綾の独白

 酷い!酷いったらない。

 誰がこんなメールを送ってくるの?


 「寝取り女」だなんて、あんまりよ。

 寝取ってなんかいやしない。

 私はただ、少し微笑んでみただけ。

 そうね、そういえば同じことが前にもあった。


 高校生の頃、ちょっと気になってた男の子が目の前で財布を落とした。

 だから追いかけて手渡して微笑んだ。

 彼が私との交際を申し込んできたのはその数日後。


 もちろん、受けたわ。

 でも彼には付き合っていた人がいた。

 私はそんなこと知らなかった。

 相手は教室の隅で本を読んでいるようなおとなしい女の子。

 快活な彼には合わないような。


 そのあと、私の靴箱に手紙が入るようになった。

 私のことを呪うような、陰湿な手紙。

 手紙の相手なんて、文字ですぐわかる。

 彼女だった。

 私は彼に伝えて、彼女に手紙を止めさせた。

 それ以降はすれ違うたびに睨むくらいになった。

 私はその時思った。


―取られる方が悪いのよ


 そう、取られる方が悪い。

 私は誘ったわけじゃない。

 あんな程度のことで取られる方が悪いのよ。


 メールの相手は沙耶だろう。

 アドレスを変えてからも届いたから。

 俊君は彼女にも私のアドレスを教えたはず。

 でも、証拠がないからどうしようもないわね。

 かまわないけれど。


 あの合宿から数日。

 今では無言電話もかかってくるようになった。

 決まって非通知。もう無視しているけれど。


 ねえ、素敵な貴女。

 貴女がそんなことするなんて似合わないわ。

 でも悔しいのよね。

 いいのよ。

 私は涼しい顔をして、貴女の行為を無視してあげる。

 貴女がそんなことをしているなんて、俊君には知られたくないでしょう?

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