第35話 文化祭初日1

クラス展示をハロウィン喫茶に決めてから二ヶ月弱が経ち、ついに文化祭1日目になった。


やる内容を決めたあの日からホームルームなどで時間を取ってちょっとずつ話し合いをして、内装や出すメニュー、それの値段や調理の仕方など、後一番大切なコスプレの衣装はどうするかなどを決めた。


話し合いの時に一番決めるのが大変だったことが、その衣装についでだ。せっかくのハロウィンなので出来るだけ衣装が被らない方が良いよねと言うことになり、みんなそれぞれ着たいものを決める。今回接客に全員出るわけではなく裏で、食べ物の準備をする係とホール係、受付係と分かれているが、裏方の人も非番の時、他のクラスとかを回る際に宣伝になるからと全員着ることとなった。


ちなみに一クラスあたりの予算は10万円。俺たちのクラスはその10万円で飲食物、衣装代、飾り付けなどなど……をやりくりしなければいけないのだが、普通にお店で買ったら衣装を全員分買うだけで消える。それどころか全然足りない。


そう……普通なら。


しかしここは全国でも有数のセレブが集まる学校。クラスに当然のように服を扱う会社の社長令息だったり、飲食物を扱う会社の社長令嬢がいたりする。

ちなみに北条財閥と南雲財閥は大体の産業に参入しているので、涼と北条さんはどちらともに当てはまったりする。

しかしそれだと財閥にばっかり頼ってしまうということで、今回はある有名ブランドを営んでいる人にお願いすることにした。


「うちはファーストファッションを展開しているだけだから、どうしても安い量産品になってしまうのよね。だから有名ブランドに頼んだ方が良いものが来るわよ」


北条さんが俺にそう説明してくれた。その意見に南雲も頷いていた。


後重要なのは提供する品物だろう。

まず、その場で調理するか、冷凍されたものを解凍して出すかで意見が分かれたが、最終的には回転率と安全性、裏のスペースを小さく取れるなどの利点から、冷凍食品を扱うこととなった。


ここでも冷凍食品を扱う会社の子にお願いすることになったのだが、その会社は元来あまり安値のものだけを扱っていたのだが、三つ星レストランを営む家の子が協力して新しく文化祭用の少し高級な品物を開発することになったと言う。


後にそれの冷凍食品会社が文化祭で扱った物を三つ星レストラン監修したものとして世に売り出すと、両方に莫大な利益を生み出したとはまだ誰も予想していなかった。


紆余曲折あって、メニューを食べ物はオムライス、ミートソースのパスタ、グラタンの三つに。飲み物はオレンジジュースと紅茶とコーヒーに決まった。


そんなこんなで昨日までは放課後なのど開いた時間にちょっとずつ、昨日は授業も休みになり丸一日使って、ちょっと暗めのあえてあまりごちゃごちゃさせずにちょっとモダンなカフェに内装を変えたお店が生まれた。


ここでもみんなのコネを使いまくって、壁紙などを貼ったりして、『ほんとにここ教室か?』と思わせるくらいのお店ができた。


そして今日、8時半から一般のお客さんが入場すると言うことで、俺たちは7時半には登校し、最後の確認をし終え、一番重要な着替えを更衣室でしているところだった。


「着替え終わったか?」


しゃがんで黒の革ブーツの紐を結び終えた時、上から聴き慣れた声が降ってきた。

立ち上がって声の主の姿を見る。


そこには上下真っ赤のスーツとその中にオレンジ色のベストと緑色のシャツを着て、顔を白く塗り鼻を赤く、口は大きく避けるような化粧をし、頭には緑色のカツラを付けた涼がいた。

いわゆるホラー映画のジョ○カーのコスプレだ。


「お前早いな……」

「まあね。ほとんどメイクの時間だったな。衣装は色が奇抜なスーツだし」


その奇抜な格好から時間がかかると思っていたのに予想以上に早かったため、思わず出てしまった俺の言葉に対して、肩をすくめながらかえしてくる。


チッ……

なんで顔が白塗りなのにカッコいいんだよ!これだからイケメンは……


さりげなくされた肩をすくむという行動がかっこ良くて思わず悪態をつく。


「結構いい感じだな」


しかし涼のちょっとチャラい性格に合っているためか意外に似合っているため素直に褒める。

すると涼もありがとうと言ってから返してくる。


「修も似合っててかっこいいよ。ヴァンパイヤ」


そう俺が選んだのはヴァンパイヤだった。黒のズボンに白のシャツ、深紅のベストを着てその上に黒に裏地がベストと同じ深紅のマントを羽織っている。そして顔には化粧は少しファンデーションを塗り白くし、髪の毛をオールバックで固める。仕上げに付け牙をし、目に赤色のカラコンを入れている。


「それは根暗だからか?」

「ふふっ、違うよ。寡黙でかっこいいって意味だよ」


イケメンにかっこいいとお世辞のように言われたためちょっと仕返しに冗談を言うと涼は笑って見事に返してきた。


会話がひと段落ついたところで周りを見てみるとゴーストやスケルトン、死神のコスプレなどをしたクラスメートが続々と教室に戻っていく。

そのため俺と涼も置いていかれないように教室に戻る。


「千秋たちは何の衣装にしたんだろうな?」

「うん……無難に魔女とかじゃね?」


他のクラスの奴らが物珍しそうに俺たちのことを見ている中、涼の質問に答える。


そう俺たちは未だに北条さんや千秋さんなどの女子たちが何を選んだか分かっていないのだ。

これはどうせなら当日サプライズにしようと衣装係の人が決めたからである。


二人で意見を出し合っていると教室に戻ってくる。

見たところ女子たちは着替えが長くなりそうだからと結構早めに出たため、既に戻ってきており、受付係の子はメイドの格好をして廊下で作業していた。


二人は何のコスプレかな?


そんなことを考えながら扉を開け、中に入る。


「あ、涼くんと修くん!……どうこれ⁉︎」


中に入った瞬間、俺たちを見つけて駆け寄ってきたのは涼の婚約者兼恋人の千秋さんだった。


「おお!めっちゃかわいいね」


黒と赤ベースとし、金の模様が入ったミニスカートのワンピースを着て、頭に特徴的な帽子とお札を付けた、キョンシーのコスプレをした千秋さんをほめる。


「キョンシーか……千秋さんに似合ってるね」

「でしょー」


普通のキョンシーは死人なので物静かなほうが合っているのかもしれないが、高級感溢れる衣装も相まってか、元気なオーラを前面に出している千秋さんにとても似合っていた。


「ところで北条さんは?」


千秋さんと一緒に更衣室に向かっていたのだが、この場にはおらずどこにいるのか気になったため千秋さんに聞く。


その瞬間、なぜか涼と千秋さんはふふっと微笑み、暖かい目で俺を見る。


「陽葵ちゃんはちょっとトイレに……あっ、ちょうど来たよ」


そう言って千秋さんは扉のほうに指差す。ちょうどみんなが余り話していなくちょっと静かになっていた時であったため千秋さんの声はみんなの耳に入った。そのためみんなも俺たちと一緒に扉の方を向く。


その瞬間、クラス中が、特に男子がはっと息を飲み、固まった。

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