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 話しているうちにだんだん熱が入ってきました。涙が、ルルちゃんの胸にこみあげてきました。それをこらえながら、ルルちゃんはしゃべりました。


「ウララちゃんは、きれいな月の夜に海の王様に会うっていうの。でもそれはいやなの。ルルにとってはなんだかいやなの。でも海の王様に会うのはウララちゃんにとっては幸せなことでしょ? ウララちゃんが幸せならルルもうれしいし、でも――」


 声がふるえてきました。ルルちゃんは必死に言いました。


「どうしてなの? どうして、ウララちゃんの幸せをよろこべないの? ルルは悪い魔物なの? 悪い魔物になるなんてやだよ。ルルは悪い魔物になんかなりたくない」


 そこまで言って、ルルちゃんはわっと泣き出しました。カリンちゃんはだまっていました。ルルちゃんが落ち着くまで、だまってそばにいてくれました。そしてルルちゃんの泣き声が少し収まった辺りで、そっとやさしく言いました。


「それはヌヌちゃんだよ」

「ヌヌちゃん?」


 ルルちゃんは涙にぬれた目で、カリンちゃんを見ました。カリンちゃんがうなずきました。


「そう。悪いルルちゃん。悪いルルちゃんがね、ルルちゃんの中にいるんだよ」

「そんなのやだ!」


 ルルちゃんはきっぱりと言い放ちます。「どうすればいいの!? どうすればヌヌちゃんは出ていくの!?」


「出ていかないよ。それにね、ヌヌちゃんはルルちゃんだけじゃなくて、みんなの心の中にいるんだよ」

「ルルみたいな生き物が?」


 それは不思議なことです。みんなの心の中に、ルルちゃんのような白くて丸っこくてつののある生き物がいるのでしょうか。


 カリンちゃんは苦笑しました。


「そうじゃなくてね、誰の心の中にも、よくない自分がいる、という話だよ」

「みんなにいるの? カイやナミや、カリンちゃんの中にも?」

「そうだよ」

「お父さんやお母さんや、おばあさんにも?」

「もちろん」


 そんなふうには思えませんでした。カイはときおりいじわるです。でも根はやさしいのです。お父さんたちにいたっては、悪い部分があるようには思えませんでした。


「それで、出ていかないの?」


 ルルちゃんは暗い声で言いました。ヌヌちゃんはこれから先も、ルルちゃんの心に居座ったままなのです。これはあんまりなことのように思えました。誰の心にもヌヌちゃんがいる、と言われても、なぐさめにならないように思えました。


「うん。残念だけど出ていかない。だから上手いつきあい方を考えなくちゃ。上手くつきあえるように――仲良くはなれないかもしれないけど、でも、あんまりふりまわされずにすむように―」

「そんなの――むずかしいよ」


 ルルちゃんにはできそうにありません。しょげるルルちゃんに、カリンちゃんが言いました。


「ほんと、とってもむずかしいよ。それでみんな苦労してるんだよ。一生の課題だよ」

「カリンちゃんの中にも悪い自分がいるの?」


 ルルちゃんはたずねました。そうは見えません。でも、カリンちゃんは笑って言いました。


「いるよ! もちろんいるよ!」

「上手くつきあえるの?」

「ぜーんぜん。むずかしいよ。ときおり負けちゃう。――でも、そういうの全部ひっくるめてわたしなんだよ。ルルちゃんも、ヌヌちゃんの存在全部ひっくるめて、全部まとめてルルちゃんなの。かわいいルルちゃんなんだよ」

「うん……」


 ルルちゃんにはよくわからない話でした。でも、すべてを打ち明け思い切りないたせいでしょうか、ルルちゃんの心はだいぶ軽くなっていました。


「ありがとう、カリンちゃん」


 ルルちゃんは言いました。


 カリンちゃんが居間に戻ります。ルルちゃんは荷物の中からウララちゃんの本を出しました。本を開きます。ウララちゃんが出てきました。


「今日はごめんね」


 ルルちゃんはウララちゃんに言いました。ウララちゃんがけげんそうな顔をしています。


「あまりおしゃべりしなかったでしょ」


 ルルちゃんは言いました。ウララちゃんは笑いました。


「ああ、別にいいのよ」


 ルルちゃんもウララちゃんに笑いかけました。


 ルルちゃんはウララちゃんの本を持って、みんなが集まっている、にぎやかな居間へと向かいました。




――――




 おばあさんの家での日々は続きます。朝、まだ早いうちは子どもたちは宿題をします。カルピスを飲みながら、大きなテーブルを囲んでやるのです。ルルちゃんはそばでお絵かきをしました。


 みんなで街まで買い物に行きました。お昼はおいしいカレー屋さんでカレーライスを食べます。ルルちゃんはチキンカレーです。おばあさんにおいしいゼリーも買ってもらいました。おやつにみんなで食べるのです。

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