第五話 シズクちゃんのお話

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 ルルちゃんの話は何度かしたので、カイの話をしましょう。カイは12歳の男の子です。前に書いた通り、いろんなことを知っていますが、ごくふつうの男の子です。


 顔立ちも背の高さも頭の良さも、ごくふつうでした。足は少し速い方かもしれません。けれども陸上の選手になれるというほどではありません。


 カイにはおさななじみの女の子がいました。名前をシズクちゃんといいます。シズクちゃんも、まあふつうの女の子でした。顔立ちも背の高さも足の速さもふつうです。ただ、クラスで一番頭のいい女の子でした。


 カイは保育園に通っていたころからシズクちゃんを知っていますが、最初はそれほどかしこいとは思っていませんでした。けれどもいつ頃からか、気づけば、シズクちゃんはかしこい女の子になっていたのです。これは不思議でした。


 今回は、そんなシズクちゃんとカイの話です。




――――




 夏休みが終わり、二学期になりました。まだ暑い日はありますが、それでも、一日一日と空気が冷たくなっていきます。ここ何日か、カイには少し気がかりなことがありました。それは、シズクちゃんの誕生日がもうすぐだということです。


 誕生日がくればシズクちゃんは12歳になります。つまり、魔物の相棒がやってくるのです。シズクちゃんの相棒はどんな魔物でしょう。


 それがなぜか、カイにはとても気になるのでした。


 カイにはルルちゃんがいます。ルルちゃんは――思い描いていた相棒とは違いましたが、それでもかわいい魔物でした。性格も素直でよいこです。よい相棒がやってきたな、カイは思っていました。


 けれども少し、まわりの子どもたちの魔物を見て、複雑な気持ちになることもありました。


 カイがクラスで一番早く相棒持ちとなりましたが、それから続々と、他の子どもたちのところにも相棒がやってきました。


 友人のケンタのところの相棒は、大きな犬の姿をした魔物です。黒く、きりりとした目と、とがった耳をしています。ケンタを守るように、そばにはべります。


 ユウジのところの相棒は鳥の姿でした。きれいな青い背中に、真っ白のおなかの、美しくスマートな鳥でした。鳥ですからもちろん飛べます。ルルちゃんだって飛べます。二匹は一緒に飛んで遊びました。カイはその姿をほほえましく見ながら、ルルちゃんってどうしてあんなに丸っこいんだろうと思いました。


 丸いといえばマユミちゃんの相棒も丸っこい形をしています。ルルちゃんよりも丸いのです。まん丸です。あまり似ている生き物が思い浮かびません。黒くて丸くてぽんぽん弾むのです。


 そして大きな口をして、大きな声で笑います。面白いことをたくさん言います。マユミちゃんは、もっとかわいいのだったらよかった、と言いましたが、カイは風変りでゆかいなこの魔物が気に入りました。


 つまり、他の子どもの魔物を見ると、それがうらやましくなるのです。ルルちゃんが悪いというわけではりません。悪いというわけではないのですが――。


 もっと他に、なにかありえたかもしれない、ということを考えてしまうのです。


 さて、シズクちゃんです。シズクちゃんにはどんな相棒を手に入れるのでしょうか。


 シズクちゃんは、前にも書いた通り、頭の良さをのぞけばごくふつうの女の子ですが、カイからすると、ときおり、ふつうに見えないことがありました。


 それは何気ない瞬間です。友だちと一緒に笑っているときなど。シズクちゃんがふっと笑うのをやめます。目が、わずかに真剣なものになります。それは一瞬です。でもその瞬間、シズクちゃんが周りの女の子たちとまったく違うものに見えることがあるのです。


 シズクちゃんはまた笑い出します。またふつうの女の子になります。すべてはカイの目の錯覚かもしれません。カイはこういう場面に出会うたびに、不思議な、落ち着かない気持ちになるのです。




――――




 カイは、シズクちゃんとルルちゃんが初めて会った日のことを思い出します。外をルルちゃんと歩いていると、ばったりシズクちゃんに出くわしたのです。カイは、ルルちゃんをシズクちゃんに紹介しました。


 ルルちゃんはぺこりと頭を下げて言いました。


「はじめまして、ルルです」

「かわいい!」


 シズクちゃんは笑いました。そして屈みこんで、ルルちゃんの目を見ました。


「はじめまして。わたしはシズクよ」


 ルルちゃんとシズクちゃんは目を合わせて、にっこり笑いました。

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