入道雲

 現代の社会では、自分一人だけの空間というのは家を一歩出ると意外と無いものだ。散歩するにしても、公園にいくにしても大抵、人を見かけることが多いが、最近、昼間は猛暑の為かいつもの散歩コースではほとんど人を見掛けなくなった。きっと、他の人々は朝方か夕方の涼しいうちに散歩しているのだろう。


 そんな暑さが続くある日、自室にて勉強をしていたのだが、気が滅入ってきたので気分転換に散歩へ出かけた。家を出て、田んぼ道を抜けると川に出る。川沿いに道が続いており、散歩の時はこの道をよく通る。この道は浅い谷のようになっており、谷底に川の水が流れ、谷のてっぺんに道が通っている。川の周囲一帯は田んぼが広がっているので、辺りがよく見通せる。


 川沿いを歩いていると、


――サァーーッ


大地を撫でるように風が吹き、田んぼの青々とした緑の海を揺らした。足を止め、風が吹いた方に顔を向ける。空には、馬鹿でかい入道雲が浮かんでいた。


 壮大な空の世界で、帆に風を受けたガレオン船が目の前に押し寄せてくる様な感覚に圧倒されながら空を眺めていた。


 さっきまで滅入っていた気持がすっかり出ていってしまって、とても晴れやかな気分になった。  


――そろそろ勉強の続きでもするか。

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