10――豊臣秀親

「誰が入室を許した!」

 耳を聾するほどのだいおんじょうで叫んだのは、煌びやかな金襴緞子の着物を着た贅肉の塊であった。

 この城の天守の中でも最奥に位置するこの部屋にいる男と言えば、それは米洲豊臣家当主にして米洲あめりか公方将軍、豊臣秀親を置いて他にはいない。


 日ノ本豊臣家直系の家柄にして正二位の官位を持ち、実質的なこの米洲あめりかの支配者たる男であった。

 米洲公方としては三代目、生まれながらの公方ではあったが政治に興味を持たず、ただひたすらに各地の美女を集め享楽に耽っているとはもっぱらの噂であった。

 この天守の惨状を見るに、噂はどうも真実であるらしい。

 武尚は悲哀にも似た感情を覚え、目の前で甲冑も付けず戦装束ですらない男を眺める。

 その視線は、秀親に取り不快そのものであるらしかった。

「島津の山猿が。誰か慮外者を斬れ!」

 脂肪で膨れ上がった指で武尚を指さした豊臣秀親は、周囲を見回す。しかし、近習の者は既にいない。

 元より、この天守の一角は秀親自身がごく一部の側近を除いて男子の侵入は禁じられている。

「大勢は決した、潔う腹を召されや」

 武尚は自らの太刀を引き抜き、白刃を向ける。

「山猿如きに我が斬られてたまるか。我は公方なるぞ!」 

 迫る武尚に、秀親は背を向けて逃げ始める。

「武門ん棟梁にあるまじき。恥ぅ知れ」

 白刃一閃。

 次の瞬間、秀親の首は胴から離れていた。


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