第三話―捲土重来

 布哇王国から租借している真珠湾港海軍基地は、一言で言えば壊滅していた。

 日本帝国海軍の空母機動部隊に縦横無尽に暴れ回り、ありとあらゆる軍事施設が破壊されている。

 米皇国海軍の象徴ともいえる戦艦「有祖那ありそな」、「小倉誉こくらほまれ」は主砲だけを恨めしげに海上へ突き出している。他の艦艇も似たようなものだった。

 海上から内陸部へと視線を移してみれば、未だに黒煙を上げているのは重油タンク群であった。太平洋艦隊の活動を一年は支えられる量の重油が、徹底的な爆撃を受けて未だに燃え続けている。

 高温過ぎて通常の手段では消火が難しいため、消火作業もままならない有様だ。

 基地の防空を担っていた飛行場の方角でも、未だ小規模な爆発音が響いている。ほとんどの航空機は飛び立つ前に地上で撃破されてしまったのだった。

 基地司令として防空戦闘を指揮し、負傷しながらも生き残ったダコタ井上少将は消火作業が続いている基地を視察して嘆息した。

 弓状列島から米洲あめりか大陸に渡った武士を祖先に持つ父と、ネイティブアメリカンの母をもつ彼は、実際の年齢以上に年上に見られることが多い。

 今回も、さらに皺が増えたように感じられる顔をしかめている。

「一刻も早く損害報告を纏めてくれ」


#100文字の架空戦記



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