怪盗ぺてんは独りで嗤う

だるぉ

怪盗ぺてん


 むかぁしの話だ。

 たかが人間のくせに中々見どころのある奴がいた。それこそ下等な種族にしておくには惜しいような奴だ。もし吾輩が吸血鬼の類だったのならば、眷属にしてやっても良いと思えるほど出来る奴だった。

 

 確か、ホーローと言ったかな。そいつは。

 まあ、ことあるごとに吾輩の命を狙うおっかない奴だったが。


 ともかく、そのホーローという奴は吾輩のことを怪盗ぺてんと呼んだのだ。奴によれば吾輩はモノノという存在らしく、妖怪や怪物、まやかしの類らしぞ。


 ……全く、何を言っているのやら。

 吾輩は吾輩であり、怪盗ぺてんでもモノノ怪はないというのに。

 しかし敵ながらも好敵手であったホーローの顔を立て、それ以来吾輩は自分のことをそのように名乗ることにしている。名前がなくて不便だったのでちょうど良いからな。


 …………。

 おっと、すまないすまない。自分語りが過ぎたようだ。もう吾輩も数十世紀は生き長らえている身であるが故、歳なんだ。人間の界隈でも老人は長話と言うだろ? それと同じようなものだと思ってくれたまえ。


 ゴホン、改めて吾輩は怪盗ぺてん。

 以後お見知りおきを。


 さて、諸君らに自己紹介するとなればこんな具合だ。

 あ? もっと吾輩のことについて教えろだ?


 くくく。身の程をわきたまえよ諸君ども。

 貴様らがホーローほどの人間ならばいざ知れず、有象無象の一つに過ぎない矮小な存在がつけ上がるでない。その残り少ない寿命を吾輩に盗まれたくないのならばな。

 とは言っても吾輩も吸血鬼でもなければ鬼でもない。

 たまには遙か格下に位置する諸君らの声に耳を傾けてやることもあるのだよ。


 だから一つ、教えてやろう。

 吾輩は「盗み」のスペシャリストである、と。


 そう、吾輩の盗むという技術はまさに一級品であり神業。もはや芸術の域に達すると言っても過言ではないそのテクニックは、吾輩と肩を並べることも許さない。

 ホーロー曰く吾輩と似たようなモノノ怪にかく山羊やぎという畜生がおるらしいが、それらと同じ枠組みにはめようとするとは舐められたものだ。


 だから吾輩、ホーローを殺してやったわ。

 厳密に言うと奴の寿命を盗んだだけだがな。


 ああ? 物騒だって?

 馬鹿を言いたまえ。吾輩は至ってジェントルマンであるぞ。

 そんな失礼なことを言うのなら、画面越しにいる諸君らも放っておくわけにはいかないな。


 殺してやろうか。


 ……くくく。

 とは言っても、もう吾輩は諸君らから盗んでいるのだがね。


 なんだ、気づいていないのか。

 これだから人間が救いようがないな。


 ではジェントルマンの吾輩は解説してやろう──ゴホン。

 いったい諸君らはここまで吾輩の話を聞いて何を得たのだ? 無知たる貴様らが吾輩の語りを聞いたところで微塵の理解も及ばないだろうに。

 つまり、ここまで吾輩の相手を馬鹿正直にしてしまった諸君らは、そのただでさえ少ない寿命の貴重な数分を無駄にしたわけだ。


 くくく。

 くくく。


 今ごろ気づいても遅いのだよ。

 諸君らの寿命、しかと盗ませて貰った。


 くくく。

 くくく、くくくく。

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