第31話 卒業試験

 前章でも書いたが、私たちの頃の母校は、卒業試験は完全に国家試験形式で、国家試験と同じ問題数を各講座に割り振って問題を作成し、国家試験と同様にマークシートで回答するものであった。時間割まで合わせていたかどうかははっきりとは覚えていないが、確か合わせていたように記憶している。本試験で不合格だったものはもちろん、合格した人も追試験を受け(つまり、国試の模擬試験として)、本試験で不合格だった人は、追試験の結果で卒業できるかどうかが決まる。どの問題がどの講座担当の問題なのかは明らかにされていない(とはいえ、泌尿器科の問題が精神科学講座の担当、ということはないだろうが)ので、試験が終わらないと、どの講座の単位を落としたのか、また、追試験でも自分の落とした講座の問題がどれなのかはわからず、そういう点でも2回の試験とも、全力投球とならざるを得ない。ある意味良くできたシステムであった。


 卒業試験の本試験は10月に施行された。前述のマッチングの結果の出た後か、出る前だったかは記憶にはないが、当然みんな、少し殺気立っている状態で試験を受けた。がむしゃらに問題を解き、マークミスがないようにマークシートに記入し、500問以上の問題を解くと、かなり体力を使う。とりあえず、卒業試験に全力を尽くし、その結果を待った。


 結果は1週間後くらい後に発表されたと記憶しているが、掲示された結果を見ると、軒並み名前の横に単位を落とした講座の名前が記載されている。結局120人強の学生が卒業試験を受け、本試験で合格したのは5人だけだった。その中に私の名前が入っていたのはうれしかった。厳しい試験を1度で合格することができ、学業を応援してくださっている恩師 上野先生にも会わせる顔ができた。とにかく、これで卒業できることは確定した。楽しくも厳しい、厳しくも楽しかった医学生生活を6年間で無事に終了できることは確定したのである。あとは国家試験に全力を尽くすのみである。


 本試験が終わると、自習室はまた元の雰囲気に戻った。単位を落とした講座がわかっても、どの問題を担当しているのかがはっきりとわからない以上、結局は国試に向けて知識をつけていくよりほかに追試験を合格する方法はないのである。面白い語呂合わせを作って、自習室で笑いながら勉強したり、ただ黙々と勉強したり、時に雑談の花が咲いたり、そんな毎日を送っていた。


 1年間、国家試験に向けて勉強していくと、次第に勉強するものが無くなってくるのである。30冊もあった国家試験の過去問題集も、全部3回繰り返したし、前年、その前の年の復元国試問題も3回繰り返した。4回受けた模試も、その問題をすべて3回繰り返した。そして、同じところで同じように間違える。自分の物覚えの悪さに、だんだん気持ちが負けてくるようになった。かなりきつい闘いである。そして、これだけ勉強しても、自分が国家試験に合格できる保証はどこにもない。もし不合格となれば、また1年間この生活になるし、生涯賃金にも影響してくる。医学部受験の時ほどではないにせよ、強いプレッシャーを感じていたのは事実である。


 卒業試験の追試は確か1月に行われた。そして多くのクラスメートが合格し、一部のクラスメートは残念なことに留年することが決まった。


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