿下は面白そうに聞いてきた。


「ふふっ、それは秘密ですわ。すぐに解るとは思いますが」


「まあいいさ。これでラストール夫人は生涯領地から出られなくなったしな」


アラン殿下は素敵な笑顔で妃様の元へ戻っていった。私達は身の安全を優先するという理由を盾に早々に邸に帰る事にした。

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