これは暇つぶしで異世界に召喚された俺のお話です~そんな俺の周り、やばい奴らばっかりなんですけど!?~【近日更新再開】

マオマオ。

序章 異世界に召喚されました

第1話

それは雲一つない快晴の日で、風はとても穏やかな春の事。


日にちは4月10日。


特に何かある訳ではないけれど、しいて言えば俺の誕生日が近づいてきたある日に起きた出来事だった。


「おーい、ひなた!早くデリバリー弁当、買いに行こうぜ!!」


親しい友たちが急ぎ足で移動する中、脚が遅い俺に振り返り声をかけた。


デリバリー弁当。


それは私立なんかのお金がかかる学校なんかとは違い、市立の学校で地味~に実施されている給食に似たような制度だ。


今のご時世、どこの家庭も共働き。


ご飯を作る朝の時間を世の主婦たちは睡眠、または家事に勤しみたいであろうという学校側からの配慮によりできた制度である。


ちなみに、うちの学校はデリバリー弁当を買う利点としてはお弁当が温かいという所にある。


が、しかし、だからといえ、誰もが温かい米やおかずを欲しているわけじゃない。


「悪ぃけど岡田、俺、小説読みたいから昼飯いいや。」


驚愕。


そんな表情を俺に向けてくる友人1の岡田。


まぁ、食い盛りの男にとってその反応は仕方ないだろう。


「お前、ちゃんと飯食えよ!だからんな身長低くて女顔なんだぞ!?」


よくわからないがすごい必死で岡田は言葉をまくしたて、俺に語り掛けてくる。


だが、そういわれても仕方ない。


「俺が可愛いからって僻むなよ。」


「僻んでねぇよっ!!!」


呆れた様に言葉を吐き捨てる俺。


そんな俺に岡田は地団駄を踏みながら何とも言えない苛立ちを顔に現していた。


女顔。


普通はそういわれると怒るだろうけど俺は違う。


娘、妹が欲しかった親父や兄貴たちに女装させられ続けた過去があるのだ。


というか、実を言うと家庭内では現在進行形の話だ。


父や兄に気が付けば女物の服を着せられ、化粧をされる日も少なくない。


そして、そんな日々の中で俺は悟った。


もういっそう、開き直るしかない、と。


っていうか正直、気持ち悪くはないと思う。


俺の女装姿。


まぁ、なんていったって俺はまだ14歳だ。


声変わりは多分してないし、身長も153センチしかない。


悲しきかな、時々小学生にだって間違えられる見た目だ。


筋骨隆々でもなければ、体つきも変に男らしいわけではない。


筋肉だってつきにくい体質だしさ。


はっきり言おう。


俺の女装はすごくかわいい。


……が、鏡で自分の女装姿を見た時に覚える虚しさは何というか……。


自分ではない他人と思ってその姿をみるならまだ良し。


でも、その姿をしているのが自分だと思うと何とも言えない複雑な気持ちにはなりはする。


とはいえそれは仕方ないのだ。


なにせ、俺は腐っても男だからだ。


でも、変に嫌がるそぶりを見せれば馬鹿な父や兄たちは余計俺をおもちゃにするだろう。


それが解っているからとりあえず涼しい顔して女装を受け入れているのだ。


「とにかく、行こうぜひなた!!お前も一緒にお弁当買おうぜ!?俺一人で並ぶのつまんねぇもん!!」


子供の様に駄々をこねだす岡田。


中学生にもなってこれはどうなんだと正直思う。


そんな岡田に対し、俺は再びため息をついた。


「っていうか、佐藤と倉竹もデリバリーだろ?二人と一緒に並べば――――」


「おいてかれた……。」


「あ……そう……。」


悲し気に斜め下に視線をお落とす岡田に俺はそれ以上何も言えなかった。


「はぁ……一緒に並ぶだけだからな……第一俺、パン持ってきてるし。」


「って、どうせ菓子パンだろ!許しませんっ!お母さん許しませんよ!!」


「いや、誰が母さんだよ……。」


渋々同行することを決め、昼休みに読もうと思っていたラノベを片手に立ち上がった俺。


そんな嫌々意味もなく長蛇の列に並ぶのに付き合ってやる俺に対し、

あろう事か面白おかしく人様の昼飯にケチをつけだす岡田。


そんな岡田に俺は冷たい視線を送った。


……というか、許さないだのなんだの言われたが、正直別に昼飯が菓子パンでも俺はいいと思う。


まぁ、栄養はないだろうけど、それはある意味パン食ってる時点でほぼないに等しいと思うし。


なんて思いながら俺はラノベを読みながらここ2階からデリバリー弁当の販売が行われている1階へと降りるため、階段を降り始めた。


「おい、陽!お前、また小説読みながら歩いて!!つか、階段では読みながら歩くなよな!!」


「んー。」


(時々思うけど、岡田ってさっき自分でも言ってたけどおかんみたいだよな……。)


口うるさいお母さん。


そんな感じがする岡田に注意され、俺は渋々ため息をつきつつも小説を閉じた。


その瞬間だった。


まばゆい光が突然俺の視界を照らした。


その光は何と、俺の足元を中心に広がっており、しかもよくよく見ると光を放っているそれは魔法陣の様なものだった。


「な、なんだよ、これ――――――う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」


余りの光のまばゆさに俺は目を閉じた。


そして、今度は一気に視界が真っ暗になった。


(一体、何が……。)


真っ暗な闇の中で俺は飲み込みきれない現状に混乱する。


一体俺の身に何が起きたというのだろうか。


なんて思っていた時だった。


真っ暗な暗闇にぼんやりと光が差し込んでくる。


そして、その光はやがて暗闇を明るく照らし出し――――――


(……ここ、どこだよ……。)


気が付けば俺は見慣れない場所にいた。


そこはまるでヨーロッパの貴族が使ってそうな内装の部屋だった。


そもそも部屋はかなり広いし、そんな広い部屋の中央にはとても豪華なシャンデリアがあり、

壁には大きな絵が飾られ、おしゃれな暖炉の上には何やら金色に光る物が置いてある。


……その金色に光る物はちょっと悪趣味な形をしているが、おそらく庶民の俺には理解できないアンティークな何かなのだろう。


正直、俺にはピ●ソのような芸術家の芸術品など点で理解できない。


そういう話をするのであれば、ストレートに万人受けする様や細工などを芸術として感じるタイプだ。


だが……


(何だろう、あの悪趣味な金の置物。何故か目が離せない……。)


まぁ何はともあれ、そんな見るからに貴族のお屋敷の様な部屋のすごくデカいベッドの上に俺は何故かぽつんと眠っていた様なのだ。


「よかった。目が覚めたのですね。」


「っ!?」


突然声が聞こえ驚く俺。


そんな俺の目の前に突然、絶世の愛らしいおとなしそうな美少女が現れた。


(ななな、何、この可愛い子っ!!)


綺麗な金髪。


ふわふわとしたやわらかそうな髪。


目はかわいらしいピンク色。


服装はまさに中世の貴族と言う様な格好だった。


(ちょちょちょ、ちょっと待て!なんで!?何でこんな美少女が俺の前にいるんだ!?っていうか、え、何これ、夢!?夢だよな!?多分夢だよなぁ!?)


余りの美少女を見た事で混乱する俺。


いや、とはいえ仕方ない。こんな美女を見ては気も動転するというものだ。


というわけで、ここはお決まりの一言を言ってみようと思う。


「き、君は?」


恐る恐る俺は問いかけた。


その瞬間だった。


少女は両手で俺の右手を包み込み、自身の胸元に引き寄せた。


「私はリディウス・ヴァレンタインと申します。どうか、どうかお助け下さい、勇者様!!」


(…………は?)


瞳を潤ませ、声は震わせ、必死に俺の手をぎゅっと握りしめ、懇願してくる少女。


しかし、なんだかよくわからない発言や展開に俺の頭は真っ白になった。


……というのも一瞬の事。


ラノベを読み漁ってばかりいる俺はすぐに展開に理解を示した。


(こ、これは俗に言う異世界召喚って奴だよな!?何これ、リアルにあるの!?こんな展開!!)


俺は動転した。


いや、動転しない奴がいたらあってみたい。


いきなり異世界に召喚され、勇者と呼ばれ、こんな美少女にお願いされるのだ。


(俺今、何でラノベの主人公たちが馬鹿みたいに勝てもしない魔王なんかに立ち向かっていくのかがちょっとわかった気がする……。)


こんなかわいい子のお願い、断れるわけもない。


(ってまてよ、ここがラノベのような展開が期待できる世界なら俺、もしかしていろんな女の子から言い寄られたり――――)


「勇者様。」


「ん?――――――うわぁっ!!」


ちょっとしたスケベ心から自分のこれからがうはうはハーレム生活になるのでは?なんて考えていた俺。


そんな俺をリディウスと名乗った少女が突然押し倒してきた。


少女は俺に馬乗りになり、静かに首元に巻いていたリボンをほどいた。


(えっ!?ちょっ、これ、どういう状況!?)


思いもよらない突然的な展開に俺はドキドキせずにはいられない。


最近の子供は進んでいるというが、俺は自身が女顔なせいで残念ながら彼女なんていたためしがない。


というか、可愛い女の子は自分の女装姿で見飽きていて、どっちかというと綺麗な美少女が好みで――――


なんて話は今はどうでもいい。


今大事なのはなぜ美少女に突然馬乗りになられているか、だ!


「ちょ、ちょっと、君、何やって……」


「勇者様に力を与えるのです。」


「……は?」


「私と勇者様の体を交え、奥深い所でつながれば私の持つ力を勇者様にお渡しできるのです。勇者様、貴方はこれから様々な女性と体を交え、力をつけてください。」


(……って、まさかのエロゲ展開っ!?)


俺が想像していたのと違う展開に俺は心の中で叫んだ。


いや、どっちかっていうと最近はやりの普通に異世界に何らかのチート能力もって転生して、魔王を倒す旅に出るけど、その度の道中のパーティーが何故か大半女性。


みたいなのを俺は想像していたわけで、こんな、こんなおエロな展開は想像していなかった!!


正直……結構おいしい展開だとは思う。


(いや、でも、しかし――――――このまま俺、童貞喪失していいのかっ!?)


いくら美味しい状況だからといえ、それを受け入れられるほど俺はその場その場で生きている人間ではない。


自分で言うのもなんだが、歳の割に落ち着いてると思うし、歳の割には判断力もあると思う。


この展開を受け入れてはいけないのではないかという考えが今現在、俺の頭の中を巡っていた。


(愛し合った者同士とかじゃなく、世界救う力を得るために体を交えるなんて、どっからどう考えても良くないと思う!あ、でも、異世界だからそこら辺の考え方も違うのか?いや、違うくても俺は日本男児!そう、取るべき行動は一つだ!)


悩みに悩んだ末、俺は覚悟を決めた。


そして―――――


「だ、駄目だ、リディウスさん!!!」


「っ!!」


俺は上体が上げにくい中、何とか上体を持ち上げリディウスさんの胸元が露わになっていた襟の生地を掴み、リディウスさんの肌を隠した。


「リディウスさん……こういうのは、こういう事は……好きな人としかやっちゃだめだと思う!!!」


俺は腹から声を出し、大きな声でリディウスさんに顔を真っ赤にしながら訴えた。


(そうだ。こんなこと、使命感でされたってなんか虚しいだけだしっ……。)


正直、もったいない気がしない事はないけれど。


「……ふむ。の割にお前のここは反応しているぞ?」


「ふわぁっ!!ちょっ、リディウスさん!何人のチン……だ、大事なとこ触って―――――って、…………え?」


ゆるふわ大人しめ清楚美少女のように思われたリディウスさんの口調が突然変わる。


しかもその表情もとても腹黒く、意地の悪そうな笑みをたたえた表情になっている。


「あ、あの、リディウスさん……?」


何故かリディウスさんが怖くなった俺は恐怖を押し殺し、恐る恐る声をかけてみる。


一体、彼女の身に何があったというのだろうか。


まるで人が変わったように見えるのだが……----


「ふむ、どうやら私は期待をさせてしまったようだな。ならば責任を取らなければならない。おい、貴様。名前は何という。」


「え……日暮ひぐれひなたですけど……。」


いきなり高圧的で挑戦的で、さらに女王様系に豹変したリディウスさん。


そんなリディウスさんに質問されるがままに俺は返答をした。


するとリディウスさんは何故か舌なめずりをして何とも言えない笑みを浮かべられた。


「ヒナタ……か。可愛い名前だな。ところでヒナタ、お前は童貞か?」


「……はぁっ!?」


「答えろ。どうなんだ?」


(ななな、何なんだよ、この子っ……!)


しょっぱなからなんかよくわからんがエロ要素たっぷりだったけど、こんなかわいい子が童貞かどうかを確かめてくるとか、もう本当に何が何だかよくわからん。


というか、だったらどうだというのだろうか。


なんて思っていると呆れた溜息が聞こえてきた。


「おい、質問に答えろ。……お前は童貞か?」


俺が返答しない事に苛立ちを見せたようなあきれた溜息を吐いたかと思うと、リディウスさんは俺の胸に手を置き、俺の耳元に口を寄せ、色っぽく問いかけてきた。


そしてなんと耳に息を吹きかけてまで来た。


「どどど、童貞です!!はい!!」


なんでこんな、同じ年ぐらいの女の子がこうもこんなにエロイのだろうか。


やはりここはエロゲ的展開になっていくような世界なのだろうか。


というか、異世界だとこの年でこんな感じ、

もしかしたら普通かもしれない。


いや、でも―――――


なんて思っていた時だった。


「ヒナタ、喜べ。お前の童貞は私が貰ってやろう。」


(やっぱエロゲ的展開来た―――――!!いや、やったことないけど!!)


なんか如何わしい展開=エロゲ的展開。


みたいな安易な考えしかできないほどお子様な俺に何とも言えない悪魔のささやきがされた。


正直、嬉しい気もする。


でも、でもやっぱり――――


「や、やめるんだリディウス!!女の子なんだから自分を大事にしてくれ!!」


そう、やはりこう言う事は好きな人とするべきだ!


なんとなくその場のノリや使命感でしてはいけない!!


そう思い俺はベッドに寝転がる俺に体を擦りつけてくるリディウスに対し、声を上げた。


すると――――――


「なんだ、女だと問題あるのか?ふむ、ならば――――――」


仕方がない。


そう言いたげなため息をリディウスが付いたその次の瞬間だった。


「ならば真(まこと)の姿、男の姿であれば問題なかろう?」


綺麗なサラサラな金髪、俺なんかよりはるかに逞しい腕。


そして、低くかっこいい声。


そう、かわいかったリディウスはまさかのまさか、男へと姿を変えてしまったのだった。


(う、嘘だろ……。)


ショックで言葉も出てこない……。


すごくかわいい美少女がまさかのどことなく色気を感じる綺麗なお兄さんに変わってしまったのだ。


「さて、これでいいだろう?まぁ、捨てるのは童貞ではなくなるが些細な事だ。」


「っ!!」


ショックで固まっていた俺。


しかしそんな俺はさらにショックな言葉で我を取り戻した。


そして――――――


「些細なことなわけあるかぁぁぁぁ―――――――!!」


大切なものを失いそうになった俺はそれからしばらく、暴れに暴れて叫びまわったのだった。

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