【短編】2回目の異世界転生を断り、特別サービスを貰って普通に元の世界に帰ってきた男

夏目くちびる

第1話

 俺は、トラックに轢かれて死んだ。そして、なんか女神的な人にチート能力貰った。転生前に、最後に言われたのは。



「こことは違う世界に行って、魔王的なヤツを倒して欲しいんだけど」



 だった。



 それから一年くらいで、俺は魔王を倒した。正直な話をすると、クッソ強い能力を貰っていたし、なんの苦労もなかった。



 しかし、思い出してみると、あの世界の文明レベルとかかなり意味不明だった。製造業や生活インフラなんかは異常に発達してるのに、食品産業や学術研究は原始時代以下。一体どうやって進化を遂げたのかがよく分からなかったけど、なんか魔法的なやべぇ力があったし、その辺で整合性を取ってたんかな?なんて思う。



 ただ、原住民の頭が悪すぎて、何やっても「すげぇ!」と褒め称えられるのは案外心地よかった。おまけに女はすぐに従者になりたがるし、男はすぐに弟子になりたがるし。

 勇者パーティって大概4人とかくらいだと思ってたけど、ラストバトルの時なんて俺たち1000人くらいいたし。もはや軍隊だろ、あれ。

 しかも、別に全然俺一人で何とかなったし。最後、ウィー・アー・ザ・ワールドのPVみたいな感じで、偉い人も総出で勇者コールの大合唱だったし。思い出しただけでも笑える。



 すげぇよな。たまたま俺が転生したからあんな程度で済んだけど、ヘラクレスとか関羽とか足利義輝みたいな奴が転生してたら、一体どうなってたんだろ。むしろ、そっちの方が知りたい。



 閑話休題。



 そんなワケで、現在。俺は再び女神的な人に呼び出されていた。



「お疲れ。あの世界を救ってもらって、マジで助かったよ」

「いいよ、別に。俺も、かなりいい生活させてもらったし」

「そかそか。ところで、これからのキミの人生、3つの道があるんだよね」

「なんすか?」

「1つは、あの世界に残って英雄として余生を過ごすこと。2つ目は、今の力に更に強い力を加えて、別の世界を救うこと。3つ目は、トラックに轢かれる5分前の元の世界に戻って、普通の高校生として過ごすこと」

「へぇ、じゃあ元の世界に戻してよ」

「私としては、2つ目がいいかと思うな。色々な世界で武功を挙げればそのうち天使になれたりするし」

「いや、元の世界に戻してってば」

「……はぇ?」



 女神的な人は、俺の顔を見て、蛇に睨まれた蛙のように固まった。



「つーかさ、こんなにやべぇ力くれるんだから、それ自分で使って自分で世界直せばよくない?それじゃだめなん?」

「ダメなんだよ、禁則事項ってヤツ」

「へぇ。まぁ、何にしても俺は元の世界に戻りたいよ。旅行とかでさ、確かにその期間は楽しいけど、大抵は住みたいとか思うことってないじゃん?」

「あ〜、わかる〜」

「それと同じで、俺もやっぱ日本住みたいんだよね。ネットとかないし、つーか和食が食いたいし。あと、ベルセルクの続きとか読みたいしさ」

「三浦建太郎は、亡くなったよ」

「ウッソだろ?じゃあ、俺が異世界転生するから、代わりにあの人生き返らせてくれよ。それくらいできるだろ?」

「出来たらやってるよ」

「信じらんねぇ。なんで、ああいう天才から死んでいくかなぁ……」



 かなり凹むし、凄い畜生発言をされた気がするけど、でもいつまでもそれを引きずるワケにはいかない。冥福を祈って、俺は前に進まなければ。



「なら、元の世界戻るよ。ベルセルク読めなくても、やっぱ勉強とかしたいし。あと、親とか友達とか、悲しまなくて済むじゃん」

「……そっか。まぁ、ならいいよ。その代わり、今持ってる魔法を一つだけ使えるようにしてあげる。女神ちゃんの特別サービス」

「マジでか。じゃあ、なんかすげぇ変なの持って帰りたいなぁ。笑えるヤツ、なんかあったっけ」



 言って、俺はステータスウィンドウを開き、自分が覚えている魔法を眺めた。



「即死魔法と回復魔法しかねぇじゃん。つまんね〜」

「殺したい放題だし、それでいいんじゃん?」

「そうする奴は、元の世界戻らないでしょ。女神ちゃん、もしかしてバカなん?」



 訊くと、彼女は顔を真っ赤にしてプンスカし始めた。



「ば、バカじゃないよっ!というか、キミたちの人類とか作ったの、私だから!遺伝子を取捨選択してますから!天才ですから!」

「じゃあやっぱバカじゃん。人間なんて、欠陥だらけだし。マクロでも組んでんの?バグだらけだよ」

「う……」

「つーかさ、産まれガチャで人生の大筋か決まるのに、リセマラできない仕様なんとかならんの?紛争地域とかで産まれた奴とか、ハードモード過ぎるでしょ。みんな、ハートフルモードでやらせてあげなよ」

「し、仕方ないじゃん。時間の流れのスピード早くし過ぎたせいで、アプデしようとすると勝手に別のバグとか出来てんだもん。パッチあててる暇がないの!」



 逆ギレかよ。



「それにさ、生まれのステ振りくらい自分でやらせてくんない?今どき、オープンワールドで主人公決めらんないとかないでしょ。もしそうするなら、ロックスターみたいにストーリーちゃんと練ってきなよ。映画1000本くらい見てさ。どうして何度も再生と破滅のシナリオ繰り返すわけ?戦争ばっかじゃん、うちの世界」

「こ、ごめん……」

「あと、この世界に来てわかったけど、ステータスウィンドゥを表示する機能、あの世界にもつければ?職業適性とかわかったら、今よりみんな幸せになるでしょ」

「あの世界の人間はスペック低いから、それは無理だよ」



 スペック低いって、作った自分で言うかね。



「育成も生涯年収レベルのめちゃくちゃな課金しないと無理だし、つーか容姿のステータスが異常に重要なのに、俺含めてほとんどの人間がブス寄りってどうなってんの?普通、その辺は調整するよね?」

「それって相対的なモノだし、美形が増えてもその中で格差生まれるし……。あ、あと、一応整形で変えられるから……」

「出た、また課金かよ。なんでも課金させようとするの、ホントつまんないから。まぁ、ある程度仕方ないけどさ。ペイトゥ・ウィンはマジでユーザー減らすよ?どうすんの?みんな自殺しちゃったら。つーか、中央値に近ければいいから。相対的な話とかしてないから」



 実際、見た目のコンプレックスが小さければ変に美形信仰とかしなくて済むだろ。違うのかな。



「スイマセン。参考にしますデス。ハイ」

「それと、才能とかいうスキル一発で解決させるの、打ち切り漫画の最終話みたいで納得いかないんだよね。全編それなのもホントつまらんし。あれ、どうにかならない?つーか、女神ちゃんは見てて面白いの?」

「お、面白くないです。ぐす……」

「なら、基本スペックをフジーショータとか、ムロブチコージみたいにしてよ」

「いや、あの人たちは特異点みたいなモノだから無理だよ……」

「しょーもな。あ、今思ったら、それなのに俺にあんなチート能力くれるのって、全然整合性が取れてないよね?なんで?」



 あれ、普通に何人かに分けて転生させた方が効率いいしな。



「ごめんなさい、最強だと喜ぶと思って調子乗りました……」

「勝手に殺されて勝手に転生させられてんのに、その時点で普通に喜ばないよね?ちゃんと許可とってくんない?」



 いつの間にか、女神ちゃんは下を向いていた。



「まぁ、グラだけは綺麗だけどさ。ただ、あそこまで美麗にしなくても、フレームレート落としてもっと他を作り込んでもよかったと思うよ?」

「だから、ぐす……。べ、別の世界では経験活かして、ぐす、試行錯誤を……」

「その結果、俺を転生させて直してんでしょ?なんも成長してないじゃん。バーカ」

「ひっぐ……。なんでそんな酷いこと言うのよぉ……。もう、早く帰ってよぉ……」

「俺は、アクアリウムのタニシじゃないんだよ?勝手に世界浄化すると思ったから、また別の世界に飛ばそうとしたんだろうけどさ。あんまナメたことしないでね?」

「うぅぅ……。あやまっでるのに〜、どおじでゆるじでぐれないのぉ……」



 泣いてしまった。まぁ、たった16年生きてきただけでこんだけ不具合に気がつくんだから、4.50年生きてる奴はそりゃ不満タラタラだし、自殺するわな。しかも、女神ちゃんのこと知らんワケだし。



 そいつらの事、俺にはカンケーないけど。



「まぁいいや。とにかくさ、あの世界で少しでも面白くなりそうなの一緒に選んでよ」

「うぅ……。だって、私バカだし。ぐす。変なこと言ったら、またイジメられるもん」

「イジメないから。あれだけ言ったけど、それでも俺は帰りたいと思ってるしさ。……あれ、なんか思い返してみるとすげぇよくできた世界だった気がするなぁ」



 それは、マジで思ってる。



「ほ、ホント?」

「ほんとほんと。いや、飯とかすげぇうまいしさ。つーか、あの世界に出てくるコンテンツとかミニゲームがマジで面白いしさ。例えば本とかさ、普通なら適当なテクスチャ貼り付けて終わりじゃん?でも、中身まで作り込んでるし、一冊一内容が違うのがマジでヤバい。しかもクッソおもろい。メインシナリオ進めないでずっとあれだけにハマるヤツとか、何億人もいるじゃん」

「うん……」

「俺もハマってるし。あれは、ここ2000年の中でホントに最強のアプデだと確信してる。女神ちゃんのおかげ」

「……まぁ、その辺の人間は、私もかなり気合い入れて作りましたから?」



 あ、食いついてきた。



 全員そうしろよ。という言葉を飲み飲んで、更に褒めてみる。



「やっぱり?さすが女神ちゃん。俺みたいな凡人とは一味違うなぁ」

「え、えへへ。もっと褒めて?」

「すごいすごい。最高。マジで天才!なんか眩しい!ヤバい!光り過ぎててもはや見えねぇ!」

「も、もっと……」

「そもそも、天才のクリエイターを作った女神ちゃんが天才じゃないワケがない!俺が間違ってたわ!あぁ、早く帰りたい!女神ちゃんが作ってくれたあの世界に、俺は早く帰りたいわ!帰りたすぎて意味分かんないわ!」

「……ま、まぁ?知ってたけどね?やっぱり、私は間違ってなんてなかったの!あっはは!」



 バカだなぁ。



「仕方ないなぁ。じゃあ、私が一緒に持って変える魔法を選んであげる。どれにしよっかな〜」



 そう言って、ルンルンで俺のウィンドゥを覗き込んで、まるで服を選ぶかのようにあれこれと楽しそうに話を始めた。



 それを見ていて、なんとなく思ったことがある。



「……その、一ついいかな?」

「なぁに?女神にお任せだよ!」

「荷物とかでもいいわけ?今、俺が亜空間にしまってある道具とか」

「まぁ、別にいいけど。基本的には、今ここにあるモノならなんでもいいし。でも、使ったらすぐなくなっちゃうよ?」

「そっか」



 言って、俺は彼女に肩を寄せた。



「じゃあ、女神ちゃんを持って帰りたい」

「……あが」



 瞬間、足元に魔法陣が現れて、何やら体が透け始めた。これ、俺が救った世界に転生した時と同じエフェクトじゃん。



「ちょっ!なんでそうなるのよ!というか、誰が私が作った世界を運営するわけ!?」

「まぁ、神様なんて800万人もいるし、女神ちゃんがいなくなっても大丈夫でしょ」

「大丈夫じゃないよ!というか、それってあんたたちが勝手に考えた話でしょうが!バカぁ!」



 しかし、体はどんどん消えていって、遂には半分、俺がトラックに轢かれた交差点が見えてきた。



「あ、よく考えたら、この転生っつーか転移っつーか。それをやってるヤツがいるんだから、大丈夫じゃん」

「いや、これ自動プログラムだから!大丈夫じゃないから!」

「でもさ、女神ちゃんだって、もっとデカイ存在に作られてるかもしれないよ?その先のその先も、ずっとあるかもしれない」

「ホントに!?ホントにあるの!?私の作った世界管理してくれるの!?大丈夫なの!?キミのハナシ信じていいの!?」

「知らね」

「あわわわわわわわわ!!!」



 ヨッシーか、お前は。



 そんなワケで、思わず閉じてしまった目を再び開けると、俺は女神ちゃんと一緒に、元の世界に戻ってきていた。



「ど、どうしてこんなことに……」

「まぁ、これで内側からデバッグとか出来るじゃん。よかったね」

「よくないよっ!というか、私の創造能力が使えるかどうかもわかんない!」

「じゃあ、使ってみなよ」

「……あ!使えた!」



 言って、そこにあった建物の形を変えたが、周囲の人は誰もそれをおかしく思っていない。きっと、全世界の人間が『元からそうあった』と記憶を改竄されたのだろう。



「マジかよ、つーか電脳ハックじゃん。すげぇ」

「えへへ」



 そう笑って、女神ちゃんは頭をかいた。



「ところで、女神ちゃんって名前あんの?」

「ないよ。だって、女神だし」

「じゃあ、素子もとこにしよう。かっこいいだろ?」

「かっこいいけど、なんでだろ。その名前めっちゃくちゃ重い……」



 そんなワケで、俺たちは通り過ぎるトラックを見届けてから、一年ぶりに自分の家に向かったのだった。



 帰ったら、とりあえず攻殻機動隊を見よう。



 × × ×



「私は情報の並列化の果てに、個を取り戻すためのひとつの可能性を見つけたわ」



 そう言って、素子は冷凍庫に入っているアイスを2つ取って、それを俺に見せた。



「笑い男の名シーンだな。ちなみに、その答えは?」

「チョコミントよ」



 そして、素子はカップアイスの蓋をペリペリと捲った。俺は、余った方のバニラ味だ。



 女神ちゃん、もとい素子は、世界の記憶を改竄して俺の義理の妹になる事になった。どうして初婚の両親に義理の娘が出来たのかは誰にもわからないが、とりあえずそれで全世界が納得している。



「それにしても、どうして義理なんだよ」

「ドキドキするから」



 ……まぁ、いっか。俺も、なんか好きになったから連れて帰ってきたわけだし。やっぱ、対等か俺が下の関係くらいがちょうどいいよ。慕われすぎると疲れるし、何より好きに発言も出来ない。



 それに、世界救ってんだからこんくらいは許されるだろ。



「あ、やっぱバニラも食べたーい」

「個を取り戻す可能性はどうした」

「別にいいじゃん」



 ……ところで、素子と一緒に暮らしていて、分かったことがある。



「おいひ〜!」



 それは、こいつが本格的にバカ、という事だ。



 少なくとも138億年くらいは生きてるはずなんだけど、どうしてこんな奴が神様なのかも分からないってレベルでバカだ。そもそも、自分で作った内容とかほとんど覚えてないし。少しでもこの世界や歴史の話とか聞こうと思ったら。



「宇宙の果てって、どうなってんの?

「なんだっけ、忘れちゃった」

「アダムとイヴってホントにいたの?」

「あ、面白そうなドラマやってるよ〜」

「……これまでの人類史で一番の天才って誰さ」

「うーん、やっぱ私かな?」



 な?答えになってないだろ?こいつは人類じゃないし。



 あまりにも、不自然だ。だから、ひょっとして人間らしさを演出する為に、計算してやってるのか?と思っていたのだが。



「ぱっぱーらっぱ。てんからぴりぴり。わたしはすーぱーもとこちゃん」



 それはないと、今この瞬間に理解した。



「なに変な歌うたってんだよ」

「最近、音楽業界が熱いから、もっとテコ入れしようと思って。どうせなら、私がマイケルジャクソンを超えるゴッド・オブ・ポップになろうと思って」

「いや、お前はゴッデスだろ」

「えへへ。ぱっぱらっぱ。ツクツクツクツク……」



 まぁ、素子がどれだけ訳の分からない歌を作っても、素子が世界で一番すげぇと思えばそれは世界最強の曲になるし。俺は昔の曲ばっかり聞いてるから、勝手にしやがれって思った。



 おめでとう。お前のお蔭で、地球の音楽はお終いだよ。



「あとは、映画も作っちゃおうかな~」

「やめろィ!!」

「ひぃ!な、なんでいきなり怒鳴るの?」

「お前の作ったモンが評価されたら、それが正しい世界になるだろうが!頼むからそこだけはいじらないでくれ!作ったとしても、創造能力は使うな!」

「い、いいじゃん。だって、いっぱい褒めてもらいたいし……」

「ゼッテーダメだ。その一線超えたら、何としてでも素子の上位存在的な奴に言いつけるからな」



 いるか知らんけど。



「や、やめてよぉ……。ちょっと言ってみたダケじゃないデスカ……。ぐす……」



 前言撤回だ。こいつは、俺がこの世界に戻ってきた理由を消す破壊神になりうる。何とかして、行動を管理しておかないと。



「ところで、明日から学校だけど。素子って、ちゃんと勉強できんの?」



 もちろん、転校については全世界が納得している。



「失礼だよっ!私、この世界のすべての理論と定理のママですからっ!ママだよっ!」

「じゃあ、なんで実際にはない数とか作るの?実際にある数字で整合性取れるようにすればよくない?」

「あれれ〜?ホントはあるけどな〜。人類さん、まだ見つけてなかったんだ〜。ぷぷ、ちょっとしたパズルのつもりだったんだけどな〜?人類さんにはちょーっと難しすぎたかな〜?」

「素子は解けんの?」

「……さて、制服の確認でもしよっと」



 自分で連れてきておいてなんだけど、大丈夫だろうか。



 いや、マジで好きだけどね?



 × × ×



「ということで、実は佐藤さとうの義理で双子の妹だった佐藤素子が転校してきたぞ〜。佐藤妹、挨拶しとけ〜」

「みんなおはよう!佐藤素子、職業は女神です!」

「はぇ〜、女神ってマジでいたんだ〜。趣味はなんですか?」

「天地創造!困ったことがあったら、歴史ごと改ざんしてあげるから言ってね!」

「すげ〜。つーか、佐藤に似てね〜」



 そんなこんなで素子の自己紹介が終わった。というか、双子の妹で義理ってもう意味がわからん。みんながこれを常識としてしか捉えられないのもシュールすぎて笑えてくるし、この世界がこのバカの趣味で作られたという衝撃の事実に、もはや感動すら覚えた。



「なぁ、とおる。お前の妹、かわいいな。なんで隠してたんだよ」



 一年ぶりに会って最初に言うことがそれか?とは思ったが、この世界では5分しか流れてないんだった。因みに、亨とは俺の事。



「悪い悪い。まぁ、かわいいよな」

「否定しないんか。けど、どうして今になってこの学校に?」

「知らね。俺の事好きすぎて転校したんじゃないの?」

「うわ、お前キモイなぁ」



 そして、こいつはミシェル島崎。フランスと日本のハーフで、俺の友達。多分、俺がいなくなって一番悲しむのはこいつだ。俺も、ミシェルがいなくなったら多分泣く。



「後で紹介するよ」

「苦しゅうねぇ」



 というワケで、その日はクラスの連中に素子を紹介することになった。義理で双子って設定は、誰にも疑われなかった。



「天地創造って、どんなことができんの?」

「何でもできるよっ!でも、普通の人は新しく創造したモノを常識として認識するから、あなたたちには理解できないんだ!」



 なんか、ナチュラルに見下した言い方するなぁ。



「そっかぁ、残念だなぁ」

「俺、ガッキーが結婚したのなかったコトにして欲しかったわ〜」

「じゃあ、ニノの結婚もなかったコトにして欲しい」

「アヤナンとナナナ様。いや、俺をどっちかの子供にしてくれ」



 こいつら、芸能人に恋しすぎだろ。つーか、ガッキー以外は大分前だろ。しかも、なんかすっげえキモい発言聞こえてきたし。



「別にいいよ、はい〜」



 こいつ、人の恋愛をなんだと思ってんだよ。



「素子、戻せ」

「えぇ?だって、みんながやって欲しいって」

「バカバカ、本人たちは幸せだろうが」

「でもさぁ、ガッキーはさておき、アイドルが結婚するのって私もどうかと思うよ。だって、そういう色恋をネタにお金使わせてるんだし、ちょっとヒドイと思うな」

「あいつら全員30過ぎてるんだからさ、好きにさせてやれよ」



 そもそも、ニノ以外アイドルではない。



「じゃあ、なんで私は地球人75億人全員が知ってる存在で139億歳なのに、結婚できないの?気にしないようにしてたのにぃ……」



 なんか、いきなりメンヘラみたいなことを言い始めた。



「いや、泣くなよ。つーか、いつの間に時間止めたんだよ」

「なんでそんなひどいこというのよぉおぉぉ……、ひぐっ……」



 こんな神ばっかりだから、神話に出てくる奴はチャラ男とヤンデレ女ばっかりなんだろうな。ちょっとだけ、この世界の真理が分かったわ。そして、書いたヤツが本当に神様を見た説も証明されてる。



「とりあえず、戻せ」

「うぅ~」



 そんなわけで、止まった時間の狭間から帰還した俺たちは、素子の「なんでもできるよっ!」まで巻き戻って、不文律を全てなかったことにした。



 ……そんなこんなで、なんやかんや時間は過ぎていき、いつの間にか一ヶ月くらいが経っていた。



 素子の世界改竄が、俺が思っていたよりもスケールのデカいモノだったのには、正直度肝を抜かれた。



 まずはじめに、この世界でもっとも苛烈な戦いである、『きのこたけのこ戦争』を、圧倒的なたけのこの勝利で終わらせた。こいつ正気か?と思った。

 次に、世界でもっとも苛烈な戦いである、『こし餡つぶ餡戦争』においても、つぶ餡の勝利を決定づけた。まぁ、ここには特に異論はない。よくやったって感じ。

 おまけに、これまた世界でもっとも苛烈な戦いである、「赤いきつね緑のたぬき戦争』をも、きつねの勝利を持って終結させた。因みに、俺は紺のそばがお気に入りなので、この戦争には参加していない。



 とにかく、素子はこの現代社会に根付くあらゆる戦争を、イッサイ公平性のない完全なる独断と偏見で終わらせまくった。国会は荒れて、スーパーの品揃は変化し、スレ民は沸き立った。しかし、渋谷のギャル100人に聞いたランキングは特に変化がなかった。



 あった方が幸せな戦争もあるって事、教えておけばよかったな。



「次は、どの戦争を終わらせようかな〜」



 言いながら、まとめサイトを巡回して真っ二つに意見が割れている戦争を眺める素子。果たして、本当にこいつの能力のスケールで終わらせなきゃいけないコトなのだろうか。もう、俺にはよくわからない。



「それじゃ、次は最強のクンフーはブルース・リーかジャッキー・チェンかを……」

「それはよくない」



 言って、俺は素子の手を掴んだ。



「きゅ、急に何するの?私、この戦争をジャッキーの勝利で終わらせようと思ってるんだけど」



 俺は、その問いに黙って横に首を振った。



「もう、こんな事はやめよう。リーもジャッキーも、どっちも素晴らしい。それでいいじゃないか」

「でもさぁ、ブロジェクトAが一番面白いし……」

「素子?」



 頭を撫でながら、俺は目一杯に微笑んだ。



「ふわぁ……。な、なんでしゅか……」

「例えばさ、お父さんとお母さん、どっちが好きかって聞かれても、答えられないだろ?」

「い、いや。私、無から産まれてるし。親とかいないし。てか、気持ちいかも。えへへ」



 あぁ、そういう感じか。そういえば、こいつが天地創造の神ってこと、完全に忘れてたわ。バカ過ぎて。



「とにかくだな、その戦いに答えはいらないんだよ」

「ふぅん。まぁ、怒りの鉄拳も同じくらい面白いし、別にいっか」



 燃えよドラゴンじゃないのか。こいつ、なにげに渋いな。



「というか、ふと思い出したんだけど、140億歳なのに彼氏できたことないの?」

「139億だよ!逆サバ読まないで!」

「別に、1億くらい誤差みたいなモンだろ」

「なによ!人類なんて700万年しか生きてないでしょ!じゃあ亨は0歳にするから!そんなの嫌でしょ!?」

「いいよ別に。というか、壮大過ぎてピンと来ない」

「ニブチン!女の年齢弄るんじゃな~いっ!!」



 神様なのに、性別とかあったんだ。てっきり、見た目がそれっぽいだけで、概念的なモノは超越してると思ってた。



「でもさ、140億歳って、流石に適齢期過ぎてない?」

「残念でした~。人間の感覚では測れませ~ん。てか、139億だってば!!正確には1394728……」



 じゃあ気にすんなよ。しかも、お前もサバ読んでるじゃん。



「ところで、素子って歳の差とか気にするの?」

「年上がいいっ!」



 終わった。フツーにフラれた。俺が異世界救った報酬、なし!w



「そうすか。じゃあいいや」

「なんでいきなりそんなコト訊くの?」



 なんだこいつ。いつもはそういうノリじゃねえだろ。



「いや、何でもないです」

「怪しい。教えてよ」

「マジでただの世間話だから」

「でも、亨がそういう顔するの、あんま見たくない。というか、いつもならここでイジメてくるじゃん」



 あのさぁ、いきなり優しくするのやめてくれない?俺、あんだけ女の従者が居たのに未だに童貞だからね?というか、それ知ってるよね?



「ほら、教えてごらん?あ、頭撫でてあげる。ヨチヨチ、お姉さんが聞いてあげるよ?」



 お姉さんとか、そういう次元じゃないだろ。139億年って。



「マジで気にすん……、ちょ……。いや、マジで。ほん……」

「うりうり。ねぇ、気持ちい?」

「やめっ、ホント。あ、お前また時間止めたな!?しかも、俺まで動けねぇじゃんか!」

「私、神ぞよ?」

「痛い!痛い痛い!ヤバいから!地球がヤバいから!マジで地球がやべぇ!」

「亨は痛くないし、地球はヤバくないよ?仮にヤバくても、私が何とかするよ?だから教えて?」



 マズイ。このままだと、負けると分かっているのに告白させられる。しかも、それを未来永劫イジられる事になる。そんなことになったら、俺はもう生きていけない。



 考えろ。この危機的な状況を打開する何かを。神に抗う方法を!



「そ!そう言えば!素子の好きなダーティハリーを借りて来たんだ!アマプラで配ってないからな!一緒に見よう!」

「天界で4万回見たからいいよ」



 ちくしょう!!



「そう言えば、冷蔵庫にアイス入ってる!しかもハーゲンダッツのチョコミントだ!かなりレアだろ!?こっそり買っておいたんだよ!!」

「二個とも食べちゃった」



 コ、コノヤロウ……ッ!しれっと俺の分まで食いやがってェ!!



「あ!明日テストだ!素子の苦手な歴史だぞ!教えてやるよ!」

「いいよ、点数改ざんするし」



 終わった!無理だ!



「ねぇ、教えてよ。どうして、そんなに悲しそうな顔をするの?」



 ……頼む。もう諦めたから、せめて茶化した態度をとってくれ。その真剣な顔でフラれたら、俺は立ち直れない。



「ね~え!」

「……俺が、どうしてお前をこの世界に連れて来たか、分かるか?」

「分かんない、嫌がらせ?」



 あぁ、完全に脈無しじゃん。



「ち、違くてだな。それは……」



 しかし、出会って一ヶ月って告白するタイミングとして最悪なんじゃないか?よく言う、『恋愛における一番楽しい時期』とかも別に経験してないし。なんなら、俺はコイツがバカであることしか知らない。絶対に、お互いを知る時間が必要なハズだ。



 あと、フラレたくない。



「……?」



 いや、違う。どうして俺は、相手を納得させようとしているんだ?俺の目的はこの窮地を脱出することであって、自然に終わらせることじゃない。言葉で解決しなきゃいけないなんて、そんな必要はまったくないんだ!



 ならば!



「キェェェェエェエェエエエィ!!」

「な、なんだぁ!?」



 きた!動くぞ!



「クェッ!クェッ!クェッ!コココココケケケケケ!!」

「なん……、亨!?どうしたの!?」

「別に、どうもしませんけど?」

「うわぁ!?急に素に戻るな!」



 そして、俺はウェストサイドストーリーに出てくる、あの『手を広げて、足をめっちゃ横に伸ばすポーズ』をブチかまして、奇声を上げながらトイレに駆け込んだ。



「お、お母さん!亨がおかしくなった!!」



 まぁ、今回の勝負は引き分け、といったところだろう。



 × × ×



「なぁ、ミシェル」

「なんだね?」

「俺が異世界転生してきたっていったら、信じるか?」

「大して珍しくもねぇだろ。何に転生したん?スライム?ゴブリン?」

「いや、人だけど」

「つまんね。それに、今の流行りは転生じゃなくて追放ざまぁだから」



 普段の行いのせいか、全然信じてもらえなかった。まぁ、普段の行いがいいからって信じられるモノでもない気はするけど。



「ところで、最近隣のクラスのイケメンが素子ちゃんのこと口説いてたぞ」

「よし、殺そう」

「毛沢東か、お前は。つーか、妹好きすぎだろ」

「その話はするなーィ!」



 傷は、癒えていなかった。あの行動の代償はデカく、父さんと母さんにフツーにチクられた俺は、病院に行くことをオススメされてしまった。つーか、素子の方が俺より両親と仲いいんだけど。なんで?



「でも、お前のグーグルの検索履歴、『義理の妹 結婚 方法』じゃん」

「何で知ってんだよ!!」

「えっ?適当に言ったんだけど、マジでそうなん?ヤバすぎ」

「ほう、まだ言うか。いいのか?あまり俺を怒らせるなよ?」

「怒らせると、どうなるんだ?」

「俺の友達でいることを、恥ずかしさで後悔するハメになる」

「熱いカミカゼスピリッツに涙が止まんねぇ……」



 しかし、あれだな。元の世界に帰ってきてから半年くらい経ったけど、なんか普通だな。世界の形は大した変化もないし、やっぱり別の神様がいたんじゃないかって思うわ。



「まぁ、さっきの話に戻るけど。お前、マジで異世界転生してきたの?」

「ん?あぁ、してきたよ。信じるのか?」

「亨って、嘘は絶対につかないからな。ひょっとして、素子ってその異世界から連れてきたん?」



 やっぱ、俺の友達だ。頭おかしいもん。



「いや、あいつは俺を転生させた張本人。帰ってくる時に好きなもん持って帰っていいって言われたから、連れて帰ってきた」

「だから女神なんだ。納得したわ」

「……なんか、マジで納得してるように見えるんだけど」

「いや、マジに納得しとるし」



 なんで?



「俺もさ、別の世界からきた転生者なんだよね」

「……マジ?」

「マジマジ。神様的な人に転生させられたんだ」

「へぇ、いつから?」

「この学校に入学した時だから、一年半くらいかなぁ。居心地が良くて、お前に言われるまですっかり忘れてたよ」



 飯もうまいし、と。ミシェルは付け足した。つーか、もうめちゃくちゃじゃん。



「どうりで、スペック高すぎると思ったよ。完全に上位存在じゃん」



 言い忘れてたけど、ミシェルはあらゆる分野で世界レベルの実力を持ってる。俺しか知らないらしいけど。



「お前が本気出したら、普通にこの世界滅ぶん?」

「滅ぶね」

「やべぇじゃん。つーか、この世界の魔王って誰なん?」

「いない。俺の場合、スローライフ希望だったから」

「そうなんか。やっぱ、ミシェルは元の世界だと陰キャのおちこぼれだったん?」

「まぁね。俺にできることで出来ない事なんて、あの世界の誰にもなかったレベル」

「そりゃ、辛いな」

「だから、なんで亨みたいなヤツか異世界転生させられたのかマジでわからんのよね。お前、キモイけど責任感とか意外とあるし」

「素子がミスったんだろ。あいつ、バカだから」

「なるほど」



 納得してくれたようだ。



「でもさ、だったらハーレム作ってイキり散らせばよくない?」

「分かるだろ?あれ、最初は楽しいけどすぐにやる事なくなって飽きるんだよ」



 分かりすぎる。



「とにかく、そんな感じ。別のヤツには黙っといてくれ」

「仮に言っても、誰も信じねぇよ。さすがに、現代の人類はそこまでバカじゃないし」

「いや、バカだよ。アインシュタインとか、あのレベルで歴史最強なんでしょ?」

「……もしかして、俺もあの世界でそんな感じだったんか」



 罪悪感あるなぁ……。



「え?俺、今なんかやっちゃった?」

「心の底からイラついたから、二度とそういうこと言わねぇ方がいいぞ」

「き、気を付ける。いや、マジで悪気はなかったんだ」



 そんなワケで、俺の友達が異世界からやってきたチート転生者である事を知った。まぁ、いてもおかしくねぇけど、いくらなんでも近くにい過ぎだろ。



 ……あれ。もしかして、だから俺が異世界に連れて行かれたのか?



 × × ×



「あ~、多分そうだね。ミシェルの力がヤバすぎて近くで因果律がねじ曲がったせいで、影響を強く受けてる親友の亨が選ばれちゃったんだと思う」



 帰ってから問い詰めると、思ったよりもあっさりと自白した。というか、自分でも気がついていなかった。



「思うって、そのへんをきっちり管理するのがお前だろうが」

「システムに任せちゃってたから、今の今まで気づかなかったんデス。……ご、ごめん。でも、許して?てか、イジメないでね?」

「いいよ」

「やったぁ!」



 すまんな、ええんやで。の精神はマジで大切。まぁ、そもそも俺別に怒ってないしな。



「ただ、お前の唯一のアイデンティティである神様って生まれも、全然オンリーワンじゃないのが証明されちまったな。むしろ、作った世界をスローライフの転生先にされるって、かなり落ちこぼれなんじゃねえの?」

「ぐすん、それは言わないでよぉ。イジメないって言ったのにぃ……」



 哀れな女だ。



「しかし、あれだな。多分、ミシェルみたいなヤツって何人かいるんだろうな。お前が認識できてないだけで」

「まぁ、そういう可能性もありけりって感じ」

「もうガバガバじゃん。よかったな、お前は確かに落ちこぼれだけど、他の世界に比べればよっぽど平和な世界を作ったみたいだ」

「えへへ。もっと褒めて?」



 皮肉のつもりだったんだけど。まぁ、いいか。



「とにかく、これ以上悪くならないようにだけ、しっかり管理してくれ」

「じゃあ、最初になにをすればいい?」

「そうだな。とりあえず、このコロナとかいう流行病を終わらせてくれ」

「いいよっ!はい!」



 言われ、窓の外を見ると、マスクを外して井戸端会議をする主婦たちの姿が見えた。どうやら、ホントになかったコトにしたようだ。



「これで、少しは世界もまともになっただろ」

「けどさぁ、亨はどうせ引きこもって映画とか本とか見てるんだから、関係なくない?」

「バカ、関係大ありだよ」

「……?」



 そして、パソコンの電源を入れて、ドライブにさっき届いたディスクをセットした。



「外に自由に出られるようになれば、どこかの映画監督が面白い作品を作れるだろ」

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【短編】2回目の異世界転生を断り、特別サービスを貰って普通に元の世界に帰ってきた男 夏目くちびる @kuchiviru

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