第16話 決意


 触れる身体が温かい。

 真安の腕に抱かれながら、上月はぼんやりとそんなことを考えていた。

 祭殿に掲げれらた蝋燭の儚い光が2人を照らす。

 真安はいつも来ている袈裟ではなく、黒い野良着のような物を身につけていた。

 一見すると忍びの者のような出で立ちである。

 部屋の隅には雨風を凌いできたのか、やはり黒い布が打ちやられていた。

 普段と違う着物を着ているだけなのに、それだけでまるで印象が違って見える。

 上月の髪を掻き分けていた真安の手が、そのまま頬に伸びる。

 右の手で上月の身体を支え、左の手で頬をなでながら、真安は勢いこんで言った。


「おい、大丈夫か。どっか変なぶつけ方してねぇだろうな?

 ……あの野郎、女になんてことしやがる」


「真安……」


 真安の掌のぬくもりに安堵しながら、上月は男の名を呼んだ。


「真安……」


「どうした、上月?まだどっか痛むか?」


「真安!」


 心配気に己を見つめる真安の胸に、上月はすがりついた。


「こ……上月?!」


 そのまま声を立てて泣き出した上月の様子に、真安は珍しく驚きの声をあげた。真安の予想を裏切る、上月の行動だった。

 怖い思いをしただろう、とは思った。

 悔しい思いをしただろう、とも思った。

 しかし、まさかこんなに身も世もなく泣き出すとは、予想だにしていなかったのである。


「上月……」


 そのまま泣きじゃくる腕の中の女を真安は強く、優しく胸に抱いた。

 胸にあたる女の温もりが、雷雨の中で冷えた身体に染み渡る。

 その温もりの伝播とともに、愛しさが己の内側からこみ上げてくるのを、真安はひしひしと感じた。


(失いたくない……!)


 一際抱く腕に力をこめて、真安は強く思う。

 上月の黒髪がその指に絡まる。


(やはり……、今夜実行するしかない。

 たとえ、上月に憎まれ、蔑まされることになろうとも)


 上月への自分の想いを彼女の温もりと共に実感し、真安はここへ来た目的を遂行することを決意した。

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