第9話

「な、なぁ、ヒナタ。流石にこれはまずいんじゃ……。」


俺の仲直り大作戦の作戦決行中にアインズ様は俺に対し、不安を語ってくる。


まぁ、無理もない。


だって、何を隠そう俺たちは今、俺の国外逃亡を図っている最中なのだから。


「大丈夫ですよ、アインズ様。あの変態は俺がどこにいてもわかるらしいんで。」


「いや、それが逆にさらに心配な理由なんだが……。」


冷や汗を流しながら俺の前を歩くアインズ様。


何故前を歩いてるかって?そりゃ勿論道案内だ。


何を隠そう俺たちは今、アインズ様の領土へと徒歩で向かっているからだ。


何故馬車を使わないのかって?


それには理由がある。


そう、役者はまだそろっていないからだ。


この作戦に必要不可欠な人物が約一名足りないのだ。


それは勿論、他でもないウェディルの事である。


俺は本当に国外逃亡をする気はない。


だからこそウェディルが追い付けるように徒歩で移動しているというわけだ。


そう、これはあくまでも仲直り作戦であって、俺の逃亡作戦では断じてないのだ。


(俺の読みではウェディルは俺の居場所が分かるって言っていたから、多分俺が地下に居なくてアインズ様と国境の山道を越えようとしていたら――――あっ。)


どうやら事は俺の作戦通りに進んでくれたみたいだ。


俺達は進むべき道の先にウェディルの姿を確認した。


そう、ウェディルが俺たちの前に現れる事は作戦通りなのだ。


「どこへ行くつもりだ、ヒナタ。」


冷たいウェディルの声が俺に向けられる。


多分、怒ってるんだと思う。


でも俺はそんな言葉には屈しない。


堂々と背筋を伸ばし、ウェディルと向き合った。


「見てわかんないのかよ。俺、もうお前と居るのはうんざりなんだよ。意地悪いし、すぐ俺をからかうし、訳のわかんねぇことで怒るしさ。俺、優しい人が好きだからアインズ様と一緒に行く。」


まぁ、仲直り作戦云々を置いといて、これは事実。


人をいじめて楽しむような奴は好きじゃないに決まってる。


(でもまぁ、悪い奴ではない……気はするんだよな……。)


ウェディルに対し思うところは多い。


でも、いいところだって知らないわけじゃない。


そんなやつのどこかつらそうな様子なんてまぁ、見続けたくもないわけで……。


叶う事なら昔仲が良かったっていう二人に仲良くなってもらいたい。


なんかすごく、そう思う。


なんてことを思っていると小さな声でウェディルが言葉をこぼした。


「……にが……。」


(ん……?)


「何が不満なんだっ……ヒナタ……。」


(え、えぇぇ…………。)


ひどく悲しげな表情で俺を見てくるウェディル。


どうやらすでに言った内容では納得ができないらしく、改めて不満の理由を聞いてきやがった。


っていうか、何がと聞かれたらもう全部って言ってやりたいんだけど。


暇つぶしで俺を召喚するわ、変態だわ、スキンシップ激しいし、沸点わかんないし、なんかもういろいろ理不尽だし。


でも……


(何だかんだまぁ、嫌いではないんだよな……。)


かといえ、やはりそんな情を今は見せる場面ではない。


俺は徹底的に言わなければいけないのだ。


「お前の全部。」


冷たい言葉を。


「なっ……!!」


ウェディルは空は晴れ、星々が光り輝くこの美しき夜にまるで雷にでも打たれたかのようなリアクションをして見せた。


……言い過ぎたのだろうか。


いや、でもまぁ、仕方がない……よな?


(シェリー曰く、ウェディルは本当にアインズ様を嫌っているわけじゃない。だとしたらいま必要なのはお互いに話し合い、落としどころを見つける事だ。……だから――――――!)


「俺さ、もう本当、勘弁なんだよな。

お前に振り回され続けて、ついには意味もなく地下牢に閉じ込められたしさ。アインズ様はんなことしそうにねぇし?アインズ様選ぶのは当たり前だと思うんだけど?」


「…………。」


(……ん?)


俺の言葉を受けてウェディルが悲しげな表情を浮かべて黙り込む。


あいつなら言葉を返してきそうなものなのに。


(なんだよ……そんなに俺、傷つくこと言ったか……?)


ウェディルの表情に罪悪感を抱き始めてしまう。


だが、きっと俺は悪くない!!


なんて自問自答をしていると静かにウェディルの口が開いた。


「……どうすれば、お前は私の元にいる。」


「……は?」


「どうすればお前は私の元を離れない!私と共に居る!」


(な、なんだよ、こいつ急にっ……!)


突然今にも泣きだしそうな声で俺に問いかけてくるウェディル。


怒ったり、悲しんだり……情緒不安定なのか?


というか、そもそも今日は一日様子がおかしかった。


(マジで変なもんでも食ったのか……?)


ついに頭が壊れたのだろうか。


(って、違うよな……。妹さんの件で多分、

いろいろ余裕無くなってんだよな……。だからか知らないけど、どうやらちらちら否定的な言葉に対して軽く否定してる俺の心、読まれてないみたいだし。)


今の今で気づいたが、よくよく考えたら野望抱いても心読まれたら終わりだった。


いや、まぁ、なんか本当、結果オーライなんだけどさ?


なんか浅はかだったな、俺……なんてちょっと思ってしまう。


でもまぁ、そんな事は今はどうでもいい。


(うまくいってるなら好機!!それにあいつは俺が欲しい言葉を言った!!王手をかけるなら今だ―――――!!)


「なぁウェディル。お前、そんなに俺に傍にいてほしいわけ?」


俺は腕を組んで顎を上げ、必要以上に偉そうにしながら上から目線にウェディルに問いかける。


するとウェディルは間髪入れずに返事を返してきた。


「当り前だ!!お前が傍にいるのであれば私は……何でもしよう。」


弱々し気に言葉を紡いでくるウェディル。


いつもは強気なくせになんでとも思うけど、まぁこれは好機だ。


「なんでも……へぇ、なんでも。そんなに俺に傍にいてほしいなら、一つだけ条件がある!!」


俺は人差し指を立てながら言葉を切り出した。


そして―――――――



「……おい、ヒナタ。これはどういう状況なんだ?」


俺が先ほどまで閉じ込められていた地下室で訝しげな顔をして正座しながら俺を見るアインズ様。


その隣には同じく正座しているウェディルの姿がある。


そう、俺は地下室に二人を閉じ込めたのだった。


「制限時間は朝まで。それまでに二人には仲直りをしてもらう!!」


「「……は?」」


俺の言葉にウェディルとアインズ様の疑問の声が重なる。


実のところアインズ様にも仲直り大作戦の詳細はあまり話していなかった。


俺の言う通りにしてくれたら絶対仲直りさせるからといって何も聞かずに俺の提案を受け入れ、協力してもらっていたわけだ。


だからウェディルだけでなくアインズ様もこの状況に驚いているわけだけど、

これは決してこれは冗談なんかじゃない。


いたってまじめに本気で言っていることだ。


「俺はアインズ様と友人として仲良くしたい。だからアインズ様が来るたびこんな意味の解んねぇ奇行されたらこっちはたまらねぇわけ。だから、二度と訳もなくぶちぎれたりとか、理不尽に怒り狂ったりとかしねぇために二人でしっかりと昔見てぇな親友に戻れるよう話し合ってくれ。で、ちゃんと仲直りができたなら俺はここに残る。」


「はっ!?い、いや、待て!ヒナタ!!僕たちの間柄はそんな簡単に――――」


「んじゃぁな、天使様方。」


「ちょっ!?ヒ、ヒナタぁぁぁぁぁぁぁああ!?」


そんな簡単には修復できないとでも言いたげなアインズ様の言葉を遮り、俺はさらっと別れを告げるとシェリーから預かった地下室のカギを使って鍵を閉めた。


「あ、言っとくけどウェディル。仲直りできなかったら俺、本気でアインズ様のとこの子になるから。」


正直、叶う事なら仲直りしてもなりたいとすら思う。


だからこれは仲直りさせるための嘘なんかじゃない。


本心だ。


(でもまぁ、暇つぶしに召喚したとか言ってる割にはウェディルの奴、意外と俺に固執してるしな……。なんかそういう態度に情もわかないわけじゃないわけで、簡単に切り捨てられねぇっていうか……。)


二人を仲直りさせる。


それは多分、俺の自己満足だと思う。


適当に召喚されたわけじゃないだとか、小動物としてじゃなくてちゃんと大事にされてるんだとか、なんだかそういうのをすごく感じたい。


こういう言い方は気持ち悪いけど、大事にされてる実感がとてつもなく欲しくなったのだった。


(……ちゃんと仲直り、できるかな……。)


俺は仲が良かったころの二人の姿を知らない。


だけど、多分二人が仲良くなった姿を想像すると胸がいっぱいになる気がする。


(うまくいきますように。)


そう願いながら俺は自室に戻り、ひどく疲れた体をのんきに休ませるのだった。

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