転生した令嬢は今度こそ幸せを掴みます！

第26話

　もちろん、服は魔導師の服を着ている。ドレスより楽だからね。もう、年がら年中制服でいい気がするの。ズボンって歩きやすいし、コルセットが無いから楽だし。

「お呼びでしょうか、アラン殿下」

「まぁ、ここに座ってお茶でもどうぞ」

いえ、食事がしたいです。私はそんな思いを押し殺しニコリと微笑み、失礼しますと席に座る。

「今回の視察ご苦労だった。スタンピード前に浄化できて良かった。また褒美を考えておかないとね。欲しい物はあるかい？食事がいいかい？」

前回の褒美は全然褒美じゃなかったわよね。

「いえ、仕事を全うしただけですから」

「そうそう、前にライアンと街で食事をしたよね。どうだった？」

最悪でした。とは口が裂けても言えない。

「そうですね、ドラゴンステーキは、美味しいと思いました」

お茶を一口含みニコリと笑顔を返す。

「そうか。ライアンはどうだったの？」

「私は一足先に帰りましたのでよく分かりません」

「そうだったね。ご令嬢に水を掛けられて帰ったのだったか。あの日以降ライアンから何か言われた？」

「いえ？言われるも何も、何の連絡も無く過ごしております」

「・・・そうか。ライアンが失礼な事ばかりしてすまない。私からも謝るよ。デート中に他の娘の話は聞きたく無いだろうし、プレゼントのセンスも最悪だったらしいね。私の大切な妃が君とライアンのデートの話を聞いて、発狂しそうなほど怒って、わざわざライアンを呼びつけて鉄扇で殴ったんだよ」

　アラン殿下の妃様は恐ろしくアグレッシブな方なのか。そっちに驚く。そしてやはり私の褒美はデートだったのね。全然ご褒美では無い。

「我が妃が君とお茶したいと言っていたよ」

「その言葉だけで私にとっては十分な褒美です」

アラン殿下は急に真面目な顔をする。

「単刀直入に聞くけど、リア君はライアンの妃になって欲しいのだけれどどうだろうか」

「正直にお答えするなら、お断りします。ライアン殿下にも過去にお話をしましたが、私は夫を誰かと共有する気は無いですわ。

アラン殿下、話は少し変わりますが、アラン殿下は光属性魔法を使える人が出現する条件を知っていますか？」

「いや、それは知らないな」

「これはまだしっかりと解明されてはいない仮説の一つですが、基本として光属性持ちは両親共に想い合う、幸せな家庭に生まれて来る。人に分け与える事ができる程の慈愛を受ける事が前提なのかもしれないですね。

その前提条件の上で、先に生まれた光属性の人の環境が出生率に影響するという話です。

過去、リディス・サルタン嬢は伯爵家に引き取られてからずっと虐待を受け、そこに婚約者の不貞により自死。リディス・サルタン嬢が伯爵家へ引き取られてから亡くなるまで約14年。

私が光魔法に目覚めたのが14歳。

何だか怖いですよね。私が目覚めて以降は２人ほど生まれています。この仮説が本当なら私に婚姻を強要しないで欲しいのですが」

アラン殿下のお茶を飲む手がピタリと止まる。ライアン殿下は素晴らしく噂の絶えない候補者達に嫌気が差し、他のご令嬢と遊ぶ事を覚えたのでしょう。理解は出来るが私を巻き込むのは心底辞めて欲しい。

「そうか。確かにその仮説も否定は出来ないね。やはり、ライアンの事は好きになれそうにない？」

「・・・そうですね。例えライアン殿下が臣下に降るとしても、ライアン殿下を取り巻くご令嬢達。殿下は複数人の女の人と遊ぶ事に罪悪感が無い事。女はこうすれば良いと表面しか見ていないようでは不幸になる未来しか見えませんわ」

アラン殿下は笑顔だ。目は笑っていないけれど。

「痛い所を突かれてしまったね。ライアンの婚約者候補達はマリーナを始め、強い者を当て過ぎた。これは王家の落ち度だ。君にライアンの支えとなって欲しいんだ」

おっと、罠の匂いがします。

「私、リア・ノーツ。今は独身ですが、将来も伴侶と共に臣下として国王陛下、延いては王族であるライアン殿下を支えていく所存ですわ」

はい、支えますと言ったなら即婚約者コースだったわ。

「君の考えは分かったよ。無理強いはしない。これからも宜しく。また我が妃とお茶をしてくれ」

私は礼をして中庭を去る。

お腹が減った。

　食堂でなんとかパンにありついたがゆっくり食べている時間は無かったみたい。途中でニール師団長に見つかり連行されてしまったのだ。

　報告書の作成中にお腹がグーっと鳴る。

「リア、きっちり食べていなかったのか？」

「ニール師団長、遅めの朝食を食べようとしたらアラン殿下に捕まり、朝から何も食べていません。アラン殿下からライアン殿下の婚約者になるように言われていたのです。勿論断りましたが」

　ニール師団長の片眉がピクリと上がる。ニール師団長は無言だったけれど、私は書きながら独り言のようにあった事を話していた。

「そうでしたか。リア、書類は出来ましたか？」

「ええ。ようやく完成しました」

私は報告書を纏めてニール師団長に渡す。

「リア、お疲れ様です。今日は侍女と帰りなさい。私は書類を出して来ますので」

「ニール師団長、私が帰るついでに出してきてもいいですよ？」

「いえ、今回ばかりは急な別件での話し合いも必要になったので大丈夫」

「分かりました。ではお先に失礼します」

礼をしてメイジーと共に邸に帰る。やっぱり我が家はいいわ。

翌日からまたいつものように午後中は書類整理や魔法研究、午後は怪我人の治療をこなしていた。