第15話 小百合~さゆる~

「………う~ん………あれ?」


 寝苦しさを感じてふと目を覚ます。

 見れば全身が汗まみれだ。

 ここ連日の猛暑は流石に常識を逸脱している。

 せっかくの夏休みだというのに、遊びに行く意欲すら湧かない。


「小学や中学の時は暑いのなんて気にならなかったのにな………。」


 すんすん………


 すんすん………


 シャツの匂いを嗅ぐ。

 自分の汗臭さに一瞬意識が飛びそうになるが、気にせずにそのまま嗅ぎ続ける。

 その位わたしは自分の体臭が好きだった。


「………ド変態だわたし………。」


 そう呟き、暫しの間汗だくになった自らの臭さを楽しむ。


「………何だか懐かしい夢を見ていた気がする………ん~……思い出せない………。」


 夢の内容を思い出そうとする。

 詳しい内容は思い出せないが、きっとまた小学生の頃の夢をみたのだろう。

 わたしはよくあの頃の夢を見るのだ。

 余程楽しかったんだろうな………。



 ※



 あの日以来、わたしは毎日のように『オモチャ』で遊んだ。

 使っても使っても次々と現れるちいさな街とこびとたちは、わたしの生活にとって欠かせない存在になっていた。


 家に居る時は勿論、外出中も常に持参していた。

 ………ショーツとか、靴下の中とかにね。


 毎日かなりの数のこびとが死んでいたけど、いくら使っても無くならないから凄まじい勢いで消費していた記憶がある。

 ………時には幼さ故の恐ろしい使い方をしていたっけ………。子供の頃の自分が少し怖い。



 中学生になってからはオモチャの遊び方が少しだけ変わった。

 如何にこびとたちを使って物事を楽しむかに注力していた。


 夜にこびとと添い寝したり、

 口に放り込んで歯磨きをさせたり、

 朝ごはんと一緒に食べたり、

 着替えを見せびらかしたり、

 筆箱に入れてシャッフルしたり、

 コンパスで穴だらけにしたり、

 分度器でぺちゃんこにしたり、

 汗をかいた衣類に突っ込んだり、

 お風呂で泡おなら爆弾したり、

 夕ごはんのデザートにしたり、

 煮たり焼いたりトッピングしたり、

 夜の遊びに一工夫したり………。


 とにかくオモチャの汎用性を拡げていった。

 このオモチャを余すところなく使いたくて仕方がなかった。

 まだまだ色んな遊び方があると信じて突き進んでいた気がする。


 そういえば、親戚の麻百合ちゃんとエッチな遊びをしたのはあの時が初めてだったっけ。

 あの時の麻百合ちゃん、凄く可愛かったなぁ………。



 そしてわたしは高校に入学した。

 まだ一年生だが、もう立派な大人(?)である。


 今では昔みたいな激しい消費の仕方はしなくなっていた。別に飽きてしまった訳じゃない。

 最近は身体もそれなりに成長して、児童ではなく女子学生として見てくれるこびとが増えてきた。

 つまり話の通じる相手に見られる事が多くなった。


 そこで思いついたのが、信用させてから一気に落とす遊び方だった。

 これまで毎日消費していたオモチャを敢えて数日の間だけお世話して充分に信頼を得た後、一気に性欲を爆発させて使い切ってしまうというやり方だ。

 この遊び方はオナ禁を必要とするので、溜めた分だけ気持ちよくなれるのだ。

 ちなみに現在は3週間が限度である。

 これ以上の我慢はわたしの理性がもたなかった。



 ※



 そういえば、つい先日新しい発見があった。


 今まではわたしの意思とは関係なく街とこびとがセットで出現していた。

 それ自体は今も変わらない。


 でもある日の夜、わたしがテレビで飛行機を見てふと、


(アレを挿れたら気持ちいいだろうな…。)


 と目を瞑りながら妄想していたその時。


「………え!?」


 わたしの足元にちいさな飛行機が現れたのだ。それも丁度良い太さで。


 多分100分の1サイズ位だろうか。

 飛行機の窓には慌てふためく乗客たちが見えた。


「え……これって………!」


 テレビを確認すると先程まで映っていた飛行機の姿が消え、現場はパニック状態に陥っていた。


「もしかしてわたし………!」


 試しにもう一度目を瞑って妄想を働かせる。


「………ど、どうかな………わぁ!」


 閉じていた目を開けると、足元にあった飛行機が更にちいさくなってわたしの足の親指と人差し指の間にちょこんと現れた。今度は10000分の1サイズだ。


「やっぱり……!わたし、自分の意思で小さくしたり場所を移動させたりできるんだ………うわぁ………!」


 初めて自分の意思で縮小と転移ができる事を知ったのだ。

 これは大きな発見だった。


「凄い………これならいつでも好きなものを好きなだけ………えへへ………。」


 だらしなくよだれを垂らすわたし。

 興奮が止まらないわたしは、極小飛行機をまた丁度良い太さにしようと目を閉じて念じた。


「………よし!………あれ………?」


 ところが足指の間にいる極小飛行機はつま先に移動こそしたものの、それ以上大きくはならなかった。


「あれぇ?なんでぇ~?」


(OヮO;)な顔で頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。


「………もしかして小さくはできても大きくはできない………?」


 その後も何度か試したけど、やっぱり大きくはならなかった。


「なるほどね~。そういう事か~。」


 理解したわたしはつま先の前にある極小飛行機を足の親指の腹で丁寧に平たくして上げた。

 そしてもう一度目を瞑り妄想を働かせる。


 目を開けたわたしの眼下には、100分の1サイズの飛行機一機と1000分の1サイズや10000分の1サイズの無数の飛行機が、空港ごと両脚の間に広がっていた。


「あはははは!凄い凄~い!!」


 この日の夜は久しぶりに大量にオモチャを消費してしまった。

 それ程の大発見だったのだ。


 わたしは自力で人や物を縮小転移させる事ができるようになったのだ。



 ※



 「………ふふふ………。」


 蒸れた自分の体臭を嗅ぎながら想い出に浸る。


 今なら解る気がする。

 以前わたしが出会った謎の女の子はきっと人間じゃないのだろう。

『あの時』、お風呂場でわたしはあの子の体液を子宮内に収めた。

 あの子の体液はわたしの身体に何かしらの力を授けてくれたのだと思う。

 おそらくその時からこの縮小・転移能力が使えるようになっていたのだろう。

 気付くのに5年もかかってしまった。

 色々と惜しい事をした。


 だけど後悔はしていない。

 あの女の子との濃密な性行為も、こびとのプレゼントも、そしてこの素晴らしい能力も、全てが彼女との想い出の証だ。


 あの子はわたしの『初めて』を捧げた相手でもあり、初めてできたお友達でもあり、生涯の恩人でもある。



 そしてわたしの恋人でもあるのだ。



 もしいつかまたあの女の子に出会う事があったら、次こそはわたしの名前を伝えたい。

 そして精一杯のお礼をするのだ。



 わたしのちいさなオモチャたちを使って。



「さてと………ふふっ♪」


 夏休みはまだ始まったばかりだ。

 今日はどうやって遊ぼうか。


 汗で蒸れた下着の中にこびとたちを転移しようか。

 それとも寝起きの臭い口内に街ごと転移してやろうか。

 もういっそのこと国ひとつ丸ごとわたしの下のお口の上にでも建国してあげようか………?


「んっ……もう濡れてる……あはっ♪」


 わたしはそっと目を瞑り、今宵のオモチャを足元に呼び出した。

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わたしのちいさなオモチャたち 潰れたトマト @ma-tyokusen

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