第四話ー島津成彬

 議場に万雷の拍手でもって迎えられたのは、小柄な初老の男であった。

 今どき珍しくなった紋付袴姿だが、その背中には丸に十字紋が鮮やかに染め抜かれている。

「合衆院、貴族院両院の指名選挙、そして畏れ多くも帝の御名御璽をもって首相に就任した島津成彬でございます。祖先がこの北米大陸に渡って以来、父祖の地であります弓状列島、そして大西洋の雄と戦火を交える紛うことなき国難にあたり首相の大命を果たす事となりました」

「……今我が国は未曽有の国難にあります。まさにいわゆる吉野帝がこの大地に降り立たれたとき以来の国難と言えましょう。

 ですが、我が国は決して屈しません。この米洲の地に王道楽土を築いた先人たちの苦労を無にしてならないのであります。

 無論、敵は強大であります。列島ばかりか、亜細亜諸国を傘下に収めている日本帝国、そして広大な植民地を持つ大英帝国。まさに敵するに値する強国と言えましょう。ですが、かの大楠公の如く、帝の宸襟を安んじ奉るためならば七生報国の覚悟であります」

――万雷の拍手。

「我らは太平洋の小島で、荒波の大西洋で、海岸で、密林で、あるいは都市において戦うでありましょう。ただし、我らが屈することだけは決してない。何故ならば彼らは侵略者であるからであり、我らの戦いは祖国防衛戦争だからです。

 大義名分は世界の民衆にとって明らかであり、また彼らと違って内線の利を存分に生かすことが出来るのであります。日英といえど、各個に撃破すれば恐れるに足らないのであります!」

   ――鵬暦十八年四月八日 米洲皇国議会における島津成彬の演説より抜粋 


                            #100文字の架空戦記

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