第8話

「あぁもう!!本当、あいつ今日ずっと何なんだよ!」


地下室へと閉じ込められた俺はウェディルに腹を立てながら

地下室にあるベッドの上で胡坐をかいて座っていた。


どう頑張っても開かないし、叩くだけ無駄と判断して一応

大人しくしてみている。


腹たちすぎて滅茶苦茶暴れたい気分だけど。


(っていうか、地下にこんな部屋あったんだな。)


地下といえば地下牢があるイメージだけど、

別に牢屋って感じはしない。


普通になんか部屋って感じの部屋だ。


地下ならではのひんやりした空気の漂う部屋だ。


(つかあいつ、意味の分からん事でアインズ様にはら立てすぎじゃね?)


思えばさっきの決闘の時からすでになんか怒ってる節はあったけど、

そもそもあの時だって何で怒ってるか謎だった。


勝負前に二人が顔を突き合わせたのって多分食事の時だと思う。


だとしたらアインズ様が怒ってたとしたら何の疑いもないけど、

あいつが怒ってるのはお門違いもいいところだと思う。


なんて思っていると地下室の扉がゆっくり開いた。


まぁ、空いた隙に入ってきたやつぶっ飛ばして出ていくのもありかと一瞬思うけど、

別に犯罪犯して入れられてるわけじゃないし、とりあえず様子を見ようと大人しくしていると、扉の向こうからシェリーが現れた。


「ヒナタちゃ~ん、ママ特性のごはんですよぉ~!」


「いや、誰がママだよ。」


なんかシェリーの言い方がちょっとムカついて俺はイラつきながら突っ込んだ。


「冗談はさておき、どうぞヒナタ様、こちらに。夜ご飯お運びしてきました。」


そういってシェリーはどうやって地下まで持ってきたのか、サービングカートを部屋の中に引き入れる。


そして、地下室にある机の上に料理を並べ始めた。


「なぁ、出してくれねぇの?」


「まぁ、アインズ様がいる限り無理なんじゃないですかね。」


俺に眼はくれず、てきぱきとテーブルセッティングを始めるシェリー。


セッティングが終わったらすぐ出ていくのかと思いきや、よく見るとセットは二人分あり、俺の正面にシェリーが座った。


「シェリーもここで食べるんだ。」


「旦那様のご指示ですよ。一人の食事は嫌がるだろうからって。」


(いや、別に嫌がらないけどさ……。)


まぁ、そうは思うもののちょっとだけ嬉しかったりはする。


この屋敷で出る食事は軽食じゃないから食べるのに時間がかかる。


長時間一人で食べるのは結構味気ないものだから。


「……ヒナタ様、旦那様の事嫌いにならないであげてください。」


シェリーはシルバーでパテを切りながら俺に語り掛けてくる。


なんか少し表情が曇って見えるのは地下室が暗いせいなのだろうか。


「悪いけどそれは無理。俺、あんな性格ひん曲がってる奴無理。」


「まぁ、確かにひん曲がってますよね。昔はあんなんじゃなかったんですけどねぇ~。」


シェリーは食事をパクパク勧めながら俺と話す口も止めない。


食事をしに来たというより、こいつ、話に来たんじゃないだろうかと思うほどに。


「まぁ、アインズ様にあんな態度をとるには理由があるんですよ。……旦那様にはと~っても可愛らしい妹君がいたんですけどね?妹君は心優しいアインズ様が大好きだったんです。アインズ様も、妹君を愛していらっしゃった。けれど、妹君には悲しい事に婚約者がいたんです。」


あまりいろいろ語ってくれないイメージのシェリー。


なんだか珍しいなと思いつつも俺は静かにシェリーの話に耳を傾けていた。


「そして妹君が結婚しなければいけなくなった際、アインズ様に泣きついたんです。貴方と生きていきたい。私を貴方の傍に居させて、と。まぁ、要は駆け落ちしようって話だったんです。で、この後どうなったと思います?」


「え?えっと……。」


まさか突然問いかけられるとは思ってなくて俺は困惑した。


多分、アインズ様がラノベの主人公なら駆け落ちするんだろうなぁと

思わなくもないけど……


「駆け落ちできなかったと思う……。」


「えぇ、その通りです。アインズ様が拒みました。まじめすぎる性格ゆえ、多くの人を裏切るような真似は出来ないと。」


馬鹿みたいにまっすぐで真面目そうなアインズ様らしい答えな気がする。


まぁ、俺がアインズ様の何をそこまで知ってんの?って話だけど。


(……何だろ。ちょっとこの話、心が痛くなる話だな。)


愛し合ってるのに一緒になれない。


別に敵対してるわけじゃないからロミオとジュリエットって感じじゃないけど、

なんかそんな感じに思えてくる。


「ん?ちょっと待て。ウェディルには妹が【いた】って言ったよな!?過去形って事はまさか―――――」


「はい。悲しみのあまり自殺しました。」


「なっ!!」


(ま、ますますロミジュリみたいじゃねぇか!!)


いや、正しくはロミジュリは自殺というより心中が目的だ見たいな話だったと思うから違うっちゃ違うんだけど、なんとなくそう言う悲劇の様な話だ。


「じゃあ、ウェディルがアインズ様の事を嫌ってるのは妹を直接的にじゃなくても間接的に殺したから……。」


「まぁ、そうなりますね。…………嘘ですけど。」


「おい!!」


何でこんな時にそんな嘘なんてつくんだよ、このメイドは。


なんて思いながら俺は腹を立てる。


涼し顔して嘘ですけどというメイドがめちゃくちゃ腹立つ。


男だったら絶対殴ってる。


「ま、正しくはこうです。駆け落ちを断られた妹君は婚約者の元に嫁ぎました。

けれど、まぁそこでいろいろ問題がありましてね?夫となった人物に無理心中させられたんです。」


「…………え?」


(無理心中って確か、死ぬことを同意しない相手を殺して、

自分も死ぬって奴だよな……。)


正直、俺がいた元の世界でもそういうニュースは聞いた事はあった。


何処の世界でもそんな馬鹿な事を考える奴はいるんだなって思う。


(ヤンデレだったのか?その夫……。)


ヤンデレキャラがよくやりそうな展開だ。


(……何だろ。胸の奥が気持ち悪い。)


憎悪の様な、軽蔑の様な、なんだかよくわからない気持ちがこみあげてくる。


なんて、可愛そうなのだろうか。


「……おや?全然食が進んでませんね。けふっ。」


「こんな話聞かされながら食えるかよ……。」


こんな悲しい話を顔色一つ変えずに話しながら更にきれいに料理を平らげているシェリー。


こいつも本当、大概だよ……。


「まぁ、なのでアインズ様は直接的には妹君の死に関わってはいませんよ。でも、思わずにいられないですよね。あの時もし駆け落ちを了承してくれていれば妹は幸せになれたかもしれない。今も、死なずに生きていたかもしれない、と。」


「…………。」


多分、俺がウェディルの立場でも思うと思う。


あったかも解らない未来を理由に嫌うなといっても、割り切れないものだってあると思う。


「一応言っておきますけど、別に旦那様はアインズ様を恨んでもいなければ本気で嫌ってもいませんよ?でも、もうあの時みたいな体験は二度とさせたくないから貴方に近づかせたくないんでしょうね。」


「…………え?」


食事が終わったシェリーは机に頬杖を突きながら俺を見つめて

訳の分からないことを言ってくる。


二度とさせたくない。


まるで俺が過去に今あった話を体験したかのような口ぶりだ。


(……こいつ、時々言葉可笑しいよな。)


まぁ、単に言葉を間違えただけなんだろうと思う。


「実のところ、あのお二人は昔は仲の良い親友の様な感じで、アインズ様は毎日この屋敷に遊びに来ていたんですよ。そしていつも勝負を挑んでは敗北されてました。」


「あ……そ、そう……。」


その時からそうなのか……と、正直に思わずにはいられない。


(でも、やっぱなんかかっこいいな。)


昔から負け続けてるのに今も尚頑張って立ち向かい続けてる勝利への強い思い。


なんか少年漫画の主人公みたいでかっこいい。


「昔みたいに仲良くできれば理想的なんですけどね……。」


「……仲良く、か……。」


シェリーの言う通り、確かにそれができれば理想的だと思う。


そしたら俺も訳の分からない怒りを向けられずに済むしさ?


(でも、そんな簡単な事じゃないよな……。)


仲直りって言っても喧嘩してる訳でもない。


俺はシェリーが俺の分の食事も食べ、地下室から出て行ってからもシェリーの言葉に悩み続けた。


(何かないかな……俺にできる事……。)


なんか俺が関係悪化させたみたいななんかも感じるし、やっぱ何かしないとだめだよな……。


と、そんな事を思っていた時だった。


「無事か、ヒナタ!!!」


「うをぉぉぉぉぉ!!」


何故か地下室の床の下から必死の形相のアインズ様が現れ、俺は盛大に大声をあげてしまった。


「げ、元気そうだな……。」


「あ、あぁ……はい。」


俺の驚き声で耳をやってしまったのかなんだかふらふらしているアインズ様。


なんか申し訳ない事をしてしまった。


「ふむ、地下室と聞いたからあいつの事だ、如何わしい部屋かと思ったがそうでもなさそうだな。よいっ、しょっと!」


地下室を見渡したアインズ様は今の今まで上半身だけをモグラの様に出している感じだったが、別に危険はないと判断したのか静かに地面から全身を抜き出した。


「少々汚れてしまったか……汚らしくて申し訳ない、ヒナタ。」


「い、いえ、全然……。」


というか、地面から現れて土汚れ一つない方がおかしいと思う。


汚れる事なんて最初から分かっていたんじゃ……と思わなくもないけど

あえてそこは言うまい。


「ってか、何で地面から。」


「うむ、先程ヒナタと別れた後に屋敷の外に追い出された僕は君の事が心配になり、

ジュエルフラワーの力の気配をたどって地面を潜ってきたという訳だ。」


(え……ジェエルフラワーの?)


そう思いながら俺はさっきアインズ様にもらった後、

胸元にさしていたジュエルフラワーをそっと抜き取った。


「これの力って何なんですか?」


まぁ、見るからに特別な花だけど、綺麗なだけじゃなくて特別なの力でも持っているのだろうか。


「その花は僕の力の加護の元咲いている花だからね。僕の加護付きの花は探そうと思えば僕の土を操る事の出来る力の気配を感知して探せるという訳だ。どぉ~だぁ?すごいだろう!えっへん!」


「す、すごいっすね……。」


それで口で「えっへん」とか言わなけりゃ余計感心するんだけどなと正直思わなくない。


あ、いや、自画自賛な時点でちょっと無理か……。


「あぁ、でも、俺別に閉じ込められてはいるけど、酷いことされてるわけじゃ……――――」


「すまない。」


(…………え?)


先程までの調子のいい口調からは一変し、静かに申し訳なさそうに吐き出された言葉に俺は驚いた。


申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べると、アインズ様は俺の頭を優しくなでた。


「僕が君に近づかなければあいつは怒らなかったんだろうな。やはり君は大切にされているようだ。僕のせいで本当にすまない。」


まるで元の世界にいる兄に撫でられているような、そんなとても安心する温もりの手。


その手は本当にひどく優しく俺の頭をなでている。


本当に心配してくれていたというのがとても伝わってきて胸の奥がくすぐったくなってくる。


「……アインズ様、一つ聞いていいですか?」


「あぁ、良いとも。一つといわず何でも聞いてくれ。何でも聞いてくれ。」


優しい声で優しく俺の頭をなでながらアインズ様は質問の許可をくれる。


ちょっと聞いていい内容かわからなかったけど、俺は恐る恐る問いかけた。


「……アインズ様はなんであんなにウェディルに嫌がらせばっかされても

ウェディルに勝負を挑むんですか?」


勝負を挑みに来なきゃ嫌がらせされることもないだろうに。


なんて思わずにはいられない。


「……かつて僕が愛した女性がディルに勝利し、僕が神となる世界を心の底から願ってくれていたからだ。」


(……愛した女性。それって、ウェディルの……。)


聞かなくったって解る。


間違いなくその女性というのはウェディルの妹の事だと思う。


(そっか……じゃあ、アインズ様はウェディルの妹の為に……。)


本当、アインズ様はかっこいい人だと思う。


まぁ、時々非常にダサいけど。


でも、誰かの願いの為に勝つことを望んでると聞くと俄然応援したくなる話だ。


「やっぱりアインズ様ってかっこいいですね。愛した女性の願いをかなえるために勝ちたいだなんて。」


「いや、そんな事もないんだ。何せこれは彼女の最後の願いをかなえられない代わりにやっている事なのだから……。」


(え……?)


最後の願い。


それはおそらく、駆け落ちの話をした日に願われたことなんだと思う。


(一体ウェディルの妹は何を願ったんだ?)


聞いてみたいけど聞いていいのだろうか。


なんか、聞いちゃダメな気もしなくはない。


「……気になるかい?」


「え?ま、まぁ……。」


「ウェディルの傍にこれからもずっといてやってくれと言われたんだ。」


「……ウェディルの傍に?」


想像もしなかった願いに俺は静かに驚いた。


なんかこう、もっと恋人っぽい物なのかと思ったけどどうやら違うらしい。


でも、何でそんな願いをしたのだろうか。


それに……


「どうしてその願いはかなえられないんですか?」


ウェディルに勝って神になるってのよりはよっぽど現実的に思えるんだけど。


「ははは、君も今日何度も見ただろう?あいつは僕の事を恨んでいるんだ。僕がもし彼女の思いを受け入れていたら……。」


(……これ、シェリーに先になんとなく話聞いてたからなんとなく理解できるけど、

聞いてなかったらなんか理解に苦しむような話方されてるな。)


説明が足りないというか、なんというか……


まぁ、無理に聞いてるんだし、そんな事言うべきではないな、うん。


というか――――


「アインズ様。俺、ウェディルはアインズ様の事を本気で嫌ってないと思うんです。」


「……は?え?あいつが!?いやいや、それはきっとヒナタの気のせい――――」


「いや、違うと思います。」


「え?えぇ!?」


俺の言葉にひどく戸惑いを見せるアインズ様。


まぁ、今日のあいつの態度見てると嫌われてないと思う方が難しいだろうけど。


「ねぇ、アインズ様。せっかくだったらその女性の願い、全部叶えてあげたらどうですか?アインズ様が諦めてしまったほうの願い、かなえられるかもしれない良い案があるんですけど!!」


俺は人差し指を立て、アインズ様に詰め寄った。


きっとこのままじゃいけない。


そう思った俺からの仲直り大作戦の提案だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る