第10話 緊急クエスト[第1階層編]

 装備を"アイアンソード"に切り替えて、ひたすら"角兎"討伐クエストをクリアしまくる。


 同じ作業の繰り返しで飽きるんじゃないか?

 ……と思うかもしれないが、実際のところ敵の攻撃を受けないように動きを予測し、回避しながら攻撃を繰り出す感覚を培ういい練習になっていた。



 ただクエストをしながらも、少し気掛かりだったのは"角兎"クエストの名称だ。


【赤い実は本当にリンゴ?】


 となっていたが、オレの知っている"角兎"クエストの名称は、


【リンゴ少女の願いを聞こう】


 というものだった。



「なーんか気になるんだよな。オレの知らない隠し要素があるんじゃないかって。」



 そうしてひたすらクエストを繰り返し続けると、オレの疑問に答えかけるかのように、違和感の正体が露わになった。


 100回目のクエスト完了報告をした直後、目の前に突如赤いポップアップが起こり、そこに"緊急クエスト"の文字が浮かび上がったのだ。




【緊急クエスト】《第1階層専用》

 ○少女が見つけた赤いものの正体はリンゴではなく、魔神の宝玉だった。魔神の宝玉によって凶暴化したモンスターを討伐し少女を救え。



 難易度:★★★(D)

 詳細:牛魔の妃姫(0/1)

 報酬:獲得ステータスポイント+300


 ※注意:取得経験値0。一度のみ挑戦可能です。

 ※発生条件:ソロでの"角兎"クエスト100回クリアを最初に達成したプレイヤーにのみ発生。





「なるほどな。違和感の正体はこれだったってことか。」


 それは前回オンラインNOW!をクリアした時には、見たことも聞いたこともない"緊急クエスト"という未知の存在だった。


「こんなの前にはなかったのにな。完全な隠し要素だったってことか?」


 ただ、"緊急クエスト"という隠し要素のあるクエスト攻略に挑めるのは全プレイヤーの中で1人だけ。

 そして報酬はステータスポイント+300。


 これは初期段階において周囲と大きく差をつけることができるチャンスだと思った。



 オレは早速マップを確認し、討伐対象である"牛魔の妃姫"がいる場所へ向かった。



 ♢



 その場所は、人型のガイコツモンスターの潜む小さな洞窟の1つだったが、緊急クエストの影響か洞窟の広さが異常なほど広くなっていた。


 奥の方に座っているモンスターが恐らく"牛魔の妃姫"だろう。


 オレの姿に気付いた"牛魔の妃姫"は立ち上がり、威嚇するかのように雄叫びを上げた。

 かなりの巨体で、右手には銀色に輝く大きな斧を持っている。


 そしていやらしいことに、やつの名前は赤色で表記されていた。



 ○牛魔の妃姫(レベル10)



 赤色の表記は、自分より強く危険なモンスターであるということを示しているのだ。


「上等だよ。さあ、決闘といこうぜ。」


 オレは"アイアンソード"を握る手に力を込め、'牛魔の妃姫"にむけて剣を振り下ろした。



 ♢



 気付けば暗がりの洞窟の中で戦闘を始めてから、およそ20分もの時間が過ぎていた。


 "牛魔の妃姫"はオレにとっては格上の敵であったが、手に持っている銀色の斧を使っての大振りの攻撃が中心だったため隙が大きく、何とか全て回避できていた。



「こんなもんか?攻撃の仕方がなってないぜ?」


 振り上げる大きな斧を回避し詰め寄り、隙を突いて"アイアンソード"で攻撃を繰り出す。



 ーピシッ。



 と嫌な音が洞窟内に響いた。



「ちっ……。さすがは格上だけあって防御がめちゃくちゃ硬いな。このままじゃ"アイアンソード"が先に壊れちゃうな。」


 オンラインNOW!では、格上すぎる相手と戦闘する場合は、装備が耐えきれず壊れてしまう現象……いわゆる"装備破壊"が起こってしまうのだ。


 "牛魔の妃姫"のHPがあと少しのところで、ここぞとばかり一気に猛攻をたたみかける。


「オレの"アイアンソード"が先に壊れるか、オマエのHPが先に尽きるか……どっちかだな!」



 グァァァァァァァァァ!



 と最後の力を振り絞る"牛魔の妃姫"。

 結果的にこの執念深さが勝つことになった。


 オレの"アイアンソード"はあと一息のところで見るも無惨に壊れてしまった。

 武器を失ったオレは瞬間的に少し距離をとる。


 "牛魔の妃姫"からすれば、丸腰になった今のオレは倒すのに格好の的であるはずだが、ダメージを負いすぎてることもあり迂闊に攻め込んでこなかった。


「あーぁ、こっちが先に壊れちゃったか。やっぱ念には念をって大事だよな。」


 オレは武器屋で買っていたもう1本の"アイアンソード"を装備し"牛魔の妃姫"に向き直った。



 ギッ……ギッギッギッ!グァァァァァァァァァ!!!!



 洞窟内に大きな雄叫びが響き渡る。

 それは予想外の出来事が起こり、悔しがっているかのような……また死を予感し悲しみを帯びたかのような雄叫びだった。



「うるせぇよ。これで寝てな。」



 オレは"アイアンソード"を使い、再び猛攻を繰り出す。



 その猛攻を前に防ぐ術はなく"牛魔の妃姫"のHPは完全に0になった。

 最後は雄叫びを上げることもなく、静かに散っていった。



「ふー。結構キツかったけど、案外いけるもんだな。」


 これでステータスポイント+300なんて、本当にラッキーである。


「これも全部AGI(素早さ)に振れば、次の階層の敵からの攻撃も完全に回避できそうだな。」


 ステータスポイントを振ろうと、ステータス画面を開くと、そこに加算されているはずの+300ポイントが存在しなかった。


「は?どうなってんだよ。クリアしたら報酬貰えるはずだろ?」



 バグ?いや……最初から偽りのクエストだったのか……と色々考えたが、すぐには思い当たらなかった。

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