第30話:送信!受信!謎の写真!
わたしは生前社畜である。
ワーカーホリックというやつだ。
そんなわたしに対して長期休暇を渡すとどうなるか。
「……暇だ」
こうなってしまう。
夏休み二日目。一日目にやったこと言えば、掃除機をかけたり、洗面台をきれいにしたり。そんな掃除ばかりしていたら一日が過ぎ、そして二日目。
虚無なのだ。生前休みに何をしていただろうか。
ずっと寝てた気がする。死んだように。惰眠を貪り、力の限り休んで、出勤へ。
「我ながら酷い社畜人生だったなぁ」
自宅のソファーで横になりながら、テレビのチャンネルを変えていく。
幸芽ちゃんとどこかに遊びに行きたい。
だが、相変わらず遊べるような場所を知らないわけで。
散歩でもしようかな。この辺の立地を覚えるために。
「でも何にも用がないのに出るのもなー」
そしてこのわたしはインドア派の出不精なのである。
ゲームして過ごすのも勿体ない。あぁ、そんな感じで最初に戻っていくわけで。
「幸芽ちゃん……」
気付けばタプタプとスマホをタップして、送信ボタンをポチリと押下する。
流石に返事は数時間後かなー、と思っていると意外や意外。すぐに帰ってくるのだった。
「……ふふ! あはは! なにその反応ー!」
概ね予想通りだ。
ちなみに今のやり取りは『幸芽ちゃん、好きー』からの『私はそうでもありません』という機械とやり取りしているような内容だった。
そうでもありませんって、そういうAI見たことあるよ!
よし、イジっちゃえ。
送信して、おおよそ40秒後。またもや返事が帰ってきた。
◆幸芽ちゃん 11:23
ロボットってなんですか!
私はれっきとした人間です!
「あはは、そりゃそーだよ」
そんな中身のない会話こそが、なんというか時間を無駄にしている感じがあって。
あぁ、これが休みというものなのか。なら、もっと謳歌しなきゃ。
◆花奈 11:25
わたしから見たらこんな感じだよ?
[画像]
ちなみに送った画像はほっぺたに合わせ目みたいなのが入ったロボット特有の見た目にデコレーションしてあげたのだ。
そう送って数分。ちょっとやりすぎちゃったかなと後悔した後、返事がやってきた。
◆幸芽ちゃん 11:34
姉さんなんか、頭お花畑なんじゃないんですか?
[画像]
「な、なんですとー?!」
その画像にあったのはわたしの頬が緩みきった幸せそうな表情の上で、頭に花がいくつも咲き誇っている画像だった。
……そうだ。こう言い返してやれ。
◆花奈 11:35
これは花奈と花を掛けた最高のジョークってこと?
ふふふ、これなら相手が恥ずかしそうに違いますよって来るはずだ。
数秒して、返事が帰ってきた。
◆幸芽ちゃん 11:35
ち、違いますよ!!
かーわーいーいー!
やっぱ幸芽ちゃんは最高だよ。顔が緩みっぱなし。さすが我が嫁よ……。
ちなみに俺の嫁文化って結構コアで古い文化らしい。いつの間になくなってたもんね。
「って、わたしあんな顔で写真撮られた覚えないんだけど」
花奈さんはもとよりそんな顔をしないらしい、というのは周りの雰囲気から察していた。
故に今のわたしに戸惑っているということに他ならないが、それならこれって今のわたしだよね。
「んー。聞いてみよ」
こういうことは素直に口に出して聞いたほうが悩みっぱなしにならずに済む。
タプタプと液晶をタップして送信、っと。
◆花奈 11:37
そういえばさっきのわたしの写真っていつ撮ったの?
よしよし、これなら返事ぐらいくれるだろう。
楽観視しながら、テーブルにスマホを置いて、チャンネルポチポチ。
うーん、やっぱりこの時間帯はだいたいワイドショーしかやっていない。
もう少ししたらお昼のバラエティ番組が始まるだろうし、それまで待機かな。
だが、幸芽ちゃんからそれ以降の返事が来ることはなかった。
気になる。モーレツに気になってしまう。
あんな顔、したような覚えはあるものの、本当に無意識からの一撃だと思われるため、わたしもいつやったか分からないのだ。
「やっぱり幸芽ちゃん、わたしのこと好きなことにならないかなー。いやないか」
夜桜家にお邪魔する前にコンビニに寄る。
理由は二つ。たまにはデザートもいいだろうというのと、人の秘密を探るには物が一番だと知っているからだ。
へへへ、プリンには叶うまい……!
「ん? よう、今日は遅かったな」
「あはは、コンビニ寄ってたからねー」
「へー、中身はなんだ?」
「プリーン! 食後にみんなで食べよ!」
「気が利くな!」
こうしている分には普通の兄ちゃんなのにな。
短くなった前髪をかきあげて、ルビー色の瞳を揺らす。
やっぱり短髪の方が似合うや。
「そういや、今日は誰かとメールのやり取りしててな。ご飯少し遅れるってよ」
「そっか……。そっかぁ……えへへ」
わたしのために時間割いてくれたんだー。
そう考えたら口元が緩んでしまう。わたしのために。わたしの、ためになぁ!
「なんか、キモいな」
「ひどくない?! 女の子に言う言葉じゃないよ!」
「だったら俺にも言ってるだろ」
「そういうのは男性の特権!」
「ひっでぇ!」
そんなくだらないやり取りをしながら、わたしはプリンを冷蔵庫に置いて、ソファーへと向かうのだった。
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