君の芽花たち
眠
君の目鼻立ち
眼球から芽が生えてきた。なんだか何やら右目が見えないなと思いつつも、痛みも違和感もないので鏡を覗くまで気がつかなかった。青く瑞々しい双子葉だった。何が育つのかはわからない。
芽のせいで目蓋を閉じることが出来ないので目が乾いてきて、それが気持ち悪くて目薬を差す。自然と常に潤いが保たれるわけなので、成程確かにここは芽が育つにはうってつけの場所らしい。角度的に肉眼では視認することが難しいので、都度都度鏡を覗かないと彼の成長が見られないのが残念である。
鏡で見る分には彼の背丈は既に3cm程度はありそうだったが、どういうわけかどんなに左目を傾けても彼の姿を見ることが出来ない。代わりに彼の根の存在感は頬の内側にひしりと伝わってきた。緩やかなカーブを描いて頬骨に沿い、放射状に私の身体に根付いている。鏡越しにしか見られないながらも、彼は順調に生長しているらしい。
湯船に浸かるときは彼が茹だるといけないので、ぬるめのお湯にする。ふと思い立ち、湯船の中に頭ごと体を沈めてみた。すると瞳の粘膜を通して、しわしわと水分が体の中に浸透する。目薬を差すときよりもずっと良い。喉が渇いたときに水を飲んだときと同じ心地良さを感じた。
そのとき、腕の辺りに微かな痛みを感じて思わず湯船から顔を上げた。手首と肘の間、腕の背の部分が吹き出物のようにぷっくりと赤く腫れていた。まじまじとそれを眺めていると、ふいにそれに亀裂が入る。
縦に割れたその隙間から青く瑞々しいものが姿を覗かせる。背中から少しずつ、窮屈なところから抜け出そうとするように。やがてぷるりと体を震わせて、若い芽がその双子葉を広げた。蛹から羽化をする蝶のように現れた彼を見て、私は顔を綻ばせる。
そうか、君はそんな顔をしていたのか。
君の芽花たち 眠 @nemuru
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