帰りの会 主人公は俺だ!




 ――その光景を見ていた女子小学生・白畑しらはた龍海るみ(12)は後に語る。



 ――はい、わたしは妖祓忍をしています。

 ――妖祓忍というのは、科学では説明できない力に、同じく科学では説明できない力で立ち向かう役目です。

 ――そうですね、妖怪とか悪魔とか、学校の怪談とか、後は超能力を悪用する人からみんなを守るのが、わたしたち白畑しらはた一族の使命です。

 ――ええ、こっちに転校してきたのも、ある学校で怪談が暴走しそうってわかって、それを調べるためだったんです。強い想いを持った地縛霊や守護霊が悪霊になるようなことがあるように、多くの人から恐れられた学校の怪談は、妖怪や怪物になることがあります。

 ――そうです。それがあの学校だったんです。あそこのケースは、悪霊と怪物、どっちもでした。ある事件を元に怪談が生まれて、その事件で死んだ人が悪霊に転じる。二つが合わさって、とても強力なものになっていたんです。だから、悪用しようとする人がいたんだと思います。

 ――そうです。それがあの人です。名前は未希みきねぇから教えてもらえなかったですけれど、顔と名前を知っている人のモノマネをするとその人と同じことができるようになる、っていう黒魔法使いらしいです。実は未希みきねぇの速水はやみ一族が前から追っていた人らしいです。


「「おツトめご苦労様です!」」

「ツトめてない。」

「声かっすかすじゃねえか。」「ゴッツい車椅子だなあ。」

「全身の骨と筋肉がズタズタだと医者から言われた。」

「だろうな。」「一〇八回もジャーマン・スープレックスすれば疲労骨折もするし筋肉も断裂するだろ。てかその酸素ボンベみたいなの何?」

「横隔膜もやられていてな。これがないと酸欠になる。」

「入院しとけや。」「なんでそれで登校してくるんだよ。」

「無遅刻無欠席無早退がかかっているからだ。俺は皆勤賞を取る。なぜなら俺は最強だからだ。主人公だからだ。」

「なんかこいつ主人公にこだわりはじめたな。」「金土日と連休で見ねえうちに悪化したな。お前もしかしてこないだのクスリ残ってんじゃね?」


 ――ええ、それを倒したのが、ルイくんです。あ、違います、ウンチの形したゴムボール持って車椅子押してる二人じゃないです。その車椅子に乗ってる方です。はい。

 ――凄い筋肉痛みたいなので、ああなったらしいです。うん、本当に凄かったんですよ。黒魔法を使ってくる大人を、武道で倒しちゃうなんて。今でも信じられないです。わたしたち一族も、陰陽術に頼らずに武道を主としているんですけど、ルイくんは武道だけなんです。そんな人がいるなんて、まるで魔法みたいですよ。


「あ、転校生だ。おーい転校生ー!」「押すの手伝ってっす。ちょっとこれシャレんなんない重さっすよ。これ押せたら大したもんすよ――て、祭屋まつりやいるじゃん。」


 ――呼ばれちゃいましたね。じゃあ行きましょうか。

 ――でも、ホントビックリですよ、まさか転校したら同じクラスに二人も同業者がいるなんて。

 ――ところで祭屋まつりやくん、聞きたいんですけれど、なんでルイくんに聞かないでわたしに聞いたんですか? たぶん聞いたら答えてくれますよ。わたしたちも何回も口止めしようとしたり忘却術をかけようとしたんですけれど、なんか上手く行かかったですし。それに、あなたとルイくんは友達ですよね。

 ――はい。わたしたちはあなたという超能力者を調べるために転校してきました。さっきあなたは、ルイくんにいつも車椅子を押してもらっていたのに知らないフリをしていたし、この学校にはいくつもおかしいところがあります。そして一番おかしいのは、あの黒魔法使いの人が、えっと、名前なんでしたっけ、あの、読心の魔眼を持つ、えっと、あ、ヨッシーさん、ヨッシーさんの能力を使えたことなんです。ヨッシーさんは、わたしたちと違って事件の解決を積極的にやっている人ではないはずです。それに魔眼は呪文の詠唱や印を結ぶ必要が無いのでとてもわかりにくい。魔眼を持つことまではわかっていても、どんな魔眼かはなかなかわからないはずなんです。なのに、あの黒魔法使いの人は、初めて会ったはずのヨッシーさんの名前も能力もわかっていた。そういう黒魔法を持っていたのかもしれないですけど、そんな魔力の感じはしなかった。でも、もっと簡単な方法があります。知っている人から聞くことです。

 ――ホントに、あなたは関係ないんですか? その足だって、ホントは折れてないんでしょ?

 ――……え、ホントに? え、ホントに? 単純にそういう人? え、足も単純に折れただけ? あ、そこは関係ないんですか。なんか、その、能力の代償とか。

 ――え、たまたま? サッカーのやり過ぎで疲労骨折って、え。なんかもっと重要なストーリー的なものは……だって、わたしたちはあなたを疑ってて、そこに事件が起こったんだからあなたにも事件に関わっててもらわないと、その、なんか、お話的にスッキリしないというか。


「俺は最強だああぁぁぁっ!!」

「「うるさいんじゃい!」」

「ゲッ、ルイ先輩じゃん……」「あの人久々に車椅子乗ってんな……」「また不審者倒したらしいよ。」「今度はテロリスト?」「ううん、夜の学校に忍び込んで違法な薬物バラ撒いてた変態。」「なんだよ格落ちじゃん。」


 ――あの人、なんの魔法も使わないであんな感じなんですか?

 ――だって、妖怪とかを倒せるのって、同じ力を使える人だけじゃないですか。幽霊を銃で倒すとかそういうのありえないのと同じで、筋肉でどうにかできる問題じゃないじゃん。

 ――え、できるの!?


「フフフ……ハーハッハッハッ! オカルトすら筋肉の前には無力! 喧嘩してえ! J! K! 次は喧嘩トーナメントに行くぞ! まずは横浜最強だ!」

「なんだそのトーナメント。」「お前魔法ってものがあると知ってまだ喧嘩すんのかよ。」

「無論! 奴らのオカルト話など、俺の喧嘩で吹き飛ばしてくれる! なぜなら俺は最強の主人公だからだ! フハハハハハッ!」

「アホかこれは俺たち三人が主人公のちょっとエッチなラブコメディだよ。」「今回は俺と転校生の仲が急接近したからな。また俺のハーレムが広がっちまったな。」

「は? 待てやそれじゃお前だけが主人公みたいじゃねえか。」「いやだってお前ら二人目と三人目の主人公だし。」

「笑止! 主人公は俺だ!」



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楽武・メイカー @woshimoto_misui

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