第39話 空竜と龍騎士[ルイ編]

「なぜって……そりゃ———友達だから」


 イザナくんに真っ直ぐそう伝えられる。


「……友達っすか」

「あぁ。だから一緒に[空を支配する竜スカイドラゴン]を倒して目標の【龍騎士ドラグーン】に転職しよう」


 そう話すイザナくんに手を差し伸べられた。





『「そりゃギルマスが未だにただの【槍騎士ランサー】だからだろ!!さっさと転職しろよな!」』


『「……ちっ。やれやれ、これだから俺らのギルドはだめなんだよ、威厳がかけらも感じれねえし!……いこうぜ!!」』



 ……ギルドメンバーたちから投げかけられた非情な言葉や態度とは対照的に、イザナくんが差し出してくれたその手は僕の心の支えになるものだった。



(イザナくんのことは正直好きになれないっすけど…… "友達" と言ってくれる。しかも難しいと分かっている[空を支配する竜スカイドラゴン]の討伐も一緒に挑戦しようとしてくれている。これじゃ……僕が格好悪いっすね)


 僕はそう心の中で思い、イザナくんの手を取った。


「イザナくん、よろしくお願いするっす!」


 こうして僕たちはパーティーを組み、[空を支配する竜スカイドラゴン]が出現すると思われる場所へと向かった。



 ♢



 イザナくんの情報によると[空を支配する竜スカイドラゴン]は第6階層の街から外れた巨大な岩山の上に、姿を現すことがあると言われていた。


 その場所に行くこと自体は難しくないが、もし万一にも[空を支配する竜スカイドラゴン]と出会ってしまえば、確実に生命をおとしてしまうため、プレイヤーはおろかNPCたちでさえ、誰一人としていなかった。



「ここっすね」

「そうだな。今のところは……いないみたいだな」


 辺りを見渡してみても[空を支配する竜スカイドラゴン]の姿は確認できなかった。


「この岩山も広いところだし、二手に分かれて探すってのはどうっすか?」

「けど、遭遇した時に1人だと危なくないか?」

「大丈夫っすよ。さすがにそんな簡単には出てこないっすから」

「まぁ……それもそうだな。それにかなりの大きさだろうから、出てきたら気付くか」

「そうっす!じゃあ見つけた時はお互いにフォローし合うっすよ〜!」


 僕は左側の道を、イザナくんは右側の道を進んで[空を支配する竜スカイドラゴン]を探すことにした。




 ——歩き始めて10分は経過しただろうか。


 僕は休憩がてら、夜空を見上げて綺麗な星空を見つめていた。


(……ここ、こんな綺麗なところなんっすね。いつか大切に思える人とここに来られたらな)



 そう胸に思いを刻んでいた時、遠くの方で一段と綺麗に光る星が流れ星かのようにものすごい勢いで近づいてきたのだ。


(ええ?!……ってかこれって流れ星じゃなくて?!)




 そう。僕が流れ星と思っていたのはヤツの眼だった。つまり、空から降りて僕の目の前に現れたのは、[空を支配する竜スカイドラゴン]だったのだ。



○[空を支配する竜スカイドラゴン

〈レベル40〉





 ———グァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!



「や、やばいっす!!!!」


 竜の咆哮を聞いて僕は逃げるように、岩山を駆け抜ける。だが恐怖で脚が何度ももつれスピードがでない。


敵はレベル40——つまり、レベル22の僕が一撃でも攻撃を受ければ、即座にHP全損となることは確実だった。



「ハァ……ハァハァ……このままじゃ追いつかれ……」


 どれだけ距離が近くなってるかを確認するため、一度後ろを振り返るとそこには[空を支配する竜スカイドラゴン]の姿がなかった。



「ハァ……いないってことは……ハァハァ逃げ切れたんっすか?」


(いや、でもそう言えば[空を支配する竜スカイドラゴン]の攻撃特性って)



 僕がそう考えた途端、星空で明るかったはずの周囲がサァーっと暗くなった。



「あ……あぅ、そ……そらから一方的に攻撃してくるんだった……っす」



空を支配する竜スカイドラゴン]は僕を見下ろし、確実に捉えるため、スキル【威圧プレッシャー】を使用してきた。


(……動きが……これ、僕死んじゃう……誰か、誰でもいいから助けて……っす、イザナくん!!)




 動けなくなった僕の目の前に[空を支配する竜スカイドラゴン]の大きく鋭い脚の爪が迫り、反射的に両眼を閉じた。




 ———「【覇王ノ覇気】発動」




 イザナくんの声が聞こえたので、目を開くといつの間にか僕と[空を支配する竜スカイドラゴン]の間にイザナくんが立っていた。


ただ奇妙なことに攻撃を繰り出そうとしていたはずの[空を支配する竜スカイドラゴン]は攻撃を止め、僕たちから一定の距離をとっていた。羽の動きも不規則で明らかに様子がおかしかった。


「[空を支配する竜スカイドラゴン]がビビってる?僕ら……いや、イザナくんに?」



 ありえないことを口走っているのことは理解しているが、目の前で起こっている不可解な光景はそう思わざるを得なかった。


空を支配する竜スカイドラゴン]は数秒間空中で羽をばたつかせた後、逃げるかのように身体を翻し夜空に向かって飛んでいってしまった。


「やばいっす!空に逃げられたら追いつけないっす……隠れボスは次いつ出会えるかわからないっすよ……」

「大丈夫……逃しはしないさ」

「え……?」



 自信ありげなイザナくんの方を振り向くと、まるで勝利を確信しているかの如く不気味なくらい口角を上げ[空を支配する竜スカイドラゴン]を見つめる姿が目に映った。

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