3話「アリバイ」

「お聞きになった通り、ナウマン公爵令嬢のアリバイは完璧です」


私のアリバイが証明され、王太子がうろたえる。


「だ、だがしかし……手下を使った可能性も」


「それはおかしくありませんか? 手下を使って盗ませたのなら、そのまま持ち帰らせればいい。依頼主の鞄に盗んだ物を隠す間抜けはいませんよ」


「それは……」


「ナウマン公爵令嬢は僕が落したブローチを拾って届けて下さいました。これは帝国の家紋入りで、かなり価値のある物なのですよ。ナウマン公爵令嬢が本当に手癖の悪い人間なら盗んで自分のものにしたはず。だけど彼女はブローチを拾って届けてくれた。このことからもナウマン公爵令嬢が他人の物を盗むような人ではないと、お分かりになりますよね?」


皇太子殿下が王太子を見つめニッコリとほほ笑む。


王太子に焦りの色が浮かぶ。


「だが、実際リリーの鞄からは盗まれたアクセサリーが見つかっている」


「それもおかしいですよね? なぜ皆さんはこんな高価な宝石のついたアクセサリーを学校に持ってきたですか?」


皇太子殿下が私の机の上に並べたアクセサリーを眺める。


「ルビーの髪飾りにサファイアのネックレスにエメラルドイヤリングにアメジストの指輪に黒真珠のブローチ……なかなか値が張りそうですね。今日はこのあとパーティーでも開かれるのですか?」


クラスメイトが皇太子殿下から視線を逸した。


「僕はこの学園の校則を知らなかったので高価なブローチを身に着けてきてしまいました。明日からは慎むようにと理事長に注意されましたよ」


皇太子殿下がブローチを見ながら苦笑いを浮かべる。


「きっ、貴族の令嬢たるものいついかなるときでも身だしなみには気を使うだろう!」


「身だしなみとはまた別の話ですよね? 校則では華美なアクセサリーの持ち込みは禁止されています。学校に用もなく高価なアクセサリーを持ち込むのはマナー違反です」


「ぐっ、そうかもしれないが……」



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