4話 ヒエラルキー

「契約の変更点としましては、期間をずらして、今日からということ。そして、当主様の本邸などを守っていただくことです。」


「それはいいんですが、何故、契約の変更を?これくらいは俺も知る権利があると思いますよ?」


「そうですね。」


内容をかいつまんで言うと、


本邸は都会の少し外れたところにあるらしいんだが、その近くにある、テナント募集をしているはずのビルにいわゆるヤクザのような人たちが出入りしているところを、近隣の人たちが目撃したらしい。


当主はあまりよく思うはずもなく、警察に通報。そして、二人の警官が来て、そのビルに入っていった。しかし、なかなか帰ってこないので、今度は沢山の警官に来てもらい、中を調査した結果、


先程、入っていった警官は四肢を折られ、腹部に爪で裂かれたような傷があったそうだ。幸い、一命はとりとめたが、重症なことには間違いなかった。


そして、警官が入って数分した時、窓から何かが逃げていった。という通報があったこともあり、警察は重要視して、そのビルに乗り込むも、中身はもぬけの殻。


故に捜査は打ち切り。その後は何もなかった。


しかし、


今になってまた、前と同じように、そのビルに人が出入りし始めた。だが、今もまだ、テナント募集中のはずだ。


この事態を重く見た、当主は警察ではなく、軍に協力要請したにもかかわらず、未だに返事等はない。


それで、俺に白羽の矢が立ったわけだ。


「概要はわかりました。それで、今日にでもそこに行くべきでしょうか?」


「出来るだけ早めにお願いします。」


「わかりました。」


話しながら、イヤホンのミュートを解除する。


「手伝ってくれ。」


『どーしたの?』


「軍の内部事情を調べてくれ。」


『難しいことを言ってくるものだね。まぁ、頑張るよ。分かり次第連絡するよ。』


「頼んだ。」


『うん。頼まれた。』



そして、渋川さんは待っていてくれていた。


「俺にはもう一人のクライアントがいるんだがそれは、どうしたらいい?」


「那原菫さんは私が護衛を送りました。安心していただいていいですよ。では、車を用意していますので、着いてきてください。」


着いていくと、黒いリムジンが止まっていた。金持ちはリムジンみたいな風潮やめね?悲しくなるから。






リムジンに揺られる?こと10分。武器の準備をしながら、目的地まで無言を貫く。そして、着いたところはテナント募集の紙が貼られていた。


「俺は入りますが、あなたはどうしますか?」


「私は外で待っています。何かあったときに、これを。」


そう言いながら小型のボタンのようなものを渡してきた。


「これを押すと私に連絡がきます。では、お気をつけて。」


そういうと、頭を下げ、送り出してくれる。こんなのもいいな、と思ってしまう。でも、行ってきますは言わない。呪いの言葉と思っているから。


軽く会釈して、ビルに入っていく。背中に対物ライフルを忍ばせ、ハンドガンを持ち、クリアリングしながら、階段を上がっていく。


4階。不自然に閉められた扉を見つける。廊下を凝視しながら、その扉に近づく。鍵穴は溶接され、潰れている。面倒くさいし、ドアノブごと吹き飛ばすか。


カバンから破片手榴弾をドアノブに置き、ピンを引く。そして少し距離をとり、見守る。


ドガンッ


その音を聞き届け、扉を確認する。うまく、ドアノブが外れており、簡単に侵入できる。


中に入ると、何故か立ち上げられた、パソコンが光っており、壁には何かが反射しているような不気味な光を視認する。


そのパソコンには心拍数などが表示されており、誰のものを測っているかは、わからない。これ以上は無意味だと思い、不気味に光る部屋へハンドガンの銃口を向けながら近づく。


そして閉ざされた部屋の扉を開けて、俺は言葉を失った。




不完全。




神が作り出した生物は完全な形を持つ。しかし、水色に光る半透明な液に浸っている生命体は静かに脈を打っている。その生物は生物界のヒエラルキーから外れた位置に存在する。


人はこの生命体を見て、こう言うだろう。


合成生物。又は、キメラと。

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