第21話

 翌日、朝から街娘風に装い準備をしているとカルサル師団長が迎えに来た。


「カルサル師団長。おはようございます」


「ニールですよ。リア。リアは可愛いですね。平民服を着た所でリアの可愛さは消されないのですね」


「ニール、様もとても素敵です」


カルサル師団長はシャツにズボンとラフな格好をしているが、イケメンは何を着てもイケメンらしい。狡い。ライアン殿下の時には護衛や従者が後ろからそっと付いて来ていたようだったが、カルサル師団長とのデートには護衛は付かないらしい。


カルサル師団長は強いからですね。


私だって強いのですよ?


「リア、今日のドラゴン展とても楽しみですね。会場はとても混んでいるそうですから手を繋ぎ、離れてはいけないですよ」


「もう、私は子どもではありませんわ」


馬車内では熱くドラゴン談義を交わし、馬車を降りる。カルサル師団長はエスコートしていた私の手をそっと取るとそのまま手を繋いだ。 


・・・これは恋人繋ぎというやつではないの!?


恥ずかしくて顔に熱が集まる。カルサル師団長と目が合い、視線を彷徨わせながら、この甘酸っぱい雰囲気を変えようと話を振った。


「ニール、様。会場に着きますね。やはり人気の特別展だけあって人が沢山ですね」


「ええ。私から離れないようにしっかり掴まっていて下さいね」


そうして特別展を見て回る。ドラゴンの番行動やドラゴンハートの成り立ち、ドラゴンの子育て方法など、様々な展示があったわ。2人とも会場を出る頃には大興奮だったと思う。出口付近の売店では2人でお揃いのドラゴンの爪を模った万年筆を購入したほど。


「リア、楽しかったね。お腹も減ったしこのまま食事にでも行こう」


連れて行かれたのは食堂という感じの活気あるお店だった。私とカルサル師団長は席に座ると、中から女将さんがやってきた。


「美男美女カップルだね!店の宣伝にもなるからゆっくりしていってちょうだい。今日のお勧めは二角ラビットのシチューとスライムゼリーだよ」


「私はお勧めで」


「同じ物で」


「了解ー!お勧め2つ!」


女将さんの元気な声が店内に響いていた。


「ニール様、この店では魔獣類が食べられるんですね。びっくりしました」


「ゲテモノ料理と呼ぶ人も一部にはいますが、とても美味しいんですよ」


時間を置かずに女将さんが持ってきた料理はとても美味しかった。これがあの魔物!?驚きと美味しさで興奮。


「ニール様、美味しいですね。凄い」


興奮している隣で目を細めて食べるニール様の所作はさすが公爵令息。隙が無い。


「リアが喜んでくれて良かった」


私はデザートのスライムゼリーを口に入れていると1人の女の人が近づいて声を掛けてきた。ニール様に。


「貴方、良い男ね。こんなちんちくりんな子どもより、私と一緒に遊びましょう?」


あれ、なんだかデジャヴ?昨日の再来?そう思って黙ってこの状況を見ていると、


「私に話しかけるな。話しかけても良いのは彼女だけだ。」


途端にニール様の雰囲気がガラリと変わる。


「こんなションベン臭い子より、私と楽しみましょうよ?ねぇ?」


女の人は胸の谷間を強調しながらニール様の手を取ろうとした時、『熱っ』と手を引っ込める。どうやらニール様は手の周りに小さな炎を出したみたい。


「もう、何なのよ!こんなちんくしゃな子どもより私の方が美人なのよ!!」


そう言ってテーブルの上に置かれたコップを持ち、私にかけようとする。ああ、デジャヴ。


また途中退場なのかと目を閉じたが、いつになっても水は私に掛からなかった。


そっと目を開けると、水は宙に浮いており、そのまま湯気となり蒸発していった。凄いわ。ニール様の魔法。訓練の時にはあまり披露してくれないので謎の多い人だと思っていたが。やはり王宮魔導師。


「凄いです。凄い、凄い。」


私はニール様に感動の眼差しを送る。


「ふふっ。これくらい扱えないと恥ずかしくて人前には出れないよ。リアが喜んでくれたなら嬉しい限りだ。さぁ、他にも行きたい所があるんだ。行こう」


女の人を無視して席を立つ。女将さんは女の人を知っているようで怒っていたわ。もちろん迷惑掛けたね、お代は要らないよと言ってくれたの。料理も凄く美味しかったし、またこのお店に来たい。


「ニール様、ご飯美味しかったですね。びっくりしました。」


「リアが喜んでくれるのが一番だ。また来よう。さぁ、行きたかった店はこっちなんだ」


 繋いだ手に引かれ連れてこられたのは魔道具雑貨という少し珍しいお店だった。ここのお店は小さなクズ魔石と私達が呼んでいる小さな石を使っており、小さな雪の結晶の幻影を映し出したり、音が鳴ったりと様々なギミックが施されたものを扱っていた。


「ニール様、凄いですね」


「そうだね。魔法はイメージで大きく変わるからここの店はいつも刺激をくれるんだ。気に入った物はあった?」

そっと私を覗き込んでくる。ち、近いです。ご尊顔が。私が顔を真っ赤にしているのに気づいたのかクククと笑っている。


「そういえば、リア。もうすぐデビュタントだね。誰かと行くのかい?」


「私には婚約者は居ないですからお兄様にお願いしようかと思っていました」


「では私がエスコート役に手を挙げても良さそうだね。」


「ニール様は婚約者は居ないのですか?」


「私は三男だから好き勝手にさせて貰ってるんだよ。爵位も継がない男に魅力は感じ無かったんだろう。学生の頃は研究に没頭していたし、女にも興味は無かったからね」


いや、確かに分かる。初めて会った時には髪はボサボサで顔がよく分からない程だったもの。ご令嬢達が振り向かないのも納得。


けれど、王宮魔導師は婚姻したらその魔力量が子どもに引き継がれるから貴族に留め置きたい国としては伯爵位を与えるシステムのはず。


「ニール様程の魔導師様なら種馬として大人気なのかと思っていました」


ブッとニール様が吹き出す。


「リア、種馬だなんてどこからそんな言葉を聞いたんだい?少し、知識に偏りがあるようだ」


ブツブツと何か言っている。


 私はその間に小さな箱を店主に渡す。開けると妖精がふわりと映し出される箱でとても気に入ったので買う事にした。すると、ニール様がこれも一緒に頼むと指輪を一つ店主に渡し、買ってくれた。


「リア、この指輪は離さずにずっと着けておくんだ。この指輪は雷魔法が入っていていざという時にチリっと使えるからね」


「ニール様、有難う御座います。大切にしますね」


右の人差し指に早速嵌めてみるとぴったりとはまった。ふふっ嬉しい。ニール様は邸まで送ってくれると、玄関には疲れ果てたお父様がいた。どうやらずっとスタンピードの処理に明け暮れて今、ようやく帰宅出来たみたい。


 ニール様はお父様にお話があるからと2人でお父様の執務室へ去って行った。


仕事の話かしら?


私はメイジーに今日の出来事を話しながら夕食になる時間まで楽しく過ごした。

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