第9話

「あらわれたな冒険者どもよ」


オレは今までに何度も言ったことのある定番のセリフを冒険者たちに吐いた。


すると4人組の冒険者一行、その先頭に立つ男が指でさしながらオレに返した。

どうやらコイツがこのパーティの勇者らしい。


「キサマがこのダンジョンの中ボスだな!」


「あぁ…そうだ」


本当なら『よくぞここまで来たものだ』と続けたいところだが、あまりそういうことを言うとボスとセリフが被ってしまい『オレの言うことがなくなくだろうが』と後でボスに怒られるので気を配って自粛する。


こいつはやはりザコモンスターとは一味違うぞというところを冒険者たちに見せつけつつ。

あまりにも大物ぶるとその奥で待ち受けるボスと差が無くなってしまうので、中ボスという枠をこえないような範囲の中で大物ぶる。

これも中ボスのツラいところだ…。


そんなオレの気苦労など知る由もない冒険者どもは、どんどんと中ボスの間の中まで入ってきて、オレに近づいてくる。


そしてオレまで2、3メートルぐらいの距離のところで止まり、各々武器を構えている。


奴らが入ってきて入口をチラリと見ると、奴らにやられたザコモンスターたちがボロボロになりながらこちらの様子を伺っているのが見えた。


これがいわゆる『後は頼みますバチュリアスさま』だ。


冒険者に倒されるイコールかならずしも死というわけでは無い。


もちろん、こっぴどくやられれば再起不能なぐらいのダメージを負い、復帰は不可能、モンスター廃業になる可能性もある。


しかし、やられ具合によって、全治一週間だったり、全治何ヵ月だったりするがだいたいの場合は怪我で済む。


つまり今しがた冒険者にやられたザコモンスターたちが、やられた体を引きずりながらも、中ボスの間をこっそりと覗きに来るなんてことも珍しくないのだ。


無論、そんな冒険者たちに一度やられたザコモンスターたちが中ボスの間のなかにまで入ってきて中ボスに加勢することはご法度だ。



それは、魔王軍のモンスターとしての美学に反する浅ましい行為でありマナー違反なのだ。



我ら魔王軍は、『悪』であっても、決して下衆などでは無いのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る