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「この子、すごくかわいい」


 立ち上がって、シズクちゃんはカイに言いました。ルルちゃんが照れています。カイは照れる気分になりませんでした。


「いいな、こんなかわいい魔物で。わたしの相棒もこの子みたいだったらいいな」


 シズクちゃんはそう言いました。けれどもカイは、なぜか、いらいらしてきました。かわいい、だそうです。カイの相棒は「かわいい」のです。


「うん、まあ、そうなるといいね」


 カイはぶっきらぼうに言いました。そして、たわいもない話を少ししたあと、その場を離れました。


 ルルちゃんはごきげんでした。スキップしながら言いました。


「ルルは、かわいいんだって!」

 

 その姿も、カイの気持ちをいらだたせるのでした。


 カイは思いました。シズクちゃんの相棒はどんな魔物なんだろう。かわいいのかな。本人が望む通りに。それともかっこいいのかな、立派なのかな、偉そうなのかな、それとも――。


 なんとなく、シズクちゃんの相棒を見るのが恐ろしくなりました。




――――




 シズクちゃんとカイは同じクラスです。今まで同じクラスになったり違うクラスになったりしましたが、今年度は同じクラスです。


 ですからほとんど毎日教室で顔を合わせます。けれどもそんなにひんぱんに話はしません。昔はよく遊んでいたのですが。


 カイは男の子の友人たちと一緒にいます。シズクちゃんは女の子の友人たちと一緒にいます。男の子たちと女の子たちの仲が悪いというわけではありません。みんなで遊ぶこともあります。ただ、なんとなく分かれてしまうことも多いのです。


 一学期は同じ班にもなりました。算数の時間のことです。先生が生徒たちに少し難しい問題を出しました。解き終えたら先生に見せます。正解だった子は、他の生徒に解き方を教えてもよいことになっています。シズクちゃんは早々に正解していました。


 カイはなかなか問題を解くことができません。一生懸命考えていると、シズクちゃんが言いました。


「教えよっか?」

「いや、いい」


 カイは素早くはっきりと言いました。「こういうのはゲームと一緒で、自分でなんとか解き方を見つけたほうが面白いんだよ」


「うん、そうかも」


 シズクちゃんはそう言って、引き下がりました。カイはまた考えます。けれどもどうしてもわかりませんでした。


「……やっぱり……」


 カイは小さな声でシズクちゃんに言いました。「教えて」


 ほんとは、こんなことを言うのはいやでした。シズクちゃんに頼りたくないのです。でもいつまでたってもぐずぐずと、問題が解けないのもいやでした。


 シズクちゃんはカイの近くに来て、「これはね……」と教えてくれます。シズクちゃんがうつむいて、髪の毛がはらりと落ちました。シズクちゃんの手が、ノートの上をすべります。爪の形が意外ときれいなことに気づきました。


 よくわからない、謎の甘い感情がこみあげてきました。シズクちゃんが、説明をしています。それをきちんと聞かなければなりません。カイは集中しようと努力しました。


 同じ班なので、家庭科の調理実習では一緒に料理をします。カイはシズクちゃんが包丁を持って、トマトに苦戦しているのを見ました。なんだかうれしいような気持ちになりました!


 かしこいシズクちゃんにも苦手なことはあるのです。そういえば、裁縫もあまり上手くありません。絵にいたっては、上手くないどころかむしろ下手といってもよいくらいです。


 シズクちゃんだってなんでもできるわけではないのです。


 シズクちゃんは料理で活躍できなかったのを取り戻すように、熱心に後片づけをします。シズクちゃんはまじめな女の子なので、そうじもきちんと取り組むのです。


 お皿洗いをしているシズクちゃんのそばにカイもやってきて、手伝います。シズクちゃんが短く、ありがと、と言ってくれます。その後は二人でだまってお皿を洗うのです。




――――




 シズクちゃんの誕生日がいよいよ近づいてきました。明日です。


 女の子たちが教室でシズクちゃんを取り囲んで、いよいよ明日だね、魔物に会えるね、と話をしていました。カイはそれを無視するように通りすぎました。今日はあまりシズクちゃんと話したくありません。

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