第20話 二組の魔法少女

 現状、魔法少女モノクロームの三人の中で、実力が抜きん出ているのはシザースグレーである。

 しかし、彼女らにはそれぞれに強みがあった。

 ロックブラックはその硬い体を活かした特攻が得意だった。敵の反撃に耐えうるその身体は、他の二人を守る盾となるだろう。

 ペーパーホワイトは、遠距離からの攻撃や支援が得意だった。今までのように怪人の視界を塞いでみたり、紙吹雪を索敵に使用したりもできる。

 戦い方を一番工夫できるのがペーパーホワイトだった。ただ、攻撃力が弱いのはネックな部分である。

 そして、シザースグレーはオールマイティであり、とどめの一撃役でもある。

 彼女のハサミの一撃に、彼女らの勝敗がかかっていると言っても過言ではなかった。

 修行の最中。

 シザースグレーが他の二人に提案した。


「私たちは三人チームでしょ?」


 ロックブラックとペーパーホワイトの二人は、その言葉に力強く頷いた。


「だからね。お互いの短所をサポートして、長所を伸ばすような闘い方ができればいいなって」


 シザースグレーの言葉に、二人は思わず笑った。


「そうだね。私たちは三人チームだもんね!」


 ロックブラックが「アハハ!」と大きく声を上げながら拳を突き出した。

 ペーパーホワイトも、微笑みながら「そうですね」と頷いた。


「私たちは三人チームですよね」


 彼女たちが笑ったのは、シザースグレーに頼られていると実感したからである。

 つい最近までのシザースグレーは、私たちのことを戦力と見做していなかった。彼女にとって、ロックブラックとペーパーホワイトは一緒に戦うチームではなく、一般市民と変わらない保護対象だったのだ。

 しかし、先ほどのシザースグレーの言葉は、二人のことを戦力と認めた発言である。その言葉に二人は嬉しくなったのだ。

 シザースグレーは二人のが賛同してくれたことに、思わず頬を染めた。

 シザースグレーが思い出していたのは、つい最近までの独りよがりな自分のことだった。

 シザースグレーはつい最近まで、魔法少女の責務を自分一人で背負えばいいと考えていたのだ。しかし、自分には仲間がいると気づき、二人に頼ることを覚えたシザースグレーは、自分が独りでないことに嬉しくなった。

 ロックブラックは笑いながら言った。


「シザースグレーは可愛いなぁ!」


 その言葉にシザースグレーは頬を膨らませる。


「揶揄うなら私一人で戦うけど!?」

「うわぁ! ごめんって! 一緒に戦おうよ! いや、一緒に戦ってください!」


 ペーパーホワイトは無表情で告げた。


「私たちはシザースグレーが一緒に戦ってくれないと、すぐに死んでしまいますよ」


 その言葉にシザースグレーは青ざめる。


「その脅し方はなんなのさ……めちゃくちゃ有効だよぉ……」


 シザースグレーは咳払いをして場を整える。


「とにかく、それぞれの短所を補い、長所を伸ばそうねってこと! 一人一人の実力に頼るんじゃなくて、コンビネーションを取って三人で怪人を倒そう!」


 ロックブラックが「オッケー!」と言いながらストレッチをした。


「コンビネーションね! フォーメーションAとか、プランBとか、そういうやつね!」


 ペーパーホワイトが顎に手を当てた。


「なるほど。魚鱗ぎょりんやファランクスなどの戦略を立てようということですね?」


 シザースグレーは「うん!」と頷いた。


「ペーパーホワイトが言ってることは全くわかんないけど、多分そういうこと!」


 それから彼女たちは修行を再開した。

 そんな彼女たちは、身の回りに起こっている異変に気づいていなかった。

 ここ二、三日、連続して怪人が現れていないという異変に━━


 ●


「おらぁ!」


 赤く光る神の剣が、怪人を肩から袈裟斬りにした。怪人は体液を撒き散らしながら膝をつく。

 怪人に斬りかかったレッドソードこと紅井ヒイロは、うずくまる怪人を見下ろしながら、トドメを刺すために神の剣を振り上げた。


「よわ」


 そう言って、ヒイロは剣を振り下ろした。怪人の息の根が止まる。

 怪人は地面に崩れ落ちると、その身体を消滅させていった。

 怪人にトドメを刺したヒイロが、剣についた血を払いながら、私たちの方向に振り返った。

 私たちはヒイロの戦いを見学していた。


「弱すぎて修行にならないよ」


 ヒイロは退屈そうにあくびをしながら、二人の元へ戻っていった。


「てんちゃんは戦闘経験を積めって言ってたけど、魔族退治程度じゃ、なんの経験にもならない」


 その意見には私も賛成だった。

 魔法少女プライマライトカラーズの私たちは、魔人に呆気なく殺されてしまったことを反省し、自分たちに足りないものは何かと考えた。

 考えた末に、自分たちを殺した魔人が言っていた言葉を思い出したのだった。


「そういえば、戦闘経験が足りないって、誰かに言われた気がします」


 私がそう言うと、ヒイロは「戦闘経験……」と悩み込んだ。

 そこでソウが紅茶を飲みながら提案をした。


「じゃあ、人間界に迷い込んでくる怪人を倒して回るのはどうだい? いい経験になりそうだけど」


 その意見を発端に、私たちはここ二、三日、現れる怪人を狩り続けているのだ。

 しかし、ご覧の有様だった。

 迷い込んでくる怪人の実力程度では、私たちの修行には実力が不十分だった。

 私たちには魔人が警戒するような、魔力が元から備わっているらしい。私を殺したレインという魔人がそう言っていた。

 魔人が警戒するのだから、怪人など簡単に切り捨てられるのは当然だ。現に今も、ヒイロの軽い一振りだけで怪人を葬り去ることができてしまった。

 ヒイロが剣を赤い光に戻しながら言った。


「やっぱり、怪人じゃなくて、魔人と戦うのがいいんじゃない?」


 その言葉を聞いて、私は即刻否定した。


「そ、それはダメよ! 私たちの実力では、魔人には到底敵わないもの!」


 私ヒイロの肩を掴む。


「うわ。どうしたのさ。そんなに必死にならないでよ」


 ヒイロは私のおでこを押しながら言った。


「ていうか、それでよくない? だって私たち━━」


 ヒイロは少し微笑んでいた。


「だって私たち、死なないし」


 ヒイロの言っていることは正しい。

 私たちはもし死んでしまったとしても、てんちゃんの蘇生によって生き返ることができる。━━らしい。私は未だ信じられないけれど。

 私は叫んだ。


「嫌! 私はもう死にたくない!」


 私の言葉にヒイロが「はぁ?」と冷たい声を漏らす。


「だからぁ、私たちは死なないんだって。わかる? のっとだい! だよ!」


 私はヒイロに詰め寄る。


「違うわ! 私たちは死んでるの! 生き返っているものの、確かに一度死んでいるの!」


 私の目から涙が流れていた。


「? だからなんだっての? いいじゃん。生き返ってるんだから。ヒスイが言ってること、よくわかんない」


 ヒイロは本当に不思議そうな表情をしていた。どうしてそんな表情をしているのか。私にはヒイロが理解できない。

 私たちの間にソウが割り込んでくる。


「二人とも、それは個人差というやつだよ。何事にも自分の考えがあり,相手の考えがある。自分が相手ではないこと、相手が自分ではないことを理解しようね」

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