第3章 2人で夏を楽しむまで
第26話:優しい嫉妬はかわいらしいと古事記にも書いてある
あの日を境に、幸芽ちゃんの笑顔が増えた気がする。
「姉さん、そっちのお菓子取ってもらっていいですか?」
「姉さん、私のペンどこにやりました?」
「姉さん!」
あぁあああああ!!!!
姉さん姉さん姉さんって! こんなにもわたしのことを惑わせてくる魔性の女がいますか?!
半ばパシリのように感じたりするけれど、それはわたしを頼ってくれてるってことなわけですしぃ?!
いやぁ、姉冥利に尽きますっていうか、恋人冥利といいますか!
前者は間違いだけど、後者は確定事項! 恋人ですからねー、わたしたちー!
あはははは! ははははは!!
「はぁー……」
「ウケる」
夏休みに入る直前。終業式。
檸檬さんと会うこともしばらくないだろう。そんなガッカリを身に感じながら、自分の恋の進展具合を思い悩んでいた。
「進捗どうっすか?」
「ダメです……」
「マジさぁ、あの後いい感じになったんっしょ? だったら一つや二つはないんすか」
「……なかったね」
説明しよう!
わたしと幸芽ちゃん、あとついでに涼介さんは幼馴染である!
幼馴染が故に、わたしと幸芽ちゃんの距離感は、親しい間柄、から先に進まないのだ!
これはわたしが日和っているとか、そんなんじゃない。
普通家族から恋人に行きますか? 行かないでしょ! そういうことだよ!
「あたし、てっきりキスとかそっから先とか言ってるもんだよ」
「なななに、なに言ってるの?!」
「この様子だと、手をつなぐとかもまだそうだねー」
そ、それはしたよ! わたしだってそこまでヘタレじゃない!
ただ、ちょっと。その……。喪女なだけだから。
「でもキスだよ? ファーストな、最初の! タイミングとかあるでしょ?」
「そりゃそーだけど、それを作るのも、年上女子の手腕ってやつっしょ」
ニヤリと笑う彼女を尻目にスマホをいじるわたし。
まぁ目的なんてたった一つなわけで。
「無視とかひっどくない?」
「そうじゃないよ。連絡先交換しよ!」
「……マジ? そう来ちゃう?」
来ちゃいます。
花奈さん基準では春先からの付き合いである檸檬さんであったが、実は連絡先を交換してなかったことに最近気づいた。
意外と面倒くさがりなのかな。それともプライベートの区分けをしっかりしていたのか。
ともかく、連絡先を交換している子たちは数少ない。その中には檸檬さんがいなかったわけで。
「いや、感激だなー! 花奈ちゃんのほうから誘ってくれるなんてさ! ちょっち待っとってー」
懐からスマホを取り出してピポパ。ちょっと古いかこの表現。
メッセージアプリの連絡先交換機能を利用して、わたしたちは晴れて連絡先の交換に成功する。
「ウケるなー。マジで交換してなかったとか」
「だね。なんか友達っぽい」
おっ? なんて声がわたしの耳に届く。
その声の主は檸檬さん。驚いた表情でわたしのことを見つめているようだった。
「どうしたの?」
「いや、なんというか。照れくさいこと言うな―って」
「へ?!」
「だって普通言わないって、友達っぽいとかさぁ!」
ケラケラ笑う目の前のギャルに、一瞬言葉の意味を理解していなかったが、数秒を経て思いつく。
た、確かに。元から友達なのに友達っぽいって、なに?
これ結構失礼なこと言ってない?!
「ご、ごめん。そんなつもりじゃなくって」
「いーのいーの! あたしも嬉しーしさ!」
肩をパーンと叩かれて、強引に廊下の方を向かせられる。
その先にはドアの影から小さくギリギリとわたしを見つめる可愛らしい後輩の姿があった。
「ほら、いってらー!」
「う、うん」
なにか悪い事でもしたかな?
分からないことだらけすぎて分からないけれど、とりあえず幸芽ちゃんのところに行こう。
「お昼?」
「というか、その。なんと言いますか……」
彼女のハテナはしばらくしてため息へと変わる。
え、なになに?! 怖いんだけど!
「姉さん、やっぱり人気者です」
「そ、そうかな」
「そうですよ! ……私の立つ瀬がなくなります」
ひょっとして、嫉妬してたりする?
自分の欲望を口に出したいけど、出せないからこんな遠回りな言葉で伝えるって。
わたしの中の幸芽ちゃんかわいいボルテージに火が付く。
ちょ、ちょっとだけいじってみようかな。
「どうなんだろう。でも檸檬さんとは結構仲良くさせてもらってるし」
「なんか、仲良くなりすぎじゃありませんか? その、こう……。私だけってのは分かってるんですけど……。私のこと、見てくれているのかなーとかなんとか……」
なにこのかわいい生き物。素直になれない妹ってこんなにもかわいいの?!
性癖が一つ捻じれる音がしている。新たな扉を開いて、開け放たれた空にダイブする感覚。
胸の奥の、この子無性に抱きしめたい欲求がむき出しになる。
まぁ、多少はバレちゃってもいいよね?
「幸芽ちゃん!!」
「えっ? ちょっ!」
ガバっと抱きしめた幸芽ちゃんの頭を胸で受け止める。
あぁ、生前は特に理由なく大きかった胸だが、こうやって好きな人をうずめさせることができたのだ。それはそれは快感でしかない。
「ん! んん~!」
「幸芽ちゃんはかわいいなぁ! ごめんね、わたしが好きなのは幸芽ちゃんだけだからさ!」
もぞもぞと動くのは彼女の頭。
少しくすぐったいし、なんだったら少し声が漏れ出てしまっているけれど、それはこの目の前の幸せには代えがたい。
「姉さん! ここはその、皆さんが見てますし……」
「見せつけちゃお!」
「なんでですか!」
周りのモブたちもわたしたちのことを見ているし、これは学校新聞で大々的に報じられるかもしれない。
不安半分。それでも幸芽ちゃんと公にイチャつけるなら、それに越したことない半分。
それに、幸芽ちゃん抵抗してこないし。寂しがり屋め、このこの~!
わたしもだったわ。
「おーい、花奈、幸芽! なに、やって……」
「「あっ」」
そして兄バレ、というのもこうやって起きうるわけで。
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