第24話

 前回のスタンピードでは大人数で物資の移動もあったため幌馬車での移動だったけれど、今回は視察なので6人用の箱馬車が用意されていた。


もちろん乗るのはニール師団長と私、メイジーとサウラン副団長。と荷物。馬車は半日程で現地に着いてそこから視察が始まる。


「リア、現地に着くまで肩を貸しますよ」


「いえ。ニール師団長。ちゃんと起きています。サウラン副団長、暇だから足を治しますね」


サウラン副団長の膝に手を当てて魔法を流す。モーラ医務官の薬も効いているので瞬時に治療は終わったわ。 


流石モーラ医務官。


 私は練習と称してメイジーにも治療をする。手荒れや馬車移動の疲れも取ってあげる。


「リア、私にはしてくれないのですか?」


「ニール師団長、何処か悪い箇所があるのですか?」


「ええ。最近、疲れが酷いのです」


「分かりました」 


私がニール師団長の手を取ろうとした時、


「えー。ニールはリアちゃんと手を繋ぎたいだけだろう」


 私は気にせず、そのままニール師団長の手を取り魔法を流す。


ん?何か変だわ。


「ニール師団長、最近身体が重いのでは無いですか?」


「ああ。よく分かりましたね。何故です?」


呪いでは無いけれど、一種の呪いなのかしら。


「呪いでは無いけれど、誰かに魔力の籠った思念かな、熱烈に好きなのか、嫉妬なのかは分からないですが、送られています。その想いが体調不良を引き起こしているかもしれません」


 解呪の魔法を唱えるとパリンと小さな音が鳴ったので解呪は出来たみたい。


「身体が軽くなりました。リア、有難う。リアとダンスを踊った次の日から令嬢達が何故か公爵邸に押しかけてきたり、贈り物をしてくるようになって困っていたのですよ。熱烈に呪われていたのですね。魔法が効いて良かった」


今までニール師団長に見向きもしなかったのに顔を出した途端に追いかけ始めるのね。なんだか嫌だわ。




 もうそろそろ現地へ到着しようかという時に質問する。


「ニール師団長、今回の視察はどういった感じになるのですか?」 


「今回はランサム村へ行き、村人からの聞き取り。増えている魔物、活発化している箇所の特定が出来れば万々歳ですね」


話が終わるかどうかの所で村に到着したらしい。私達は宿に荷物を置き、メイジーはお留守番。ニール師団長は村長から話を聞いて、私は教会からの情報、サウラン副団長は村人から話を聞いた。


その内容は、普段は魔物は少なく、スライム、ラビット、ドードー等弱い魔物が出ていること。


 最近になり、サラマンダーやグリーンドラゴンなどの強い魔物が出始めており、どうやら森の中心の湖から出てくるらしいこと、等であった。放置しておくとそこから魔溜まりが発生してスタンピードになる可能性もある。


ニール師団長の指示で本日はゆっくり休んで明日朝に湖に向かうことになった。


流石に馬車の長時間の移動は疲れる。メイジーと共にベッドに入ると気絶するように眠ってしまったわ。




 翌日は朝から森に入る。魔物と戦う事もあるので装備を忘れずに持っていく。


「おはよう御座います。ニール師団長、サウラン副団長」


「おはようリアちゃん。今日も可愛いね」


そんなやりとりをしつつ森に早速入る。


 湖までは徒歩で1時間程の距離らしい。私達は魔物から見えにくくなる魔道具を一応付けてはいるためか襲われる事は少なくて済んでいる。それでもばったり会ったら戦闘になるんだけどね。


 森に入った時よりも確実に魔溜まりが増えて来ている。これはスタンピード予兆かもしれないわ。どうやらニール師団長もサウラン副団長も思っていたらしく危険だと判断したみたい。


「この先が魔溜まりが発生している湖のようですね。次のスタンピードはここかもしれませんね」


「ニール師団長。私、こんな事もあると思い、浄化の魔石を1つ持って来ました。私自身も浄化魔法の準備はバッチリです」


「分かりました。サウラン、魔物が生まれる前に浄化しましょう。私は上空へ飛び魔石を投げますからサウランはリアを守って下さい」


「もちろんだ。リアちゃん、僕が付いているからね」


「有難う御座います」


そう言ってニール師団長はスッと空へ飛び上がった、周辺の状況を観察しているようだ。


そして湖に向かって浄化の魔石を投げると魔法が発動し、光の柱が立つ。その光に驚いた森の魔物が混乱し動き出す。


 私は咄嗟に結界を展開した。サウラン副団長と2人を包む結界は逃げまどう魔物にぶつかられながらも維持出来ていた。何頭か過ぎ去った時、こちらに気付いて攻撃しようとしてきた魔物がいた。


ドラゴンだ。


アースドラゴン。


 中級のドラゴンで中々の強さ。アースドラゴンは尻尾で結界を叩き割るつもりのようだ。


「サウラン副団長、アースドラゴンはこの結界を叩き割るつもりです。後、3回叩き付けられたら結界は消滅します」


「分かった。2回叩き付けたら結界を解いて後ろへ下がって」


「了解です」


1回目、


2回目。


「解きます!」


 大声で叫び、後ろへ下がる。サウラン副団長は左方向へ移動し、ドラゴンの尻尾の攻撃を避ける。私は『アイスショット』を何度も唱える。少しでもドラゴンの足止めをするために顔や足に打ち込む。サウラン副団長は凍った箇所を避け、器用に皮膚を切り裂いていく。


 しかし、アースドラゴンはやはりドラゴン、中級とはいえ1回の斬撃で深い傷を負わせる事は出来ないらしい。私は傷口に向かって浄化弾を放つ。何度か傷口に浄化弾が当たるうちにドラゴンの動きがようやく鈍くなってくる。


「リアちゃん、グッジョブ!!」


 サウラン副団長が高く飛び上がると剣に水の膜が張られる。心臓を貫くように胴体の中心部に剣を刺す。同時に空中から『ウイングカッター』が放たれドラゴンの首が切り落とされた。


凄いわ。


サウラン副団長ってやっぱり強かったんですね。


そしてニール師団長も一回でドラゴンの首を切り落とすなんて。感動する。


「リアちゃん、怪我は無かった?ニールめ、いいとこ取りを」


フワリと地上に降りてきたニール師団長はドラゴンをうっとりと見つめているが、すぐさま周りを見渡し状況を判断する。


「リア、湖周辺からこの辺まで浄化を掛けて下さい」


「分かりました」


私はサウラン副団長とニール師団長を護衛として付け、湖近くから少しずつ移動しながら土地の浄化を行った。



「ニール師団長、これくらいで大丈夫ですか?」

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